第十五話「宇宙の朝」
大声援のなか、健康美部に続き、ヤンキー部も太鼓橋を渡った。橋を渡った先、開かれた天満宮の門の中で両部は睨みあっている。
ヤンキー部の面々はいかにもガラの悪そうな態度で薄ら笑いを浮かべ、健康美部の女子たちを色んな角度から睨む。健康美部はそんなヤンキーたちを、凛とした佇まいで見据えていた。
そして、大太鼓の音が轟いた。
「開始めッ!」
開始の合図とともに、両部の足元に大きな詠力陣が発生し、全員の姿が粒子となり消えてしまった。
「あれ!? 苑紅さん、みんな消えたっすよ」
「この手の広範囲で戦う歌合は、入り口でいきなり戦いが始まらないように、チームごと建物敷地内のどこかに飛ばされるんだよ」
「そうなんすね。相手を探すところから始まるってわけっすか?」
「そ。索敵と隠密、隙があればステルスキルを狙うのが、広範囲戦の戦い方だよ」
「なるほどー! こりゃ実戦的っすね!」
はぁ〜、なるほどなぁ〜。
将来、歌人となって実戦になれば、試合形式で戦うわけにもいかないからね。
「あそこ! 渡り廊下っぽいところにヤンキー部の人たちいますよ!」
琴葉が指差した反物のライブカメラを皆が見た。
三人のヤンキーたちがポケットに両手を突っ込んで円陣になっている。
「邪悪同盟☆魔亜瓶立苦、二代目総長、頭はらせてもらってます! 恋枕です。夜露死苦!」
「夜露死苦!」
ライブカメラからヤンキー部の鮮明な音声が流れた。マイクも仕込んでるってことか。
隠密も作戦の内って苑紅から説明があったけど、あんなでかい声出してたら、すぐ見つかるんじゃないかな……。
「健康美の奴らがなんだバカヤロー! ビビってんじゃねえぞオメーらぁ!」
「うーす!」
「命はれよ!」
「うーす!」
「初っ端から、ぶっこんでいくんで夜露死苦ー!」
「夜露死苦ー!」
観客席中に、暴走族の会合の冒頭挨拶のようなやりとりが大音量で流れた。
何だかすごい気合いを感じる。これは健康美部の女子たちが心配になるな。
その時、円陣を組んだヤンキー部たちから詠力が立ちのぼった。
このライブカメラ、詠力の強さも配信してくれるのか!
『爆音で闇を斬り裂く鬼となる、捧ぐ青春「華」咲かせます』
ヤンキー部が全員で一首の短歌を詠んだ。
「苑紅さん! あれ合わせ歌っすよ!」
ヤンキー部の足元に大きな詠力陣が現れると、無数の光が筋となって立ちのぼり、ヤンキーたちの周りを回転しはじめた。
光は強さを増していき、ヤンキーたちの全身を白く包む。
これは、まさか!
光が弾け霧散すると、中から特攻服を着たヤンキーたちが姿を現した。
何で! 歌装束の錬成って、すごいハードル高かったんじゃないの!?
「え! 変身した! 苑紅さん! 歌装束の錬成っすよ! あいつらも賓客の素材持ってたってことっすか?」
「いや、違う。あいつらのは装束のみの錬成だ。戎具との二重封印じゃなくて、オーソドックスな封印解除だね」
そういうことか。
でも駄目だ! 今回、この大会で蒼空が華々しくニュー歌装束を錬成でお披露目する予定だったのに、あんな三枚目キャラの奴らに先を越されるなんて腹立たしい!
特攻服姿になったヤンキー部は、そのまま渡り廊下に座りこんだ。ヤンキー座りってやつだ。
その視線の先には、暴走族の挨拶の声を聞いて駆けつけたらしい、三人の女子生徒たちがいた。
「おいおい、姉ちゃんたち。ここは通行止めだぜ〜?」
総長を名乗った男の雰囲気は、さっきまでのユーモラスなヤンキーの感じではなく、かなりの威圧感があった。
この威圧感、詠力を纏ってる……?
