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第三話:帰還     

一日更新がお遅れてしまいましたが……。

今回は少々手間取りました。

五年という月日がどのように人格、を変えるのか。

そして与えられた身分がどのようにその人の人格を変えるのか。

人の本質は変わらないでしょうが表面上は変わってしまうので……。

それを今回は頭に入れつつ書き上げました。(と、どうでもいいことを書いてみます)

 白一色で統一された人気の無い、寂しさだけを思わす広く大きな部屋の中に、やや大人びた面立ちをしている少女が一人。

 礼服なのであろうか、頭から足元に掛けて素材は純白の絹であろう。色取り取りのステンドグラスから差し込む光をうっすらと通すベールのようなものを被っており、少女の華奢な身を包む純白の着物もベールと同じ素材のものであろう。少女の白い肌がうっすらと生地を通して透けており、やや寒々しさを感じさせる礼服ではあるものの、どこか神々しくそして気品溢れる身形をした少女がそこにあった。


 少女はゆったりとした足取りで部屋の奥に設けられた祭壇のような所に歩み近づくと、仰々しく膝をつき重々しく頭を垂れた。


「悠久たる時を超え――、母なる大地に根を下ろさん我ら小さき民の元に――、永遠なる幸福と、行く末光差し込まん希望を与えし神の涙――マナ石よ」


 ゆったりとした口調で、少女は言葉一つ一つに思いを込め重々しく祭壇に向けそう言い掛ける。静かなこの部屋にその少女の声だけが大きく鳴り響き、幾度となく反響していた。


「汝統べし栄えある王国――マイアールの背負いし民の痛み、苦しみ、そして憎しみを神のご加護によって和らげんことを。そして歴史深きマイアールがこれより永遠に滅ばんことを神に誓ってマナ石に願わん。マイアール王国第十六王女、レフィカ・スリフィナール・マイアールが神の御許にて粛々と平和を願わんことをこの場にて誓おう。ファ―リス」


 自らを王女と名乗った少女――、レフィカは重々しくそう述べた後にやや静寂の間を置いて徐に立ち上がった。そして立ち上がったと同時にふんわりとしたスカートの裾を白く細い指で少々摘み、もう一度ゆっくり頭を垂れた。


「私の大切な人にも……どうか神のご加護を。そして光の手を差し伸べ、元の姿に戻さんことを」


 スカートの裾から放した両手を淡く膨らんだ胸元まで持っていき、心から願うよう小さくそう呟いた。



『ガゴン』


 暫らくしてレフィカが次の礼拝の儀を執り行おうと祭壇に掲げられた『マナ』に触れ、何やら呟き始めたと同時に背後でドアの開く音がした。


(礼拝中にはこの部屋への立ち入りを禁じているというのに……)


 神聖な時を汚すのは誰ですか? と、理解に苦しむようやや困惑の混じった表情を、レフィカは顔を覆うベール内で瞬時につくり、「全く衛兵は何をしているんでしょう」と呆れたように呟いて徐に侵入してきた人へと視線を投げかけた。


「拝礼の儀の最中、大変申し訳ないのですがお伝えすべき事柄がありまして……」


 開けたドアの前で不慣れな動作で跪き頭を垂れた兵士が、ガシャンと鎧の擦れる金属音を部屋中に響かせた後、申し訳なさそうな口ぶりで伝令をした。


「どのような内容なのでしょうか。……、私の知る限りでは拝礼よりも重要な事柄など頭に浮かばないのですが」


 拝礼を途中で中断させられたために幾分不機嫌であることが、レフィカの発する優しげな口調からも僅かに窺うことができた。それを直接感じ取った兵士が跪きながら体をぶるっと震わせる。どうやら並々ならぬ緊張感を抱いているらしく、がたがたと地面につく手が小刻みに震えていた。


「し、しかし……、以前王女の仰せになったことでして……伝えないわけにはいかず、はい。ええっと……」

「はっきりと言ってください」


 ぴしゃりとレフィカは兵士に向けそう言う。兵士は「はっ、はいっ」と、裏返った声音で返事をそう返し、続けて、


「城壁の物見役より、昨日の早朝より姿の見えなかった『魔兵士部隊秘隊長』、キース殿を城の門にてお姿を確認いたしました。それはやはり、王女にお伝えするべきだと騎士隊長殿が……」


 不安げな口調でそう言うと、兵士は機嫌を伺うよう上目使いでレフィカの表情を見やった。少し身分の上の者であるなら許される行為ではあるが、相手が一国の王女ともなれば話は別である。礼拝を中断させた挙句、礼服に身を包んだ王女の顔を覗き込むなどという行為は厳罰が下ってもおかしくはなく、処されるべき行為なのである。震える兵士はそれを今更のように思い出し、ぶわっと噴き出る汗を冷たく感じつつも即座に視線を地面へと落とし、小刻みに震えあがった。


……が、しかし、


「それは本当なのですかっ? キース、いえ、キース隊長が御帰還なさったということはっ」


 今までの不機嫌を感じさせる口ぶりからは一変。どことなく嬉しそうな口ぶりで確認するようレフィカは兵士に向け「本当なんですねっ」と、繰り返し尋ねた。そんな明るい返答は予想だにしていなかった兵士は頭上に「?」を掲げるも、


「……はい確かに。物見役の者が言っていたので確実かと」


 地面に向ける顔を不思議色に染めつつも、兵士はしっかりとそう答えた。


「そうですか……。それは良かったです」


 レフィカは僅かに頬を赤く染めて、


「……では迎えに行かなければなりませんね。予想では大変疲れていると思いますもの。私が直接行って飲み物を差し上げてきますわっ」


 浮かれたようにそう述べるとレフィカは兵士に「お控願える?」優しく言いかけて退出を願う。兵士はレフィカの示す態度の豹変に僅か戸惑いつつも、「では、失礼します」ドアの前でもう一度深々と頭を下げ、言われた通り部屋から立ち去っていった。



