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動けない場所で君と出会った【3】



「参ったねこりゃどーも……」


 果てしなく面倒な事に巻き込まれてしまった。

 ミシアは何が何でもこの輸送機内のギア・フィーネを手に入れたいらしい。


(ガルト…)


 だがそうしてくれてやる事は断じて出来ない。

 例え生まれ育った母国が相手でも。

 弟の遺言、遺志、無駄にするわけにはいかない。

 例え全てを裏切ってでも――。


 ガンッ。


「? なんだ?」


 マイクが音を拾った。

 驚いてモニターを見ると、機内に誰か居る。

 侵入された――!




「乗れ!」

「きゃあ!?」


 面倒だが死なれても困る。

 少女をコクピットの中に詰め込み、席の奥の隙間に押し込めるとハッチを閉じた。

 アスメジスアのどの機体とも操作方法の異なるコクピット内に、眉を寄せる。

 ふと視線のようなものを感じて顔を上げると、モニターに点滅する『0』の一文字。

 その先には何もない。


「な、なに?」

「…………」


 起動方法も分からない機体内を見回す。

 それらしいスイッチもなく、仕方なくまた文字を見上げると一つの光線が眼を横切る。


(これは、膈膜認識システム……!?)


 まずい、パイロットの生体データを基に起動するシステムなら、自分ではこの機体を扱えない。

 だがその時モニターの『0』が動く。



『05-GEAR・FINE-BUREIKU-0 PAIROTTO…』



「ラウト、モニターが……!」

「ギア、ギア・フィーネ!? こいつはギア・フィーネなのか……!?」

「ギア・フィーネ……? それって……」


 ブレイク・ゼロ。

 それがこの機体の名前らしい。


『名前を――名前を言え』


そう、云われたような気がした。


「……ラウト…………ラウト・セレンテージだ! ギア・フィーネ、ブレイクゼロ! 俺の物になれ!!」


 叫んだ瞬間、脳に何かが突き刺さるような感覚がした。

 そのまま右目に強い痛みと熱を感じ、顔を上げた時“理解”した。

 脳に入り込むように……いや、刷り込まれたかのように機体の操縦方法が分かる。

 起動したモニター。

 周囲が360度リアルタイムで動く。

 従来機とは比べ物にならない鮮明な世界。

 これが――ギア・フィーネ。


「す、すごい……うっ……!」

『誰だ!? 誰か乗ってやがるのか!?』

「!?」


 サブウィンドウが開くと金髪碧眼の男が叫ぶ。

 作業着の為、所属は分からない。

 だが、味方ではないだろう。

 恐らく輸送機のパイロット。

 睨み付けると男は驚いきおののく。


『……ガキ!?』

「状況を考えろ愚か者! ここでこの力を使わないでいつ使う!?」

『っ!?』

「俺は戦う! ここで死ぬつもりはない! 黙っていろ!!」


 頭部のメインカメラが光を灯す。

 肩が、脚が、指先が……交わり一つになるような感覚。


『ッ馬鹿野郎! その機体のパイロットになるって意味、分かってんのかぁっ!?』


 男が叫ぶ。

 この機体に乗る意味――。


(分かっている!)


 それに心の中で怒鳴り返した。

 ギア・フィーネのパイロットになるという事は、国一つ滅ぼせる程の力を手にするという事。

 それは自分がずっと切望していたものだ。

 父を殺した敵を全て薙ぎ倒したい。

 母を殺した母国を消してしまいたい。

 世界なんて、こんな世界なんて、無くなってしまえばいい。

 自分がこの汚い世界に生きている事すら許せなかった。


「ラウト……」

「クッ……クク……」


 少年は気付かなかった。

 自分が笑っている事に。

 狂喜の滲んだ深緑の左眸、機械的な金色の右眸。


『くそっ! ハッチ開けてやる! 壊すんじゃねぇぞ!?』


 開く輸送機の後部に気付いたミシアの機体。

 数は四。

 中央に隊長機らしいものが一機、増えていた。

 一個小隊だろう。

 現れた純白と金色の機体は、左右にあった騎士が扱うランスと盾と共に立ち上がった。

 ブースターが煙を噴き、胸部中央の形が上下に開く。


「……死ね」


 光が集まる。

 ミシアの主要機は動きが鈍い。

 ブレイク・ゼロが成そうとしている事に気付いたとしても、今更逃げられはしないのだ。

 そうして高温の熱が極太な帯となって小隊を呑み込む。

 舞い上がる粉塵。

 森に囲まれた基地のポートごと、帯が通った場所は高熱に焼け爛れ落ちていた。


「アハハハハハハ! これだ! この力だ! 俺が欲しかったのは―――!!」


 塵も残さない、完全なる破壊の力。

 コンクリートがすっかり溶解し、灼熱の紅が煙を立てて残滓を歪めていく様。

 輸送機のコクピットから、一瞬で終わったかつての同胞達の末路を苦い顔で眺める男。

 確かにやり方は許せない。

 弟の死も、彼等の非道のせいなのだ。

 だが、それにしてもアレは――。


「破壊の象徴の再来……ってか?」


 男、イクフは呟いた。

 嘲笑だった。

 八年前、アスメジスア基国の第二軍事主要都市メイゼア――。

 そう、まさに今彼等が在る場所こそがメイゼア。

 第四軍事主要都市ベイギルートの国境でありメイゼアの最北端、田舎基地ではあれど、此処は紛れもなくあの凄惨の地。


 金色の騎士は覚醒した。


 それは破滅の始まりなのかもしれない。

 呪いめいたものを感じながら、彼の運命は少年の運命と時を同じくして新たに回り始める。

 耐えていた胸の痛みが、弟の最期の願いを叶えるには至らないと叫んでいても彼はあの機体と進む他無い。




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