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第39話 エピローグ

ついに最終話。

よろしくお願いします。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。



 出発してしばらく経って、私はロナーになぜ私が同行するようになったのかを訊ねた。

「本当に自覚していないのだから、これはこれで心配になる」

「どういうことでしょう?」

「おまえさんの力を陛下は早くから見抜いていたのさ。そしてそれが、この国にとても必要なものだということもな」

「私の、力が?」

未来視(さきみ)遠視(とおみ)鳥視(そらみ)、さまざまな呼び方はあるが異能のひとつさ。何千人に一人、この世にいるかいないかだろう。見えているものがまったく違った角度から見えたり、未来を予測できたり、人の心が読めたり、とまあ、そういう異能だ。外交にも大いに役立つはずだ」

 私に、そんな力があるというのか。

「陛下が、確実に、負けることなくここまで来たのはタルカの力が大きい。われわれが陛下と行動を共にしてから、陛下はずっとタルカを探していたのだ。名前を知っていたわけではないが、国内にそういう能力をもつ者がいるという話をしていた。王家の者は、異能の者を感じ取る力が強いらしい。もっとも、われわれからしてみたら、陛下自身がそういった異能の持ち主だと思うがな」

「そうですね」

「あと、ヌクラに行けば全てが分かると陛下は言っていた。それも今回の役割の楽しみでもあるな」

「全てが」

 ロナーの言葉に、私は身震いした。




 クリシュナの外交にロナーの存在は欠かせないもののようであった。

 ロナーは公使として、隣国の町、都で見事に役割を果たした。ロナーは人当たりがよく、礼儀もわきまえ、人を見る目が確かだ。他国の重臣たちの関係も鋭く読み取り、アイステリアに味方する人物にうまく渡りをつけていった。

 ロナーが表の外交で活躍している間、私は旅行者として各地の記録に努めた。何枚の絵を描いたのか思い出せないが、ロナーに命じられた使いの者が十日に一度は王都へそれらの絵を送っていた。はっきりと見て描いたものもあれば、心に浮かんだ印象を描いたものもある。

 クリシュナがそれを見て、いろいろと判断を下していくのだろう。

 ラテ、エキドナルを三ヶ月かけて巡り、各地の様子を確認した。

 ラテの都は大きく雰囲気が変わり、活況を示していた。ロナーの働きかけで、ラテの高官の娘がアイステリアの後宮へ嫁ぐことになった。地方の有力者も、アイステリアの後宮へ娘を差し出した。また、アイステリアに近いいくつかの町では、アイステリアへの移住をはじめる若者が増えた。

 エキドナルでは北辺に王太子が一軍を構え、王都では王弟から王となったシュライザルドが王太子の軍に対処しながら、各地の復興に力を入れていた。シュライザルドの兄である先王は王太子に毒殺されたという。シュライザルドは熱心に娘をクリシュナと婚姻させたがったが、これにはロナーが難色を示した。エスタール公国からクリシュナのもとへ姫が嫁いでくることに決まっていたからである。交渉の結果、シュライザルドは娘が正妃の座につかないという不利な条件をロナーに認めさせられ、両国の婚儀が決定した。その代わり、ロナーはヌクラの王を説いてシュライザルドの王位を認めさせるという約束をさせられた。

 いったいクリシュナは何人妻を娶るつもりなのだろうかとも思ったが、周辺諸国との婚姻は外交に欠かせないものである。また、アイステリアを中心に周辺諸国との婚姻関係が形成されるのであれば、アイステリアが近隣諸国の中で重要な位置を占めることになる。そういう意味でもロナーの外交は見事なものだった。




 アイステリア国内が、戦後はじめての収穫期をむかえた頃、私とロナーはヌクラに入国した。ロナーは王都で公使として多忙な日々を過ごした。ヌクラの王はエキドナルの王太子を支持していたが、これをロナーはあっさりとひっくり返し、シュライザルド支持へと方針を変えさせた。それだけでなく、ヌクラの幼い王太子と、これから生まれるであろうクリシュナの娘との婚約を、それも正妃としてという条件で決めた。

