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三十一文字物語  作者: 京屋 月々
第二章 紅花栄
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第七話「夕凪の火」

苑紅そのべにさん……俺らどこ連れていかれるんすか?」

「とりあえず付いてくしかないよ」


 蒼空そら君と苑紅さんのヒソヒソ声は、山鳥のさえずりや葉擦れの音にかき消される。

 ユポポの素材が欲しい私たちは帰るに帰れず、「来なさい」とだけ言われたまま、十数分前からお坊さんの後について山を登っていた。

 厳格な雰囲気のお坊さんが来てからは、あんなにお喋りだったユポポも静かになって、ミニチョコクッキーを食べながら大人しく歩いている。お坊さんの周りは、何となく空気が張り詰めていて、一分の隙もない。


 しばらくすると、念乗寺ねんじょうじというお寺が見え、お坊さんとユポポはまっすぐ社務所へ入っていく。私は不安げな福丸ふくまるさんと顔を見合わせ、迷いなく社務所へ入っていく他の三人の後を追った。


 案内された部屋は古めかしく、少々生活感はあるが小綺麗な和室だった。その中央に、立派な卓袱ちゃぶ台が鎮座している。

 壁際にはアンティークの収納棚が置かれており、ガラス扉の中に、高そうなウイスキーボトルがずらりと並べられている。


「おい、お前ら。酒でいいか?」

「おー! いいですねー!」

「苑紅!」

「ごめんごめん。冗談だよ福丸」


 福丸さんが苑紅さんを諌める。


「しゃあねえな。おい、ユポポ。茶ぁ出してやれ」

「はい!」


 ユポポはさっきまでの不遜さを潜め、きびきびとお坊さんの命令に従っていた。


「俺はこの寺の住職だ。んで。お前ら、ユポポを探しに来たんだってな」

「はい〜……。そうです……」


 刺すように見つめられ、さすがの苑紅さんも歯切れが悪い。

 高校生が賓客ひんかくの毛や爪を手に入れようとして比叡山まで来たと知れば、怒らない大人はいないだろう。


「何でだ?」


 苑紅さんは目を閉じて天井を仰ぐ。それから、覚悟を決めたようにしっかりと住職を見た。


「あたしたちは、雲雀倭歌ひばりやまとうた学院の生徒です。強力な装具を作りたくて、賓客の素材を取りに来ました」


 包み隠さず事実を話す苑紅さんの顔に、緊張が走っている。

 

住職は「ほーん」とアゴの髭を何度か撫でると、よっこいせと言いながら立ちあがった。そして、収納棚からボトルを一本取り出し、棚の上のグラスにウイスキーを注ぎながら、背中越しに応えた。

 

「別にいいけどよ」

「え……、いいんですか……?」

「いいよ。減るもんじゃなし。むしろ鬱陶しいくらいボサボサに増えるしな」


 住職は卓袱台にグラスとボトルを置くと、再び、よっこいせと私たちの前に座る。

 

「あいつ変わってるだろ?」

「そうですね。多くの賓客を見てきたわけじゃないですけど、あんなに人間っぽい……というか、子どもっぽい賓客がいるなんて知りませんでした」

「まあ、あいつは実際まだ子どもだしな。賓客はすげー高齢が多いが、あいつは数年前に生まれたばかりの子どもの賓客だ」


 住職はグラスを傾け、ウイスキーをぐいっと飲む。


「賓客っつーのは突然変異みたいなもんでよ。両親は普通の猿なんだが、生まれたのがあんな変な猿だろ? 姿形が違うし、人間の言葉を喋りやがる。おまけに感情が高ぶると強い詠力えいりょくを撒き散らすもんだから、とうとう捨てられちまったんだ」