「苑紅さん、あの装束、詠力が強いっすね」
「ウタで封印されてるから、通常の歌装束より効果が強いってわけだね。あのプレッシャーはその効果だろうな」
「しかし……、両部とも、攻撃する様子が全くないな」
福丸がライブカメラを見ながら言った。
健康美部のリーダーと思われる女子生徒が、強い向かい風のような威圧感にも負けず、一歩踏みこんだ。
それと同時にヤンキー部の総長が詠歌した。
『月光を背中に浴びて駆け巡る 天下無双の暴走魂』
総長の眼前に現れた詠力陣は渦を巻くと光の粒子となり、ヤンキー部全体に降り注いだ。
詠力の威圧感はさらに跳ねあがり、そのプレッシャーに健康美部の三人が後ずさった。
「くっ……」
「おいおい、姉ちゃんたち、ここは通さねえって言ったはずだぜ〜?」
ヤンキー座りのまま、総長が健康美部を睨みつけた。
「さぁ! まずは邪悪同盟☆魔亜瓶立苦が詠みました! すごいプレッシャーを浴びせています!」
実況の馬時ががなる。確かにすごい威圧感。でも、最初からもっと暴力に頼った技が来るのかと思ってたな。
「苑紅さん、今の短歌……。攻撃する気ないっつーか、とにかく「びびらせる」って歌心しかないっすね……」
「それがあいつらの詠みたい歌心ってことみたいだね……」
「え、それって」
蒼空が苑紅に質問しようとした時、実況と解説の声が響いた。
「野口さん! 魔亜瓶立苦はチャンスと思われますが、攻撃する様子がないですね!」
「はい。彼らの部の正式名称は「未成年問題行動研究部」でして、まぁ、いわゆる不良の研究をする部なんですよね。所属部員はもれなく全員が、成績も素行も良い優等生ばかりで、暴力行為は野蛮と考えているらしいです」
「つまり、彼らは暴力は振るわず、相手をただ、ビビらせて追い払うという戦法を取っているんですね!」
え! そんなのヤンキー漫画に憧れてるだけの良い子の高校生じゃん!
変なしかめっ面を色んな角度に傾けて凄んでるけど、それ以上の攻撃はしないつもりなのか……?
でもさ〜、索敵、隠密、ステルスキル! 三人合わせ歌の大魔法発動! みたいな戦いを期待してたのに……。
もうここは健康美部に期待するしかないな。
「さぁ、姉ちゃんたち、お家に帰るといいんだぜ〜!?」
強力な威圧感に負けず、健康美部の三名が歩を進めた。
「ここで帰るわけにはいかない。私たちには使命があるんだ!」
「何だとだぜ〜?」
両手で威圧感から身を守りながら、健康美部のリーダーがさらに一歩近付いた。
「みんなを……。みんなの心と体を健康にしたい! そして美しいライフスタイルをともに送りたい!」
そんな目的なのね……。
健康美部のリーダーが、胸ポケットに刺していたボールペンを取り、くるくると回しながらヤンキー部に構えた。
『雨上がり、春のやさしい木漏れ日に似ているそれを覚えてますか?』
リーダーの詠歌に合わせてペンが強く光りはじめた。
ペンは不自然にぐねぐねと伸びると、書類を挟むタイプのバインダーに変化し、リーダーの手の中に収まった。
「あれも歌戎具っすか!?」
リーダーがもう一方の手をヤンキーたちにかざす。
「健康診断!」
リーダーがかけ声をあげると、一瞬で赤い格子で出来たキューブが発生し、ヤンキー部を取り囲んだ。
「うお! 何だこれ! やべぇ!」
キューブ内の赤い格子の線が、ヤンキー部の体を調べるように縦横に規則正しく動きはじめる。
「苑紅さん! あれって愛蘭さんの採寸のウタっぽいっすね!」
「だな。愛ネェさんの「羅武採寸」と同系だけど、もっと内面的な要素に詠力を振り分けてるな」
無数の赤い格子線はヤンキーたちの全身をくまなく調べ終えると、空中を高速移動しながら紙の形に変化し、リーダーの持つバインダーに集まり、まとめられた。
ヤンキー部は自分たちの身に異変がないことを確認すると、健康美部を睨みつけた。
「てめぇ、俺たちに何を……」
「建立連二年! 葛原百重!」
「えっ! 何で俺の名前を……」
健康美リーダーがバインダーの書類に目を通しながら相手の名前を叫んだ。
ウタで相手の個人情報を読み取ったってこと?
