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第13話 レキサムの会戦



 討伐軍を一団に加え、クリシュナは全軍に北上を命じた。途中、討伐軍を六隊と七隊として再編成し、槍を主武装とした。兵数が他の隊と比べて少し多いが、錬度の異なる兵を混ぜて混乱するのを避けたのだろう。

 クリシュナ軍の一隊は各十人で、クリシュナは十人隊と呼んでいた。これはクリシュナの考えた兵制で、前列に五人、後列に四人を配し、中央に隊長を立たせて隊の動きを統一させていた。ガゼルやロナーが指揮をとる場合には、隊長も後列に加わって戦った。隊長は十人隊の中での推薦で選ばれた。隊長の変更も報告すれば隊の自由だった。新しい六隊と七隊は十五人ずつと少し多いが、基本的な構成は変わらなかった。

 ロナーが守る本陣と合流し、三日間、全軍での訓練を行なった。クリシュナ軍の錬度の高さに、騎士たちは驚いた。その後、クリシュナは部隊を入れ替え、一隊を守備隊として残し、ガゼルに指揮を任せた。二隊から七隊はクリシュナとともに北上し、エキドナル国の領内へ入った。

 クリシュナは禿頭の騎士セイシェルを、レキサムの平原の西に陣取るアイステリア軍の指揮官、騎士ホラズムへの使いとして派遣し、合同作戦を提案した。ホラズムは騎士団の副団長だという。三日後にセイシェルは戻り、ホラズム軍とクリシュナ軍の共闘が決定した。

 エキドナル軍との決戦は、レキサムの平原で行なわれることになった。平原の西にアイステリアの陣が、平原の北にエキドナルの陣がそれぞれあった。ここはこの長い戦争で、常に最大の戦場となっていた平原である。

 私はクリシュナとともにレキサムの平原へ偵察に行き、平原を数枚の絵にして描いた。その絵はクリシュナが受け取り、活用した。また、会戦の前に、みなの前で大地に絵を描いた。レソトの戦いの時と同じで、レキサムの平原の全体図である。絵というより、地図と呼ぶべきものだろう。

 私の描いた地図の上にクリシュナは軍の動きを示した。あの、レソトの時と同じ高揚感が、私を包み込んだ。私と私の絵に注目が集まる。集団の視線を受けている時、まるで巨人に見つめられているかのような錯覚に陥った。


 翌日、レキサムの会戦は昼前に始まった。陣を全軍で出た百二十のホラズム軍に応じて、エキドナル軍も全軍で出陣してきた。数の上では、エキドナル軍が百八十と多かった。この主戦線を劣勢ながらも押さえ込んでいたのは名将ホラズムの力だったのだろう。今回の合同作戦によって、わずかだがアイステリア側の兵数が多くなるのだ。

 クリシュナは戦端が開かれるまで全軍を目立たない林やくぼ地に伏せさせていた。エキドナル軍の後方を攻め、挟み撃ちにする作戦だったのである。

 両軍の衝突が始まると、クリシュナ軍は瞬く間に集結し、エキドナル軍の背後に軍を進めた。中央に四・五隊を配し、その両脇に六・七隊を並べ、右翼に二隊、左翼に三隊が置かれていた。伏兵の出現に驚きながらも、エキドナル軍の反応は早かった。すぐに、後方にいた数十の敵兵がクリシュナ軍へ差し向けられた。

 クリシュナはせまってくる敵兵を十分に引き寄せてから、第一射の号令を出した。

 バンの弓のおそろしいまでの破壊力が初めて発揮されたのが、このレキサムの会戦である。

 クリシュナ軍に向けられた敵軍の半数の兵が一気に倒れて崩れた。突進していた残りの敵兵も倒れた兵につまずき、倒れる者やふらつく者がほとんどだった。弓射隊の前に六・七隊が出て、槍で残った敵兵の突撃を受け止めた。すばやく二隊と三隊が両脇から挟撃し、三方からの攻撃で一気に敵を殲滅した。

 別動隊の出現と味方の短時間での崩壊に、後方のエキドナル軍は混乱した。そこへクリシュナは第二射を命じた。一人二人が倒れるというものではなく、敵軍の一角が丸ごと崩れて消えていた。

 ホラズム軍とエキドナル軍の前面は互角の戦いだったが、エキドナル軍を率いるエキドナル王弟シュライザルドは、後方の軍が乱れるのを確認すると、すぐに軍を後退させはじめた。

 クリシュナは追撃せずに軍をまとめ、各隊の被害を確認した。新しく加わった六・七隊に三人ほど怪我人が出たが、他に目立った被害はなかった。ホラズム軍は先頭に立った騎士ホラズムとともに追撃し、エキドナル軍へさらなる損害を与えた。

 レキサムの会戦は、シュライザルドの速やかな撤退で、前後からの挟撃による敵軍の殲滅とまではいかなかったが、アイステリア側の圧勝となった。エキドナル軍は陣に戻り、守りを固めていた。

「敵将はなかなかの指揮官だな」

 クリシュナは誰に言うともなく、そうつぶやいた。「見事な撤退だった。それを相手に互角の戦闘を続けてきたホラズムもまた名将か」

 クリシュナの命で、戦場に残っている武具の回収をロナーが指揮した。特に、折れなかった矢は、敵兵を貫いて中ほどで止まっていたものも多かったので引き抜くのに苦労したが、三十本以上は回収した。

 三人の騎士はホラズム軍の本陣へ向かい、クリシュナとホラズムの会談の場を設定した。

 私はロナーを手伝って、武具の回収と死体の焼却に従事していた。クリシュナは双子だけをともなってホラズムとの会談に向かったのだ。ホラズムという指揮官を見たかったが、今回はあきらめるしかなかった。

 この戦いで見たバンの弓の威力は凄かった。矢が人を貫通し、それを死体から抜くのに非力な私一人では当然無理で、あの木の時と同じように三人の男が必要だった。今までの弓とは異なり、圧倒的な殺傷力をもつ、戦場での決め手となる主武装としての力を見せつけられた。



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