「そうだったんですね……」


喋るたびにウイスキーを口に含み、早くも二杯目を注いでいる。

 そしてまた、「賓客っつーのは」と語りを続けた。


「本来、生まれ落ちるとすぐに自分の使命を理解し、歌の知識を倭歌神やまとうたがみから授かって、一匹で生きていくもんなんだがな。倭歌神も何をどう間違ったのか、あいつは年相応のガキっぽい性格で、歌もよくわかってない。そんな中途半端な賓客だからよ、群れに帰りたくて追いかけまわすんだが、猿のくせに木登りもできないくらい運動神経が悪いときた。仲間からも馬鹿にされ、親からも見放され、途方に暮れて泣いてるあいつを、俺が保護してやったんだ」


 超次元的な存在だとばかり思っていた賓客にも、色々な困難があるのだと、私は驚いた。

 

「この寺に連れてきてからも、近くに猿の群れが来ると、あいつは健気に寄っていくんだ。皆に好かれようと食べものまで持っていってよ」


 そうか……。

 猿の群れに遭遇した後、すぐにユポポが現れたのは、そういう理由だったんだ。

 ミニチョコクッキーを拾ったのも、自分が食べたかったからってだけじゃなくて、群れにいる仲間や両親の気を惹きたかったから……? まあ、道中で全部食べきってたけど。


「まさかユポポにそんな過去があるなんて、思いもよらなかったです……」


 何となく皆、重い表情になって黙りこんだ。

 住職が四杯目のウイスキーを注いでいると、ユポポが一瞬、顔を出して、襖を開いたまま、また奥に走っていった。その姿を見た住職は、少しだけ目尻にしわを寄せた。


 しばらくすると、カチャカチャと音を立てながら、ユポポが部屋に入ってくる。

 湯呑みを乗せたお盆を持ったユポポは真剣な表情で、そろりそろりと氷の上でも歩いているようだ。ようやく卓袱台の隅にお盆を下ろすと、「ふぅー!」と一息つき、額の汗を拭った。


「お茶!」

「おう、ユポポ。ご苦労さん」


 住職の顔は赤くなり、酔っ払っているのか、ユポポの背中をバシンと叩いた。


「痛いし! もう!」


 お盆の近くにいた私が湯呑みを回していく。

 お茶を一口含むと、「お」と全員の声が揃った。


「おいしい!」

「えっへん! ユポポのお茶はうまいんだし!」

「洗濯も掃除も飯炊きもてんで駄目だが、茶汲みはマシになったな」

「やったし!」

「やるな! ユポポ!」

「蒼空、ユポポのこと、あなどるなし! やるし! なめんなし!」


 ユポポは蒼空君をポカポカ殴っている。態度とは裏腹に、とても嬉しそうな顔だ。もしかしたらだけど、ユポポにとって初めての友だちなのかもしれない。

 蒼空君が、ユポポの脇をくすぐって反撃した。


「いやーー! やめてーー!!」

「ふははは! やめねぇし! オラオラ!」


 ユポポは悶絶しながらも、きゃあきゃあと楽しげな声をあげた。


 無愛想でお酒ばかり飲んでいる住職だけど、蒼空君とユポポのやりとりをじっと見ている。そこには、慈愛に満ちた眼差しがあるように感じた。


さてさて、と住職が立ち上がる。箪笥たんすの引き出しを開けると、何かを取り出した。


「おい、ユポポ。ここに座れ」


 住職は胡座あぐらを掻いた自分の太ももを叩いて、ユポポに座るよう促した。


「はーい」


 ユポポは走り寄り、作務衣さむえを着た太ももの上にちょこんと座る。

 