「……キースったら何をやっていたんでしょう。飲み物を渡す前に聞いてみなければなりませんね」


 残された部屋で一人、嬉しそうな表情でそう呟くレフィカは、


「何のドレスで行きましょうか……」


 頬に指を当て「やっぱり白かしら」と呟いた後、すたすたと自らも部屋を後にした。


*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・


 マイアール王国には城というものが一つしかない。理由は簡単明白であり、五年前の戦争で殆どの城が崩壊、もしくは半壊してしまいマイアールの本城であるクレセッド城しか戦争の後に残らなかったのである。

 とはいうもののクレセッド城自体も戦争の影響を受けて城内の壁が崩れる、西の塔が倒れたなどとほぼ半壊状態だったのだが、『代々国王が住まう由緒正しき城』という扱いの元、多くの人員を動員しておよそ丸一年の月日をかけてほぼ元通りに修繕したのである。


「よくここまで建て直したもんだな……。元の姿を知らないとはいえ、いつも驚くよ。この城には」 


 戦後事情を殆ど知っているキースは高々と設けられた城門をくぐり抜ける際、目前に堂々と据える城を仰ぎ見て感嘆の意を述べる。


「それに城下町だって、焼け野原だったじゃないか。それなのにこんなにも元通りになって……凄いものだ」

「……ふうぁ〜っ、と。……ん? どうしちゃったのよキース。そんな遠くを見るような目をしちゃって。何か思い出したの?」


 一睡もしていないためであろうか、ミルシェはキースの肩元で大きく伸びをして欠伸を欠く。どうやらミルシェの目には背後に広がる城下町に向け、目をやるキースがどことなく不自然に感じられたらしく怪訝な面持で「どうしたのよ」と、再び尋ねた。


「いや……、なんでもない。ただこの国は強いな、と改めて思っただけだ」

「そうなの? それだけ? 何か隠してない?」

「何も……だ」

「ふうぁ〜っ。……それならいいんだけどね。なんかちょっとキースの様子がおかしく見えたから聞いてみただけ」

 

 ミルシェは話をしている内に眠気が襲ってきたらしく、目をごしごしと擦りながら、


「私眠いからちょっと寝るね……、何かあったら私に言ってよね? 私はキースの味方なんだから」


 欠伸交じりにそう言い、「おやすみ〜」と、小さな手を振りながらもぞもぞとキースのマントの中へと潜り込んでしまった。それに対しキースは「ん、」と小さく返しそのまま城内へと足を向ける。


(ザフィールを退けた東の国も……何れはこの地を、かもな。)


 「平和ってもんは……」マントの中で眠るミルシェに聞こえない程度の小さな声でキースはそう呟いた。


 

 城門から続く道を真っ直ぐに突き進むと、ぱぁっと視界が開けた。そこには隅々まで手入れの行き届いた庭園が広がっており、季節を彩る花々が色ごとに分けられていて綺麗に咲き誇っていた。


「聖祭も近いことだし、な。疎かにならないよう、より一層手入れに力を入れて欲しいもんだな」


 マントに手をすっぽりと収め、ゆったりとした歩みを刻みながら小さくそう呟く。すると突然、


「気が抜けているのは誰なんでしょうね? キース副隊長……いえ、この場ではキース隊長でよかったですね」

「……っ!」



 あたかも待ち受けていたかのよう、キースが呟いたと同時にごそっと太い木の蔭から人影が現れた。その仕打ちには流石にキースも驚いてしまったらしく「!?」と体をビクつかせ固まってしまう。ミルシェもその反動で起きてしまったらしく「もう少しだけ〜」と、寝ぼけた様な甘い声を上げていた。


「突然いなくなって突然帰って来たりと……。ゆったり旅行気分ですかっ、キース隊長」


 ゆったりとした足取りでキースの前に姿を現し、


「……隊長としての自覚の面も含めですが、少々相談があるのです。他国との情勢とでもいいましょうか、それらをしばしの間、じっくりとです」


 道を塞ぐように立ち憚って、怒りを過ぎた様な口調でキースに向けゆっくりと言葉を紡いだ。キースは驚きの表情を暫らくしていたものの、やがてそれはめんどくさいものを見るかのような顔つきに変わっていき、遂には脱力して溜息をついていた。


「……」

「無言を了承と受け取ってもよろしいでしょうか」

「……ったく」

「いいのでしょうか? キース隊長」

「……」

「わかりました。ではこちらへ。じっくりと話そうじゃありませんか。キース隊長」


 全身を煌めく鎧で固めたその女性は、しっとりと長く伸びた癖の無い金髪を無造作に掻き上げると「早くっ」怒鳴るように棒立ちするキースを促し、地面に八つ当たりするようにどかどかと庭の奥へと進んでいった。


「……平和か」

「完全に起きちゃったよ……私」


 二人は同時に「はぁ」と、深い溜息をつく。「しかたがない」キースは諦めたようにそう呟き、逃げるようにして空を飛び立ったミルシェの足を捕まえ共に先を行く女性の元へ走っていった。


 



 


 



 


読んでいただきありがとうございます。今回は二人の新たなキャラ(?)が少々出てきましたが……。

もし楽しんでくれたのであれば幸いです。

今回は至って平和を思わすような内容でしたが……今後の事を考えればこんなのもありかなと思いまして(笑)

とまぁ前書き後書き共々長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれた人。本当にありがとうございますっ!もしよければこの物語の続きも読んでやってください。(欲を言えば感想とかも欲しいなんて思ったりもします(笑))ではっ


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