第十話「ぬかるみの春」
『願はくは春嵐の下身罷りぬ 卯の月の卯の生日足日に』
『春嵐の陽が愛でし草木の熢下の花に泪濺ぎぬ』
空中でバチバチと詠力紋が飛び散り合い、相殺されたその相聞歌の後、賓客は蒼空の瞳を見つめていた。
宝石のような瞳に吸いこまれるように、蒼空はその頬に手を伸ばす。
……嵐山で会ったあの賓客も、もしかしたら蒼空の瞳越しに私を見つめていたのかもしれない。そう思ったのは、光の玉を差し出した後も、ユポポが私のことを気に留めるでもなく、いつもの振る舞いに戻ったからだった。
ユポポは確実に私を見ていた。それは間違いない。
でも、私を見ていたわけじゃない? だとすれば、何を見ていた?
位置か……? それはつまり、座標ってこと……?
私の頭の中には、答えの出ない疑問が押し寄せていた。
これまで受け取った光の玉は、どう考えてもユポポ一人から受け取ったものではない。
だって、ユポポが生まれてまだ、二年かそこらしか経ってないんだから。
なら、誰が? いつ? なぜ?
賓客か……? あの嵐山の賓客も……?
知れば知るほど、私は混乱の海に投げ出され、溺れていく。
思えば、私が意識を取り戻して、蒼空に初めて会った時、感情は乏しく、「力」もちっぽけなものだった。「力」に命令ができるとはいえ、あの時は友禅に蒼空の危険を知らせることしかできなかった。
光の玉を取りこむごとに、私の力は増していった。
蒼空と夜鹿が戦った、第三短歌部の設立試験の副将戦では、「今際ノ歌」の力もあり、私は実体化し、さらなる力を発揮できた。
今さっき、ユポポの光の結晶を受け取って、私は力がさらに上がったことを感じている。
それはいい。それはいいが、気になるのは私の頭に流れこんだ記憶だ。
私が住んでいた世界は、とんでもない大災害に見舞われたのか?
「短歌なら私が教えてあげるよ」
あれは私の声だった。
私が? 一体、誰に短歌を教えたんだろう。
誰かに教えるほどの知識も技術もないのに……。
あぁ! 考えても無駄だな。また光の玉が降ってくるのを待つか……。
考えてみれば、ここ二年ほど、光の玉はほとんど降ってきてない。
毎日のように降ってきた時期もあれば、半年の間を空けることもあった。
突発的なことだからと気に留めていなかったけど、二年も降ってこなかったことはなかった。
それに、ユポポは初めて、私を視認して光の玉を差し出した。それは、視認できる距離だったから? だとすると、嵐山の賓客も、私を視認しようとしていた?
私、あれだな。考えを深く巡らせて問題を解決するタイプなんだな。前世では学者とか哲学者だったのかもね。
とはいえ、もう疲れました。こんな体じゃ糖分も補給できないしね。
「ははは! いいぞユポポ! もっかいポーズ決めてくれ!」
「シャキーン!」
「うははは! すげーカッコいい!」
能天気なくらいに明るい蒼空とユポポのやりとりが耳に入って、私は疲れた思考を停止させる。
トリマー研究部によるトリミングの後、ユポポは学院の制服のデザインに合わせたオーバーオールをプレゼントされていた。
「ユポポちゃん、学院の生徒なのに制服がないなんていけないワ!」という、愛蘭の粋な計らいだった。
オーバーオールに身を包み、ユポポは蒼空に煽られるまま、何度も得意げな表情でカッコいいポーズを決めている。
ボサボサだった毛も、トリマー研究部によって綺麗にまとまった。
この子の学院生活もいよいよ始まるんだな。
苑紅の隠れ家改め、第三短歌部の部室となったこの部屋は、「隠れ家」という名がぴったりな、古い洋館の一室のようなしつらえだ。アンティーク家具と、部屋を囲むように設置された背の高い本棚が、厳格な空気感を醸していて、でもとても居心地がいい。
前世は学者、なんて思いついた私は、重厚なデザインのハードカバー本ばかりがびっしりと並ぶ本棚をしげしげと眺める。
なになに、『活眼の心構え』。ふーん。
これは『科学世界と陽明学」か。面白そう!