「幼少期より肌荒れや鼻炎に悩まされていたが、母の献身的な食事療法により、中等部に上がる頃に症状はほぼ改善される」
「な……なんで知ってるんだよ!」
「百重! さっきのウタの効果だ! 惑わされるな!」
リーダーはバインダー片手に、百重に鋭い視線を送りながら続けた。
「中等部で勉学に励み、念願叶い雲雀の高等部に無事進学するが、入学早々、反抗期に入り、母親に冷たく接し始める」
「……やめろ」
「本人は母への態度を良くないことだと認識はしているが、うまく直すことができず、ずるずると悪い態度を取りつづけている」
「やめろ!」
「母の弁当にもケチをつけるようになり、昼食は学食で売っているジャンクフードで済ませているため、体調に良くない兆しを感じている。ちなみに、弁当にケチをつけられた母が心を痛めていることも十分感じており、日々後悔の念が強くなっている」
「やめてくれ……」
うわぁ……。百重っていうヤンキー男子、もう泣きそうな顔になってるよ。
「苑紅さん、ウタでこんなことまでわかっちゃうんですか?」
そうだよね。さすがにちょっとエグいよね……。
「健康美部の奴がさっき言っただろ。「みんなを健康にしたい」って。その歌心に忠実に詠んでるから効果が最大になってるんだ。普通に詠んでも、あそこまで心の中を読めないよ」
「なるほど……。でも相手を健康にするために戦うって、よくわからないですね……」
確かに。今から健康についてのカウンセリングでも始めるのだろうか。
「旅浜!」
「はい!」
健康美リーダーが、後ろに控えているメンバーの名前を呼んだ。
旅浜と呼ばれた女子生徒が手を合わせて詠歌する。
『あの夏にもどれないのは幸せが眩しいからと思いたかった』
「来るぞ! ウタだ! 返歌しろ!」
「うおー! どういう歌かよくわからねぇ!」
旅浜の眼前に現れた詠力陣が収束し、光の玉となって百重に向かい一直線に飛んだ。
「百重! 避けろ!」
「ガッ!」
光の玉が直撃すると、百重は崩れ落ち、膝をついてしまった。
「ウタ! 決まりましたよ!」
「ん〜〜〜? あのウタは……?」
苑紅も何だか困惑してるようだ。
「お母さん、ごめんなさい……」
「百重! しっかりしろ!」
「明日から、お母さんのお弁当持っていくね……。野菜も食べるよ……」
すげー。何かわかんないけど、すっかり良い子になっちゃってる……。
「苑紅、あのウタは……」
「詠力的には、心体の弱くなってる部分をケアした感じだけど……?」
苑紅も頭を捻るなか、馬時と野口の声が響く。
「野口さん! 健康美部のあのウタは一体何でしょうか!?」
「えー。健康美部の部員たちは能筆連の生徒が大半でして、部活動は医療行為よりも薬膳やメンタルヘルスに寄っています。先程のウタは、心身の弱ってる部分を直接ケアして、自律神経を整えたということですね。後悔を吐露しだしたのも、その一環です」
「相手を健康にさせて勝利を狙う! 部活対抗戦らしい異端の歌合です!」
能筆連は医療行為や封印の勉強が中心と聞いてたけど、そんな心の健康クリニックみたいなことを歌合でやっちゃうのか。
こんなマインドコントロールみたいなことできたら、何だってできちゃうよ。
「しっかりしろ! 百重! 俺たちは邪悪同盟☆魔亜瓶立苦だぞ!」
「総長、ごめんなさい……。俺は明日から、お野菜同盟♪健康的生活になります……」
百重はどうやら戦意喪失でリタイアのようだね。