「ま、変な詠力纏ってやがったら、そもそも寺に呼んでねぇよ」


 あ。と私は思い出す。

 蒼空君が言ってた、常に纏っている小さな詠力。それを読んだんだ。

 実際にウタを詠んだのは夜鹿よるしかちゃんだけだったけど、きっと全員の詠力を見られてたんだろう。住職って実は高名な歌人だったりするのかも……。


「ほらよ。五人分の装具、装束に組みこむってんなら、こんだけの量がありゃ大丈夫だ」

「おーー! ありがとうございます!」

「いいってことよ」


 苑紅さんが毛束を受け取る。


「よし! 目的達成だ!」

「やったー!」


 ガッツポーズをしていた時、ユポポがてけてけと走ってきて、苑紅さんから毛束を奪った。


「あ、こら!」


 ユポポはいたずらっ子のような目で私たちを見ている。


「ユポポの毛がほしいなら、クッキーとかえっこするし!」


 ここぞとばかりに要求してくるユポポだが、瞬く間に苑紅さんに捕らえられ、「やめろしー!」と首をぶんぶん振っている。


「ごめんね、もうクッキーはなくなっちゃったよ」

「じゃあユポポの毛、あげないし!」

「ユポポ、クッキーよりもっといいもん欲しくねぇか?」

「えっ?」


 蒼空君は苑紅さんからユポポを預かると、畳の上に立たせた。そしてユポポと目線を合わせるようにしゃがむと詠歌した。

 