『古代言霊論』、これも面白そうだな〜。
『古代科学戦争の顛末』。わー、これは読みたい!
といっても、実体のない私は、本に触れることすらできない。
「力」で本を動かせば、読めるには読めるんだけど、完全にポルターガイストだし、大騒ぎになるしなぁ。蒼空が興味を持って、読んでくれたらいいんだけど……。
肝心の蒼空はユポポと騒ぎまくって、「いい加減にしろ」と苑紅にたしなめられた。
「さて」
定位置のソファーの上で、苑紅が胡座をかく。
「あたしらの装束は愛ネェさんに託した。あとは大会二日前に、あたしと福丸、夜鹿の戎具を愛ネェさんに預けて二重封印を行う。これは順調だろうな。残る問題は……」
「試合場」
別のソファーに座り、文庫本のページをぺらりとめくりながら夜鹿が言った。
「だぁーー!! 結局最初の問題に立ち戻るんだよな!」
「苑紅、部活対抗戦はもう四日後だぞ。練習もしないで勝てるほど、相手はぬるくない」
「わかってるよ福丸……。あたしも試合場持ってる部のヤツに声かけてみたんだけどさ……」
そう。苑紅も動いてなかったわけじゃない。
しかし、伝網連のサイトで、「第三短歌部に協力した部の絶望の末路 〜生徒会の暗躍〜」なる記事がアップされ、学院内で大バズリしてしまっていた。
おそらく生徒会の差し金か、生徒会に癒着のある一部の伝網連生徒による忖度だろう。
この記事が学院内に出回ったせいで、第三短歌部に試合場を貸してくれる部は皆無となっていた。
愛蘭や天羽など、工藝棟の面々には気骨のある者もいるが、基本的に倭歌棟の生徒は情報に踊らされ保身に走るか、そもそも最初から無関心かのどちらかだった。
これも前に苑紅が言っていた、連による性格の違いってやつなんだろうか。
皆が頭を抱えていると、「ふぁーーーあ」という軽いトーンのあくびが聞こえた。
「ん? 何だ? って、おとど!」
いつの間にか本棚の上に、香箱座りになったおとどがいた。眠たげな目で皆を見下ろしている。
「やっと気付いたか」
「何してんの? おとど」
おとどは本棚からジャンプし、軽やかに着地した。
「吉乃の使いじゃ」
「猫だしー!」
ユポポはおとどを捕まえようと、嬉しそうに近付く。おとどはひらりと跳ね、それを躱した。
「猿ごときが。無礼な」
「む! なんだし、この猫ー!」
「覚えておけ、猿。わしは黒豹じゃ」
「猫だしーー!」
ユポポは逃げたおとどを捕まえようと、もう一度駆け寄る。だが、おとどはまたも軽やかに飛び、ユポポの頭を飛び石にして、本棚に飛び乗った。
『井戸の月捉えしものは囚われむ井戸の玉水枯れてゆくまで』
おとどが短歌を詠むと、ユポポの足元に輝く詠力陣が発生した。
「わっ! なんだし!?」
詠力陣が羽衣のように舞いあがり、一瞬でユポポの体を包みこんだ。
詠力陣でできた巾着袋に入れられたようなユポポは、顔だけ出してジタバタと動いている。
「動けないしー!!」
「しばらく、そこで頭を冷やしておれ」
おとどは、もがきまくるユポポを一瞥すると、本棚から飛び降りる。苑紅の対面にあるソファーに乗ると、前足を揃えた。
「おとど、学長先生の使いだって?」
「そうじゃ」
「あのさ〜〜、気になってたんだけどさ。前に新京極の広場で偶然会ったけど、あれって偶然じゃないだろ」
「察しがいいの」
「やっぱな……。あれから続けざまに色々あったし、今ここにおとどがいるとなると、そうとしか考えらんないよ」