ヤンキーを戦いの中で更生させるとは、健康美部、予想に反してかなりすごいぞ。
「装具連三年! 佐伯牡角!」
「うっ……」
「牡角! 耳を貸すな!」
「中等部から、ずっとニキビで悩んでいる」
「う、うん……。色々薬塗ったりしてるんだけど……」
「少し乾燥肌ということもあるけど、腸内環境の悪化が主な原因と考えられます」
「治るの……?」
「治ります」
いよいよカウンセリングが始まったな。
牡角も前のめりで健康美リーダーのお話を聞いてるじゃないか。
「バランスの良い食事を一日三食、とくに食物繊維が多いものを食べてください」
「えーと、例えば?」
「大豆、さつまいも、ごぼうなどですね。バナナも食物繊維が多いです」
「バナナ大好き!」
「それは良かったです」
今まで、刀で斬りあったり、炎や氷の魔法攻撃みたいな歌合ばっか見てきたけど、これも一種の歌合なのか。この学校は本当に奥が深い。
「住坂!」
「はい!」
健康美部の最後の一人の生徒が、両手を合わせて詠歌する。
『手をとって月を囲んで輪になって、宇宙は廻る、朝が生まれる』
住坂の眼前に生じた詠力陣が、先程と同じように光の玉となって牡角に命中した。
「うわぁ! あれ……。何ともない……」
「腸内の善玉菌を活性化するウタを使っておきました。肌の保湿効果も追加しています。これは一時的ですので、今日からバランスの良い食事を心がけてくださいね」
「わかりました」
「お大事に」
牡角は病院で良い薬をもらったかのように、ホクホク顔になっていたが、ハッとして健康美リーダーを睨みつけた。
「ニキビまで治しちまって、いいのかだぜ~? 悪いが歌合では勝たせてもらうんだぜ~?」
ファイティングポーズを取り、再び戦意を奮い起こした牡角に、健康美リーダーが微笑みを向けた。
「住坂」
住坂は呼ばれると、牡角に向かって指を鳴らした。
「どっさり爽快!」
牡角は急に青ざめ、お腹を抑えた。
「うっ……! うっ!」
「どうした! 牡角!」
その様子を見ていた住坂が、物憂げに視線を外しつぶやいた。
「腸内善玉菌の活性化を加速させました……」
牡角はお腹を抑えたまま、ちょこちょこと小走りで審判の白逢に近付いた。
「おと……おトイレ! は、どこですか!?」
「……失格になりますよ?」
「はいっ! もうっ! おねがい! むりっ!」
「……入り口の間の右隅にあります。急ぎなさい」
牡角は入り口の広間に、ちょこちょこと小走りで向かっていく。
総長も、牡角の切羽詰まった様子に、黙って見守るしかできなかったようだ。
大惨事にならなくて良かった……。
百重と牡角が戦線離脱したことにより、合わせ歌の詠力が急激に落ちてるのを感じる。
残るは総長のみだね。
「短歌連三年、笹井 恋枕」
「ケッ……! 言っとくがな、俺は心も体もスーパー健康だぜ〜? このツッパリスタイルが俺の健康美ってやつよ!」
「そうですね。あなたはとても健康です。食生活も充実しており、心体ともにとても健康です」
「へっ! そうだろうよ! ここから巻き返してやるんだぜ~?」
「奈良漬け工場の娘たち……」
「……!!」
ん? 健康美リーダーが言った今の言葉、聞き覚えがあるな。
「苑紅さん、奈良漬け工場の娘たちって……」
「あぁ、設立試験の時、野球部の奴がやってるっていってたエロゲーのタイトルだな……」
そうだ。それだ。
まさか……、あのカルテには、そんな情報も書かれているの?
