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深淵に佇む親愛なる陰よ



「五号機がアスメジスア、メイゼアの軍人を登録者に選んだ……って話は聞いたか?」

「ああ、聞いた。ガルトの話もな」

「今フォードオリオン社は、副社長のベッグマンが管理している。アスメジスア基国への兵器輸出はストップしているが、直に再開されるだろうな」

「あんな事があってもまだ中立を貫くのか……殊勝なこって」


 まぁな、と前を歩く男はきっと不快そうな表情をしているだろう。

 男にとってフォードオリオン社の社長は恩人らしい。

 自分はあの社長を嫌いだったが、人望のある人物ではあった。


(死んだ、ね)


妙な気分だった。

嫌っていたはずの人間が死んで、せいせいするかと思っていたが……。


「ん?」


人通りの多い通路を進むうち、青年は不思議なものを見つけた。

ある部屋の前に金色の髪の少年が俯いて立っている。

茶紙の袋を抱え、不自然に。

手前を歩いていた男もそれに気付き、少年へ声を掛けた。

少年は驚いて顔を上げる。

深緑の瞳──金髪碧眼の……美しい少年だった。


「なんだ? お前、この部屋に何か用か?」

「……あ……その……、先日の……コロニーの事故で……生き残った孤児院の少年がいると伺って……」

「ああ。……因みにどちらさん?」

「! ……失礼しました、自分はアスメジスア基国メイゼア基地所属のラウト・セレンテージと申します。今回の件で貴社には大変ご迷惑をおかけ致しました。本日は遺留品らしきものが幾つか回収されましたので、生存者である彼に確認して頂きたくお伺いさせて頂きました」

「なるほど、事情は分かった。……遺留品の方はオレの方から渡しとくよ」

「え……?」

「命に別状はないがまだ眼を覚まさないんだ。まぁそのうち起きるとは思うが……」

「………………」


 納得してはいない表情だった。

 しかし、男のやんわりとした拒絶を察せない程、幼いというわけでもないらしい。

 少年は一礼すると踵を返した。

 目だけでその背を見送って、青年は彼の後悔の滲んだ瞳に眉を寄せる。


「関係者っぽいな」

「お前にもな」

「………ふーん、アレがね」

「………、頼み事の件だけどよ……」

「あーなんか今ので大体分かった」

「さすがだな」


 ニヤリと笑った男に若干イラっとする。

 青年が案内されたその部屋。

 白いベッドに寝かされた少年。

 目を覚ました後、彼は家族の死を唐突に突き付けられる。

 そう、余りにも突然に。

 理不尽なまでになんの理由もなく、彼は家族を奪われたのだ。

 だが今のこの時代、そんな事は日常茶飯事だった。

 否、今の時代に限らず、人類は学ぶこともなく繰り返してきたのだから今更なのかもしれない。

 もはや遺伝子レベルで組み込まれているのだろう。


 戦争と、憎しみは。









―――しかし、それでも……もし“始まり”を語るならば―――。


 八年前の十月八日。

 場所はアスメジスア基国、第二軍事主要都市メイゼア。

 午後九時四分。



 桃色の髪の、赤い瞳の少女はただ見上げていた。

 月の出ていない暗黒の闇に溶け込んだ“化け物”。

 無数の白い光がソレを人型と形作るも、あまりにも巨大で圧倒的だった。

 図太い熱の塊が帯となり町も大地も焼き尽くし、抉り取っていく様。

 基地の戦闘機が、まるで小蠅のように燃えて海に落ちていく様。

 じくじくと煮えたコンクリート。

 溶けた車内に取り残された人間。

 骨や肉片が残っているのは運のいい方だった。

 阿鼻叫喚の地獄絵図とはこの事だろう。



 死者、行方不明者、約310897人余。

 軽傷、重傷者、437596人余。


 余りに無惨なこの事件こそ後に『凄惨の一時間』と呼ばれるようになる事件。

 そしてこの事件で、人類は初めて“ギア・フィーネ”と出会った。
















彩瞳のギア・フィーネ 〜序〜 了

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