第11話 人殺し
身体中オークの血にまみれ視界もおぼつかないままふらふらと村への続く道を歩いていると
「小僧、有り金と装備おいてきな、命までは助けてやるからよ」
盗賊にからまれた。
盗賊Lv 18
27才
人族
スキル
罠解除
格闘術
装備 ククリナイフ
称号
黒狼団
殺人鬼
「村帰らなきゃ・・・モンスター倒す!」
光一の視界はオークの血で不鮮明であった。目の前で殺気を飛ばす存在はモンスターに違いないと光一は思っていた。
「は?モンスター?まあいい殺してやる!!」
盗賊は光一にククリナイフで斬りかかる。光一は回避し短剣術スキルを発動する。
短剣術スキルのアシストを受け斬りかかる。
キイン!
盗賊のククリナイフで弾かれる。
光一は咄嗟にファイアーボールを発動する
「ぎゃっ!!」ファイアーボールは盗賊の腕を焼く。
「痛えええ!絶対許さない!殺してやる!」
盗賊に急接近され、蹴り飛ばされた。
あばらからボキリと嫌な音がする。
「っあああああああああ!」
光一は痛みで絶叫しながらファイアーボールを連発する。
全てを燃やし尽くす勢いで。
「ぎゃあああ!」
盗賊が叫ぶ、光一はファイアーボールで燃え盛る盗賊に近づき短剣を突き出す。
ズブリ
手に嫌な感触が残る。
盗賊は光一にもたれかかるように倒れる
「おっおれに手を出した事後悔するぜ・・」
まじかで声を聞き、盗賊の身体を触る。
光一は盗賊が人間だとようやく気づく。
光一は前の世界を含め初めて人殺しをしたのだ。
「こっころした??ひと??!!」
光一は盗賊の死体を抱えながら罪悪感と後悔で叫んだ。
『光一に人殺しは早かったかあ。うーん。今回は村まで運んでやるかね。モンスター共にやるにはもったいない』
八咫烏は自らの力を使い光一を村の入り口に放置した。
「光一!血まみれじゃないか!」
村長が光一を発見し抱きしめながら走って行く。
「何がこの子に・・・」
村長は知らなかった、光一がオークを殺し盗賊を殺した事を。
『シシシ、光一この世界では殺さなきゃ殺される、奪わなければ奪われる。そうまるで光一のスキルの様にね。だから戦わなければ生き残れない。可愛い可愛い契約者。異世界の落とし子、この試練を超えなければ強くはならないよ。』
♢
あれから一カ月光一は全く喋らなくなってしまった。
寝ては悪夢に怯え叫びながら何度も気絶した。自分の手や武器を見て震え上がり部屋の隅で体育座りをして引きこもっている。
目は落ち窪み光がない。
「村長、光一はどうだ?せっかく隣山の村に行くから気晴らしに連れてこうかと思ったんだがなあ。」
「カイト、時間がかかるんじゃよ、精神の治療と言うのは何とも難しいものじゃよ。」
今光一の世話はレイナと村長が行なっている。
レイナは今まで献身的に世話してくれていた光一に恩義を感じているのか、甲斐甲斐しく世話焼いている。
光一はほっておくと飯も水も飲まない、最低限の生命維持すら危うい状態だった。
記憶を忘れていてもレイナは祈る事だけは忘れていなかった。身体に染み付いた習慣とも言える。光一を助けたい一心で祈っていた?
そしてレイナに神託が降りる。
《忘却の巫女レイナよ、勇者カイト共に王都を目指しなさい。世界の危機に備えなさい》
(女神様!光一さんを助けて下さい!カイト様が勇者?それはありませんが、私は王都に行きます!だから女神様お願いします!)
さらっと否定するレイナ。
《その者は異界の者、理から外れた存在、霊鳥に魅入られた者。本来巫女の貴女が関わるべき者ではないのです。》
レイナは女神の言葉にショックをうけた。自分が信じた女神は助けてはくれないのかと。
では光一はどうなる?1人残して行く事などレイナにはできなかった。
(なら私は王都にはいきません。私は私を救ってくれた光一さんの為に生きます。)
《貴女の切なる願いに一つだけ助言を与えましょう。その者に憑いて加護を与えている、霊鳥を探しなさい。その者の近くにいるはずです。その霊鳥なれば何とかできるかもしれません。霊鳥を討つ事になるなら勇者カイトを頼りなさい、記憶の無い貴女1人では霊鳥には勝てないのですから。》
女神の気配は消えた。
光一を助ける方法の手がかりを得たレイナはカイトを探そうとするが、外には怖くて未だに出られない。
だがこのままでは光一は死んでしまうかもしれない。
拳を握り気合いを入れ意を決して外に出る。
「フヒ外に出れたの?フヒヒ」
不気味に笑う魔人もとい勇者カイトがいた。
「まっま魔人さま、あの光一さんを助ける力貸してください!」
「まだ、魔人だと思ってるのかよ・・。だけどレイナ俺に何が・・「良いから霊鳥を探して下さい!」
レイチョウ?カイトは霊鳥の存在を知らなかった。
必死に頼むレイナ。
探せと言われても姿形もわからないものを探す何てできるのかと思案するカイト。
「まっ魔人様なら・・・女神様が言ってたから探せるはずです・・」
すがりつくレイナにカイトは困った顔していた。
その様子を村長の家の屋根の上から八咫烏は見ていた。
『ん〜あの不細工と巫女が探してるねえ。シシシ、さっき女神の気配がしたから、大方何か吹き込まれたかねえ。どうするかねえ。見つかってあげてもいいんだけどねえ』
八咫烏は光一の前に降り立つ。
『光一はこの世界が嫌いかい?光一はもう強くなりたくはないかい?人を殺したと言っても罪人だ、殺さなければほかに被害者がでる。良い事をしたんだよ。それでも自分が許せないなら君の中のもう1人に任せよう。君は魂の奥で眠るのさ。そこには誰も来ない、誰も責めない、罪すらない世界だよ。』
「ほんとうに・・・そんな世界があるの?」
『あるよ、光一私は神の使いだよ。さあお眠り光一ゆっくりと休むんだねぇ。』
深い深い闇の中に光一の思考は落ちていく。
二度と戻れないかもしれない闇の中へ。