「そんな……。まさか……」
「恋枕さんは、奈良漬け工場の娘たちシリーズ、第三段がとてもお気に入りのようで、毎晩……」
「やめっ! まって!」
総長の顔色が一瞬で青ざめてしまった。
野球部の青木、可哀想だったなあ。あんなふうになるのかなぁ。
「私は、何も軽蔑などはしていません」
不安でいっぱいの総長の顔を、健康美リーダーが鋭く見据えた。
「とても健康な高校三年生ですね。どうぞ……。お励みを」
その声は、とても冷たく、凛とした響きだった。
健康美リーダーは、感情のない表情で総長を見下ろす。
リーダーが持っている束になったカルテには、他にどんな凶悪なことが記されているのか……。
やがて、総長は力なく両膝をつき、うなだれてしまった。
「参りました……」
「勝負ありッ! 勝者、健康美部!」
青い装束に身を包んだ白逢が片手を上げて、宣言した。
瞬間、大歓声が天満宮を包む。
こんな歌合もあるのか……。すごい勝負だった……。
「第一試合の勝者は健康美部です!」
大歓声が一段落すると、観客席はざわざわと、困惑を孕んだ話し声に変わっていった。
あんな赤裸々な個人情報を、健康美という信念のもと、大観衆の前で暴くなんて、とんでもないウタの力だ。そりゃ男子生徒は気が気がじゃないだろうな。
「すげぇ勝ち方っすね……」
「攻撃のウタには精神汚染とか状態異常系とか色々あるけど、相手を健康にして勝つってのは初めて見たよ」
「ああいうウタもあるんすね」
「健康美部が使ってたウタ自体は、療治班が使うものに近いね。ただ、歌心にかなり忠実だから、戦意喪失に達するまでの効果が出せたってことだな」
太鼓橋では健康美部の三人が颯爽と歩いていた。歓声に応え笑顔で手を振っている。
後方では二人のヤンキーが療治班に肩を借りて歩き、その隣を一人だけ、どっさりとデトックスしてきたであろう、ホクホク笑顔を浮かべた、ニキビのヤンキーが歩いていた。
「健康美部の凱旋です! 素晴らしい戦いでした! 実況席に健康美部の広報担当の方をお招きしています!」
「こんにちは! 健康美部一年生、広報の栗木です! 健康美部では皆さんの心と体のお悩みを解決しています! 放課後、予約制でカウンセリングを行っていますので、ぜひご参加ください!」
そういう部活なのね。部活対抗戦への参加は宣伝でもあったわけだ。
ヤンキー部との歌合はとてもいい宣伝になったようで、観客席の女子生徒たちが伝冊を操作して、健康美部について調べているようだ。
一方の男子生徒たちは言葉少なめにやや青ざめている。
「健康美部の奴ら、これでかなり部費稼げるだろうな」
「普段の部活で部費稼ぎできるってことすか?」
「そうだよ。装具や戎具、装束系の部活だと、武器や装具を売ったりして部費を稼いでる」
そういえば、絡繰装具部は、設立試験の後に般若砲が売れたとか言ってたね。
「療治系の部活は、戦闘系の部活と提携して予算もらったり、こういう大会の療治班として参加して金もらったりってのが主だけど、今回みたいに健康や美容のサービスも金になりそうだな」
「おー! 第三もそういう稼ぎ方しましょうよ!」
「戦闘系の部活ってのは、大会の賞金や実績作りで稼ぐのがメインだからなぁ……。便利屋みたいなバイトしてる部もあるけど……」
「なるほど……。便利屋っすか……。ふむ」
「蒼空、お前、良くないこと考えてるだろ」
友禅が蒼空に渡したお金は、電車賃でほとんど消えちゃったし、たしかにバイトしないと高校生活が充実しないな。
「おい。ユポポ! 便利屋やろうぜ!」
「なんだそれだし」