何でもお見通しのレベルがカンストしてる学長のことだし、諸々わかったうえで、おとどをスパイとして送っていたってことか。
第三短歌部自体に問題はないだろうし、おそらく調査していたのは……。
「蒼空を見張ってたのか?」
「……ふぅ……」
おとどは普段の気丈な振る舞いからは珍しく、少し疲れた表情で溜め息をついた。
「入学して一ヶ月も経っておらんのに、父親から固く禁じられていた自分の出自の秘密もペラペラ話し、あまつさえ、猿の賓客を学院に連れてくる始末」
「やっぱ学長先生は、蒼空が賓客ってこと知ってたのか」
「当たり前じゃろう」
「え! 蒼空、賓客なのー?」
巾着袋の中でもがきながら、ユポポが嬉しげな声をあげる。そういえば、ユポポはまだ知らなかったか。
「そうだ! お前と一緒だな!」
「やったしー!」
無邪気なやりとりに、おとどはまた溜め息を吐いた。
おとどは意外と常識人の部類なのかもしれないな。
「蒼空がこんな様子では間諜も意味をなさん。まぁ、吉乃は蒼空の破天荒っぷりに大喜びじゃがな」
「へー! 学長先生、喜んでくれてるんだ!」
「……わしの任は間諜から、お主らの支援となった。最早、身を隠す意味もあるまい」
「え! 支援してくれんの! あたしらを? マジで?」
「ほんと!?」と、エプロンをつけた琴葉がカウンターテーブル越しに言った。
「おとちゃん、私たちのこと支援してくれるんだ!」
「支援というよりは、お目付け役じゃな。とはいえ、どんな大事件が起こっても吉乃は喜ぶだけよの。わしはほとんど傍観してるのみじゃ」
「嬉しい! ありがとう、おとちゃん!」
おとどは「ふん」と鼻を鳴らしたけど、琴葉のことを気に入ってるんだろう。悪い気はしないって雰囲気がある。ツンデレってやつだな。
「じゃあ、早速支援してよ! おとど」
「傍観のみと言ったばかりじゃろうが」
「練習する試合場がなくて困ってるんだよ。試合場持ってる部活からは総スカンだしさ……。学長のコネで何とかなんないかな?」
おとどは苑紅の猫なで声を聞くと、眉をひそめた。
「お主……。この部屋は暮猟から受け継いだんじゃろう……?」
「ん? そうだけど」
「……」
おとどは眉をひそめたまま黙ってしまった。
「暮猟さんって、どなたですか……?」
湯呑の並んだお盆を運びながら、琴葉が聞いた。
「ああ、第一第二に分かれる前の短歌部の顧問だよ。あたしと仲良かったんだよ。エロいことばっか言うのが玉に瑕のじーさんだったけど」
「へぇ〜。前に言ってた方ですね。引退されたんですよね?」
「そう。余生を楽しむんだとさ。全然元気だったけどね」
「なるほどー」
琴葉は相槌を打ちながら、テーブルに湯呑を並べ、鯛焼きの乗ったお皿をおとどの前に置いた。
おとどは目を見開いて前のめりに鯛焼きを見つめた。
「たまたまお昼に購買で買ったんだ。おとちゃん好きでしょ? どうぞ」
「良い心がけじゃ!」
おとどはテーブルに飛び乗り、鯛焼きにかぶりついた。
一心不乱に食べているおとどを、琴葉はニコニコしながら撫ではじめた。
「あー! おやつーー!」
おとどは鯛焼きに夢中で、ユポポを完全無視している。
「んーー!! ずるいしーーー!!!」
ユポポは顔を紅潮させ、強烈な詠力を放ちはじめる。
「わっ! ユポポ! やめろ! 詠力は出さないって約束だろ!!」
「だって、ずるいしーー!」
ユポポの詠力は留まるところを知らず、みるみるとその力を高めていく。