 その間、私は各地で記録を重ね、王都へと絵を送り続けた。

 今回の三国との外交で、五年後のアイステリアの勢力は現在とは比べ物にならないほど強まるはずである。それとなく、十年後のクリシュナの考えを感じた。

 ヌクラの北方にあるヤクーの町で、私はヌクラの王都での交渉を終えたロナーと合流した。

 ヤクーの町から河を渡れば、ミューズという大国がある。ミューズはその国土がアイステリアの五倍はあるという。王都の人口だけで五千人を超えるというから、今のアイステリアとは比べ物にならない大国である。

 今回の王命では訪問しない予定の国だ。クリシュナはこのミューズと対等の国にアイステリアを改革していくつもりなのだろう。だから、弱い立場の今は、交渉をしようともしていない。思えば、アイステリアからかなり遠いところまで来たものだとしみじみ感じた。

 ミューズとヌクラの国境となっている河のそばで、私はロナーと話しこんでいた。

「アイステリアは、ミューズのような大国と対等になることができますか」

「さあ、そこまでは分からないが、陛下の力は近隣の王の中では完全に上にあるはずだな。ミューズの王がどんなものかは分からんが、陛下より優れていることはあるまい。まあ、今は国境から大きく離れた遠い国だ。交渉しないのも当然というほどに、な」

「陛下はそこまで有能な王なのですか」

「そなたのような異能を持つ者が、高貴な血筋にあらわれた場合、帝都へ行くと定められているらしい。アイステリアだけでなく、エキドナルやラテでも同じだ。陛下は異能の持ち主で、7歳で帝都へ迎えられ、わずか5年で医師と薬師の頂点に立たれたとガゼルから聞いたことがある。帝都でも特級の異能者だったそうだ。後宮に薬草園をつくり、薬の販売で利益を上げているのは得意分野だから、だろうな。医師として妊娠や出産にも詳しいからか、ご懐妊の奥方がたくさんいるというのも聞いている」

「帝都、ですか」

「本来は、そのまま帝都から戻ることはないはずだったらしいが、陛下は戻られた。理由は知らない。他国は異能を持つ王子を帝都に奪われたままなのだから、王としての有能さは比べるまでもないかもな」

 初めて聞く話だったが、帝都というところが特殊な場所なのだろうということはよく分かった。アークとルイのあのあり得ない強さも帝都の者の異能とかいうものなのだとしたら、そういうものなのかもしれない。

「もし、ミューズが大軍で攻め寄せたら」

「アイステリアまでヌクラ、エキドナルを攻め落とさないとやってこないわけだから、怖れる必要はあまりないな。ヌクラとの関係も良好なようだ。それよりも、ヌクラに来てひと月ほど経つが、何か、分かったか?」

「全てが分かるはずでしたが、今のところは何も」

「そうだよなあ。あれは、陛下の戯れだったのかもしれんな」

 そう言ったロナーが少し寂しそうな顔をした。

 私たちはヤクーの町へと歩いて戻った。

 まさかこの町で、クリシュナが言った通り、全てを知ることになるとは思いもしていなかった。つまり私の異能など、それほどのものでもないということかもしれない。

 門をくぐって町へ入る。宿はそれほど遠くない。宿の入口の前で、私は目の端に一人の男の姿をとらえた。

 そのまま、宿に入ろうとした足が止まった。目が自然とその男を追っていた。

「まさか」

 私は駆け出した。

「おい、タルカ?」

 戸惑ったロナーの声が私の背中で跳ねた。

 私は走っていた。ロナーが追いかけてきているかどうかさえ、どうでもいいことになっていた。

 通りの角を曲がったところで、干し肉を並べた商人の前で立ち止まった男に追いついた私は、そのままその男の腕を握っていた。

 突然腕をつかまれた男は、慌てて私を振り返った。

 間違いない。

 私は男の顔をじっくりと確認した。顔にある大きな傷が、男の片目を失わせていた。私にとって、懐かしい、そして嬉しい顔だった。

 突然のことに驚いていた男も、じっと私を見つめた。

 男の片方しかない瞳に、優しい潤いが見えた。

 私は男の腕をつかんだままだった。

「大きくなったな」

 男は優しい声をしていた。私にとっては、とても懐かしい声だった。しかし、不思議なことに、耳慣れた声のように聞こえた。

 ロナーが深く息をしながら私の後ろに立っていた。

「妹も大きくなりました」

 私はやっとのことで、そう言葉を発した。

「往来で話すのもさみしいものだ。場所を変えようか、タルカ」

 男の声は、私の心に染み込んでいった。私はようやく男の腕を離した。

 男は、私に絵を教えてくれた、あの絵師だった。

 私の頭の中に、考えられないような不思議な映像が浮かんで、そして消えた。

 それは、男とクリシュナが親しげに話している様子だったのだ。

 三人で移動している間、私の足からは地面の感覚が次第になくなっていった。それだけではない。全身から、現実的な感覚が全て消えていきそうだった。私は自分の心に喝を入れた。