「色んな人から色んな悩みを聞いて、解決して金をもらうのさ! 金があれば色んなもの買えるぞ!」
「もしかして、お菓子たんまりもらえるし?」
「当たり前だろ! 食べきれないくらいの量になるぞ!」
「ふぁ〜〜! ほんと〜〜? すごいし〜〜!」
「おし、今から色んな人に悩み聞きに行こうぜ!」
「おい! お前ら、早速かよ! ったく。試合までに帰ってこいよ!」
思い立ったら即行動。蒼空の長所だね。蒼空の背中に乗って私も移動する。
しかし、ほんとに色んな部活があるなぁ。
たくさんの力士たちが四股を踏んでる。あれは相撲部か。
開会式の時にいた農夫の男は、同じく農作業用の服を着た女性たちと、クワなどの農具を点検している。
ほんとにこの辺の土地を耕す気なんだろうか。
蒼空の背中に乗りながら周りをキョロキョロしていた私の眼前に、突如大きな獣の顔が現れた。
私の悲鳴は誰にも聞こえない。
飛び出そうになった心臓を抑えながらふと見ると、蒼空が虎の哦獣の顔を撫でていた。
「よーしよし。いい子だな!」
「あれ? 君は?」
開会式の時、哦獣に跨っていた少女が、虎をブラッシングしながら蒼空を見た。
「第三短歌部の草凪蒼空っす!」
「おー、有名人だ。はじめまして。と、この子は……」
「あたい、ユポポ! よろしくだし!」
「やっぱり! 伝網連のニュースになってたお猿さんの生徒だね。賓客に会うのは初めてだよ。よろしくね」
少女はしゃがみこんで、ユポポの小さな手と握手する。
「この哦獣、おとなしいっすね!」
「君、一年生でしょ? 皆、最初は哦獣を怖がるのに、君は平気なの?」
「小さい時は喰われそうになったし怖かったっすけど、山で色んな哦獣に出会って仲良くなったし、今は平気っす」
「喰われそうになったの!?」
私が初めて蒼空に出会った時のことを思い出す。あの時は泣き虫だったくせに、立派になりやがって……。
「前足で体抑えられて、よだれダラダラかけられて、マジでヤバかったんすよ!」
「え〜〜〜??? ふふふ。そんな経験したのに、今は全然平気なんてすごいね」
蒼空の足元には、哦獣に乗っていた二匹の子犬たちがじゃれついている。
少女の頭の上でじっとしていたガマガエルがじりじりと動き、ぴょんとジャンプすると蒼空の頭の上に着地した。
「うお! 何だこれ!」
「え〜!? あははは! 君、すごいね〜。みんな懐いちゃった」
ブラッシングしていた少女は蒼空に向き直った。
「私は、鳥獣連三年、哦獣術部部長の大原水縹だよ。よろしくね」
「よろしくっす!」
「哦獣たちを撫でにきたの?」
「いや、便利屋を開業したんで、色んな人の悩みを聞こうと思って!」
「便利屋?」
その時、会場中に割れんばかりの大歓声が響いた。
「うお、なんだなんだ?」
私たちが反物のライブカメラに目を向けると、赤い羽織を着た男子生徒が見えた。その男子は、血でも拭うように、ゆっくりと紙で刀を拭っている。
すぐそばに立つ柔道着の生徒の全身に、突如無数の青い鎖が巻き付き、そのまま倒れてしまった。
「勝負ありっ! 勝者、壬辰流剣術部!」
ライブカメラでは、三人の赤い羽織の剣士たちが、それぞれ別の場所で柔道部員を斬り捨てたようだった。
「まじか。もう決着ついたのか……」
「壬辰流剣術部、うちの学院の剣術系部活、最強クラスだからね」
「柔道部の人たちには、夜鹿の斬撃も効果なかったのに……」
「さて」と水縹が虎の哦獣をポンと叩いた。
「次は私たちの試合。蒼空君、ユポポ、この子たちのこと、応援してあげてね」
「押忍!」
「応援するし!」
壬辰流剣術部への喝采が続くなか、水縹はひらりと虎の哦獣に跨がった。