 『にぎやかな赤提灯つづく道で「ほら」と打ち上げた綿菓子の花』


 蒼空君の掌の上で柔らかな光の粒子が渦巻き、収縮する。蒼空君は両手を合わせると、「ユポポ、手ぇ出して」と言った。


「こう?」


 ユポポが不安げに小さな両手を差し出すと、その上で、蒼空君が両手を広げる。手を広げるのに合わせて、ふわりと生まれた綿菓子が、どんどん大きく膨らんだ。

 きらきら光る大きな綿菓子に、ユポポの目もピカピカに輝く。


「わぁ! すごいし!」

「ユポポの毛のお礼。お腹ん中で粒子に戻るだけだから、晩飯食えなくなるって心配もしないでいーぞ」


 大きな口を開けて無我夢中で綿菓子を貪るユポポは、綿菓子を平らげた後になって、ハッとしたような、浮かない表情になった。


「全部食べちゃったし……」


 あ、そっか。ユポポは群れの皆に認められたくてお菓子が欲しかったんだ……。


「おやつ昆布、一袋あげる」


 夜鹿ちゃんがユポポにおやつ昆布の袋を差し出した。


「……いいの?」

「まだ二袋あるから」


 ユポポは大事そうにおやつ昆布を受け取ると、「ありがと」と夜鹿ちゃんにお辞儀をして、それから蒼空君に、自分の毛束を渡した。

 苑紅さんが、用意していた風呂敷に毛束を包む。


「っし。これで今度こそ任務完了だな」

「苑紅、あまり暗くならないうちに下山しよう」


 帰り支度を始めた私たちをユポポは黙って見ていたが、社務所を出ようという時になってとうとう声をあげた。


「ねぇ、もう帰っちゃうの? 今度いつ来る? いつも山のどこにいる?」


 寂しそうなユポポに対して、私たちは言葉に困り、顔を見合わせた。ユポポはきっと、自分の元から誰かが去っていく寂しさを、人一倍味わってきたんだろうから。

 蒼空君がユポポの前にずいっと出ると、しゃがみこんで目線を合わせた。


「おい、ユポポ」

「なんだし!」

「お前、うちの部に入れてやる」

「ブってなんだし!?」

「部ってのは仲間の集まりのことだ! 俺たちの部は第三短歌部って名前で、短歌の勉強をしてるんだ!」

「えぇぇ! すごいし! 仲間?」

「そうだ、仲間だ!」

「ユポポ、仲間になるの?」

「そうだ、俺が部の一番偉い人に聞いてやる! 苑紅さん!」


 苑紅さんが「おう」と腕組みをして、仁王像のようにユポポの前に立ちはだかった。

 ユポポは「嫌いだし!」と言い放った相手が一番偉い人だと紹介され、焦ったように目を泳がせる。


「あわわ……」

「おい! ユポポ!」

「はい!」

「お前、あたしのこと嫌いだって言ってたな!」

「うぇぇ……」

「ごめんなさいは!?」


 ユポポは恐々といった様子で周りを見た。私と福丸さん、夜鹿ちゃん、そして蒼空君が、一斉に頷く。ユポポは勇気を得たように、苑紅さんに向き合った。


「ごめんなさい!」


 しっかりと頭を下げてから、そろりと見上げる。苑紅さんはしばらく腕組みしたまま厳しい表情を見せてから、ニカッと笑顔になった。


「よし、許す! そして入部を認めてやろう!」

「ホント? やったー! 蒼空、ユポポやったし!」

「おう、よかったな!」


 猿なのにと異論を唱える人はもちろんいなくて、全員が笑顔でユポポを受け入れた。


「あの、住職。たまにこのお寺で部活合宿してもいいですか……?」

「へへっ。仕方ねぇな。いいぜ」

「よしっ! ありがとうございます!」

「俺も暇じゃねえが、合宿の時はしごいてやるよ」

「えぇ……。心強いけど、ちょっと恐ろしいな……」


 蒼空君がユポポの頭をくしゃっと撫でる。


「良かったなユポポ。合宿の時は、ここに来るよ」

「毎日!?」

「毎日じゃないけどさ、必ず来るよ」


 ユポポは「うぅ……」と小さく唸って寂しげな表情を浮かべていた。

 蒼空君は困ったように笑って、ユポポの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。


「ユポポ、必ずだ!」


 泣きそうな顔をしていたユポポだけど、蒼空君をじっと見つめてから、覚悟を決めたように、「わかったし!」と大声をあげた。


 荷物がまとまり、住職とユポポに見送られて寺を後にする。


「必ずだしー!」


 ぶんぶん手を振っているユポポに、私たちも手を振りかえす。蒼空君とユポポが、ものすごい勢いで手を振って、皆が笑った。


 住職とユポポの姿が見えなくなると、私たちはもと来た道を戻り、足早にケーブルカーの駅へと向かう。太陽が傾きはじめていた。


「色々驚かされることもあったが、今回は危険な目に遭うこともなく、目的を達成できたな。一安心だ」


 福丸さんは心底安堵したような顔をしている。


「ま、とはいえさ、ケーブルカーの駅に着くまでは周囲を警戒しといてよ。天羽あもうの緊急離脱花火はできるだけ使いたくないからさ」

「わかった」


 苑紅さんの忠告を聞いて、私も気を引き締める。

 蒼空君は飄々(ひょうひょう)としてるけど、高い木の上にいる猿の気配を感じ取るくらい鋭敏な感覚を持っている。五人でいればきっと安全に学院まで帰れるよね。

そう思った瞬間、既視感のある雷鳴がとどろいた。


 身に覚えのある不快感が全身を伝い、私は脱力する。皆もその場に倒れた。体にはウタでできた、白い鎖が巻きついている。


 『束ねられ ならびし首の吊りざりし 生命凍りて その声はもう』


 聞き覚えのある声が、ゆっくりと近付いてくる。


「おやおや、苑紅。またも無様な有り様じゃのう?」


 地面に倒れている苑紅さんの顔を、細雪ささめゆきさんが覗きこんだ。


「……細雪!」

「ほれ、此奴らの荷物を調べろ」

「はい!」


 細雪さんの後ろに控えていた生徒会メンバーたちが、銃を抱えたまま駆け寄ってきて、私たちの荷物を物色しはじめる。

 せっかくもらえたのに、ユポポの素材、見つかっちゃうな……。

 脱力しているのに、蒼空君は呻き声を上げながらもがいている。


「ありました!」


 生徒会の一人が声を上げた。

 褒美を待つ忠臣のように高く掲げたその手には、ユポポの素材を包んだ風呂敷が握られている。


「おやおや……。これはくだんの素材かのう? 苑紅、残念じゃなぁ? 次は100万首か? 一億首か? 何年あの部屋に入りたいのじゃ? 更生できるといいのう?」


 悪意に満ちた笑顔で細雪さんは笑った。

 100万首?! 印波いんなみさんでさえ十年かけて10万首だった。でも印波さんは、十年、あの部屋に入る決意でうたっていた。それの、十倍? ……百年?