これは……、比叡山の時と同じか、それ以上か……。
おやつの恨みだけでこんな強烈な詠力を放つなんて、やっぱりこの子は癖が強すぎるな……。
苑紅たちがユポポに詠歌させないよう抑えこんでいると、詠力の波動とは違う、地響きのようなものが聞こえてきた。
「……これは、地震か……?」
「地震ぽくないですけど……。何だか、部屋の外から振動が伝わってるような……」
おとどはすでに鯛焼きを平らげ、前足で顔を洗っている。
「詠力が強すぎて、ベランジェールが反応したんじゃろう」
「は? ベラン? 何?」
おとどは苑紅の問いに答えず、ぴょんとテーブルから降りると、奥の本棚の前に立った。
「お主、暮猟から何にも聞いておらんのじゃな」
「え、マジで何?」
数秒の沈黙の後、おとどはふわりと詠力を纏い、短歌を詠んだ。
『紅梅に染まる水面の笹舟は波紋をひらく海をめざして』
詠歌に呼応し、本棚の木枠が白く輝きはじめる。
壁一面に広がる本棚は、ガタガタと音を立てる。中央の本棚が奥へと下がり、横にスライドしていく。そこに、奥へと続く通路が現れた。
これって! まさか!
「すげーー! 秘密基地への秘密通路だ!」
蒼空がスーパーハイテンションで私の言葉を代弁してくれた。
アニメやゲームでこういう演出はよく見たけど、実際見るのは初めてだ。
「付いてこい」
通路内に入るおとどの後を、苑紅たちがついていく。
巾着袋の中のユポポは、琴葉に抱えられ、持ち運ばれている。
秘密通路と言ったものの案外広いその道は、学院の廊下とも遜色ないくらいの幅がある。両脇にはずらりと本棚が並んでいて、ここもぎっしりと本が詰まっていた。
「隠れ家の本棚の後ろに、こんな秘密の通路があったなんて……」
苑紅が周りを見渡しながら言った。
「別に秘密でも何でもないわ。昔は普通に使われておったんじゃ」
「昔っていつ?」
「さぁな。忘れたわ。50年か60年くらい前かの」
「ごっ!?」
「着いたぞ」と、木造の扉の前でおとどが止まった。
苑紅が扉を開くと、木が擦れる重い音が鳴った。
「うわ、真っ暗」
中は暗いが、広い空間があることを感じる。いくつかある窓がうっすらと光を受け、きらきらと埃が舞っている。窓の外はびっしりと植物で覆われているのか、ほとんど明かりを得ることができず、映写室のようなほの暗さだ。
皆が手探りで中に入っていく。
古い木造の床は、ミシミシと、今にも底が抜け落ちそうな音がしている。
「ここ、何なんすか?」
私には実体がないが、明るい場所から突然暗い場所に来ると、目が慣れないようだ。
背後霊的存在なんだから、そんな人間的機能はオミットしてくれたらいいのに。
おそるおそる、室内を探ってる間に、皆と同様に目が慣れて、ぼんやりと部屋の中が形付いて見えてきた。
「苑紅さん、あれって!」
「うお! これ……試合場だよな……?」
広い空間の中央に、聡詠館で見た試合場と同じような縁が見えた。
苑紅が境界線に歩み寄り、すっと手を伸ばす。パリパリと音を立て、詠力紋が広がった。
「結界、生きてるじゃん……」
「苑紅さん! あそこ! 人!」
緊張感のある琴葉の声を聞き、全員が指し示された方を見る。
試合場の真ん中であり、部屋の中央でもあるそこは、窓からの光が届かずかなり薄暗いが、明らかに人の形をした何かが座っている。
えもいわれぬ恐怖に皆が肩を寄せあうなか、蒼空は両手を頭の後ろに組みながら、試合場に上がっていった。さすが蒼空、こういう時、頼りになるなぁ。