 移動した私たち三人は、広場にあった石段に腰を下ろした。

 ロナーは何も言わずに、じっと男を観察していた。

 私は、母と妹の近況を説明し、アイステリアの王都に来てほしいと訴えた。

「妹はあなたの娘です」

 男は少し微笑んだが、返事は何もなかった。

 ロナーの視線は男に集中している。

「私は、あなたに義父となってほしいのです」

「残念だが、それはできないのだ、タルカ。私はアイステリアに戻るわけにはいかない」

 男は静かにそう答えた。

 私は、もう一度懇願した。

 男は微笑んで、何も答えてくれなかった。

 突然、ロナーが口を開いた。

「あなたと会うのは初めてだが、あなたは、わたしがよく知っているお方にとても似ています」

 男が私に向けていた視線をロナーに移した。

「面差しだけではない。声も似ています。タルカ、分からないのか」

「ロナー…」

 男の表情が少し硬くなった。

「あなたは、クリシュナさまの兄君、ラファート王太子殿下、いや、王兄殿下ですね?」

 それは、確信をもってロナーが放った言葉の矢であった。国一番の弓の名手であるロナーがその矢を外すはずがなかった。

 ロナーの言葉が、私の耳の一番奥で響いた。

 私にも、その確信があった。

 しかし、そうであってほしくないと願っていたことだった。

 男は沈黙し、目を伏せた。

 それが答えだった。

 その瞬間、私の頭の中には、いろいろな場面が浮かんでは消えていった。王太子と美しい恋人と小さな王太子の弟、先王が奪い王妃となった美しい恋人、引き裂かれた王妃と王太子の悲しみ、親子で争い傷を負って川を流れる王太子、愛する王太子を失い先王に毒をもる王妃、生き延びた王太子と離れた地で成長した弟クリシュナの密談、美丈夫にひざまずき助力を乞うクリシュナ、美丈夫の両脇に立つ双子の少年、双子を伴い旅立つクリシュナ、そして私はクリシュナと出会った・・・。未来とは異なり鮮やかに見える過去の姿。これが私の異能なのか、と。見えないものが見えるという言葉の意味を私は噛みしめた。そして、クリシュナからの伝言通り、私はヌクラの地で全てを理解した。

 それが義父との永遠の別れを私に教えてくれた。




 私はクリシュナに一枚の絵を送った。

 それを見たクリシュナは、母と妹に後宮の一室を与えてくれた。

 数年後、成長した妹は、王兄の娘として認められ、さらにクリシュナの妃の一人となり、二人の間に生まれた王子は、後継ぎのなかったエスタール公国に公王として迎えられたのである。

 思えば、クリシュナは私の妹が自分の姪であることも既に知っていたような気がする。


 私がこの時送った片目の男の絵は、アイステリア歴代の国王の肖像画とともに、王宮の中で今も飾られている。















第39話までお付き合いいただき、ありがとうございました。

これにて完結です。

ひとつ書き切ることの難しさを感じました。


なろうで初めてひとつの作品を書き終えました。

短いものではありますが、自分なりに頑張りました。

本当にありがとうございました。


お気づきのことと思いますが、

本作の視点はタルカですが、主人公はクリシュナです。

クリシュナは王子として生まれ、その能力ゆえに帝都へ引き抜かれた存在。

本来なら帝国を機能させる重臣として国に戻らないはず、という設定です。

本作は視点がタルカに固定されているので帝都と言う言葉はあっても、帝国に関する描写はありません。

いつか、この作品の元になったお話を公開できれば、と思っています。

その主人公は双子で、どちらかというとこの「賢王の絵師」の方がスピンオフという感じです。

まあ、まだ掲載できそうにないですけれど。



拙作のもうひとつ、「かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった」

一週間後(6/8 17:00)更新再開予定で、第三章スタートです。そこからは毎日更新の予定(できるところまで。すくなくとも10~15話は連続更新します)。

ぜひともご一読願います。




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