 考えただけで気が遠くなり、目の前が暗くなる。


 『恥知りて 若さの罪は色を消し火から灰へと夕凪焼くや』


ゴウッ、と火柱が立ち、取りあげられた風呂敷が一瞬で燃えた。


「これで素材は灰となった。さて、此奴らを連行しろ!」

「はい!」


 百年か……。想像もできない。あの部屋で、ただただ短歌を書きつづけるだけの百年を思うと、絶望で涙が出てきた。

 こんなの絶対に間違ってる。なのに……。私はまた、自分の無力さを思い知らされている。

 脱力した私たちは、生徒会の部隊員に荒々しく抱えられる。引きずるように連行されようとした、その時だった。


「来るな!」


 福丸さんが叫んだ。

 力が入らないのに、どうしてそんなに叫べるの? と不思議に思いながらも、私は必死で目蓋をこじ開ける。


「お前ら!」


 そこに立っていたのは、見覚えのある小さな体だった。


「蒼空たち、いじめんなし!」

「おやおや、これはこれは。ウタが不得手な賓客殿ではないか。斥候の報告でお前のことはよく知っておるぞ」

「フエテ……? せっこう……?」

「ウタだけではなく、日本語もお上手ではないようじゃな」

「違うしー!」


 私たちのため、こんなに感情を剥き出しにしてくれるのは嬉しいけど、頼りない助っ人の登場は、むしろ被害者を増やすだけだった。


「……ユポポ、逃げろ!」


 蒼空君も絞り出すような声でユポポに言い聞かせている。

 私たちが比叡山に来たばっかりに、ユポポまで危険に晒すなんて……。百年後、お詫びに来なきゃ……と私はいつ落ちてもおかしくない意識のなか、ぼんやりと思う。


「蒼空たち、いじめんなし!」

「賓客殿、此奴らは学院の規則を犯したのじゃ。罪人が償うのは当然のことよのう?」

「関係ないしーー!」


 ユポポは私たちに浴びせた時のように、強烈な詠力を発生させた。

 ビリビリと地鳴りがするほどの詠力に、さしもの細雪さんたちも身構えた。


「ぐっ……」


 ユポポは詠力を吸いこみ、詠歌した。


 『バカーーーー!!!!!』


 そしてやはり、静寂が訪れた。


「ちがうしー!!!」

「ウタも使えぬ賓客殿。苑紅たちと馴れ合うのも道理じゃのう」

「うぅ……ちがうし……」

「生まれ落ちてすぐ、歌と世の理を得て、一頭で孤高に生きていくのがまっとうな賓客というものよ。古人いにしえびとは敬意を払い「賓客」と名付けたそうじゃが」

 

 細雪さんは人を食ったような笑顔でユポポを見下す。


「お前は、猿にも、賓客にもなれぬ、ただのできそこないじゃ。此奴らと同じようにの」

「……!」


 この言い様。怒りがふつふつと湧く。だけど、だけど体に力を入れることができない。悔しいのに、もう涙を流す余力もなかった。

 

「……」

「お前ら、さっさと此奴らを連行せい!」

「はい!」


 私たちを再び部隊員が抱えた時、鼓膜が割れるかと思うほどの爆発的な詠力が轟いた。ユポポを中心に、おぞましいほどの詠力が渦を巻きはじめる。


「許さないし!」

「おーおー。すごい詠力じゃのう。ただし報告の通りじゃ、まるで整っておらん。雑踏を縦横無尽に行き交う人混みのように、何とも無秩序じゃのう」

「んーー!!!!!!」


 もう、目を開けているのも辛かった。だけど、きっとユポポが顔を紅潮させているのがわかる。


「嫌い嫌い嫌い嫌い!」

「しつこい猿じゃのう。お前ら、苑紅たちをとっとと連行せんか」

「もう嫌い!! お前らなんか死んじゃえ!!!」


 波動を感じる。それは、ユポポが詠力を吸いこむ波動だった。



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