「わ! 蒼空君!」
「ははっ。なーんだ。琴葉、人形じゃん?」
胸を撫で下ろし、よく目を凝らす。たしかにそれは、西欧風の人形だった。金色の長い髪が乱れている。
少し近付くと、試合場の床に座りこんだ人形の膝の周りには、パサパサに乾き、風化した何かが散乱していた。どうやらかなり長い間、放置されていたみたい。
「いや~、皆びびりんだな〜。俺ら高校生っすよ〜〜?」
蒼空が、試合場の外にいる皆に余裕の笑みを向けた直後、琴葉が声にならない悲鳴をあげた。そして全員が、震える手で蒼空の背後を指差す。
「ん?」
蒼空が振り返ると、そこには立ち上がった人形がいた。一メートルほどの背丈の人形は、キリキリキリと音を立てながら、首を蒼空に向ける。乱れた髪の毛の間から、青い瞳が光った。
そして次の瞬間、片腕がボトリと落ち、床に叩きつけられる音が反響した。
「うお……」
さすがの蒼空も、不気味さに面食らったようで後退りする。
人形の、残った方の手には木の枝が握られており、花が風化したものか、枝先にパサパサした黒いゴミが付着していた。
「ぬかるみの、なずなの草を摘む指につたわる春はあるのでしょうか」
どこを見ているか定かではない目で、人形は短歌を詠む。ひずんだ声は、油の足りない機械のようだ。
「詠った……。げ……原歌? ウタで動いてんのか……?」
「お……おとど! これ何なんだよ!?」
苑紅がおとどを問い詰める。
おとどは入り口の扉で座ったまま、皆の様子を見ていた。
「さぁな」
「……んだよ」
蒼空が人形の様子を伺うため、さらに近付こうとした時、またもキリキリキリと高い音を立て、人形の首が回った。人形は、顔で蒼空を追っているようだ。
「ぬかるみの、なずなの草を摘む指につたわる春はあるのでしょうか」
人形は短歌を再び詠むと、少し俯く。
「何だよ。歌を返せばいいのか……? んー、じゃあ」
「ぬかるみに、君の手取りて踏みいれば 春きたるらし なずなささやく」
蒼空が原歌で返歌した。
歌を反芻するように、人形の動きがピタリと止まる。
が、次の瞬間。
キリキリキリキリ! と先ほどの数倍の速度で蒼空に顔を向けたかと思うと、人形はあっという間に蒼空の顔に飛びかかり、そのまま蒼空を試合場の外まで蹴り飛ばした。
「うわ! 大丈夫かよ! 蒼空!」
壁際に飛ばされた蒼空の元へ、皆が駆け寄る。
蒼空は「痛ってぇ〜〜」と言いながら、ゆっくり立ちあがった。
「んだよ……。返歌が気に入らねえのか? 上等だよこの野郎……」
蒼空が指を鳴らしながら再び試合場に向かおうとした時、苑紅が肩を掴んだ。
「待て、蒼空」
「何すか?」
「不確定なことが多すぎる状況だけどさ。一個だけ言えることがある。ちゃんと聞け」
「……押忍」
頭に血が上っていた様子の蒼空は、苑紅の制止で少し落ち着きを取り戻したようだった。
「蒼空。こないだ住職に言われたばっかだろ。「相手の歌心を心底理解するように努めろ」って」
「……」
蒼空はまた、痛いところを突かれたような顔になった。
それから、気持ちを切り替えるように「ふー」と大きく息を吐き出すと、両手をくるくる回して、肩をリラックスさせるように落とした。
「了解っす」
「おし。行ってこい」
「押忍」
蒼空が再び試合場に上がる。
その気配を察知したのか、人形はまた、キリキリと音を立て、ゆっくりと蒼空を見据えた。