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第二話:咎を背負う少年

連載は意外と厳しいものですね……。

今更のように思い知りました。

と、愚痴ってみます(笑)

 朝が訪れるのが早いことで有名なオルケイド通りは名実通り、太陽が地平線上に顔を覗かす頃には人々の往来が忙しくなされ、道に沿って建てられた店々の店頭では商品が所狭しに陳列されていて、開店にむけ準備がなされていた。


「ん〜っはぁ……、もう朝か。早いものだな時間が経つのは」 


 時折欠伸を混じらせつつキースは往来の中ゆったりとした歩調で歩みを刻み、店と店の間から僅かに窺がえた太陽を視野に入れ、そう呟く。どうやら眠気は襲ってきているものの、体には支障がないらしくゆっくりとはいえ、しっかりとした足取りで人ごみに紛れていた。


「おい……、ミルシェ。機嫌直せよ。腹がすいたろ? 多分この調子じゃ朝食に間に合わない。体には正直でいたほうがいい。……これ食えよ」


 人ごみの中でキースはミルシェへと小声で話しかける。開店の早いパン屋で購入したものだろうか、キースの両手には仄かな温かみを残し小麦の微香を漂わせるパンが持たれていた。それを自らの肩元に持っていき「ほら」と声をかける。


「……いらない」

「そんなに気にするなよ……。誰にだって勘違いはあるさ。その度こうして塞ぎこんでたらいくら時間があっても足りないだろうに……」


 片方のパンに噛り付きながらキースは呆れたようにそう言う。すると突然周りの人々への配慮であろうか、直接キースの頭の中に大きな声――、ミルシェの怒った声がぐわんぐわんと鳴り響いた。


「ごめんなさいねーっ。どうせ私は世間知らずの妖精野郎ですよーっ! 構わないでよっ。もう私、今日キースとは何も話さないんだから」

「……笑って悪かったからさ。機嫌直せよ」


 話に集中して人とぶつからないよう注意しながらキース自身も魔力を使い、直接ミルシェへ言葉を投げかけた。しかし、どうやらミルシェはかなり怒っているらしく返事の代わりにマントの中でぽかぽかと叩いてくる。小さい掌によってであるものの存外、力が強かったらしくキースは痛みで顔をしかめていた。


「……痛いからやめてくれ。一日歩いて疲れてるんだ……、多少は俺への気遣いがあってもいいだろうに」

「それも私のせいでってこと? 信じられないっ、私が折角心配して提案してあげたのに……。けど途中で勘違いだったって気付いたのに……。男だったら人の……、いいえっ、妖精の間違いくらい見て見ぬふりしなさいよっ。っもう」


 直接キースの頭に言葉が流れ込んでくるために、ミルシェは周りに気付かれないだろう安心感からのものであろうか、小鳥の囀りよりも数十倍煩い金切り声でぐわんぐわんとキースの頭を揺らしていた。「ったく」参ったようにそう呟いたキースはミルシェから送られてくる言葉を魔力によって断ち切り、それと同時に残ったパンを一思いに口へ放り込み、深いため息をつく。

 キースの目には朝早くから家族団欒、楽しげな表情で会話を弾ませ、隣を通り過ぎて行った三人家族がやけに輝かしく映るのであった。


*・*・*・*・*・* 


「だからな?」


 オルケイド通りから細く伸びたやや暗めの脇道で、顔を背けへそを曲げたミルシェに対し、キースはやや語調を強めてそう言う。いつまで経っても叩くのを止めない、そして文句の尽きないミルシェに対してキースは痺れを切らし、たった今面と向って話をしているのである。


「別に俺の目とかマナは距離に関係なく『マナ』の原石、要するに『神聖石』があるなら絶対反応するんだよ。もし万が一、関係あったとしてもこのくらいの距離じゃ無理に決まってるんだ……。だからさっきミルシェの言った『遠くへ行けば痛みが癒える』っているのは無理があるんだよ」

「……」 

 

 完璧に無視を決め込む気であるのか、一向に視線を合わせようとしないミルシェにキースは内心呆れつつもそのまま話を続けた。


「それに一年に一度『神聖石』が魔力を失う『聖祭』の近日には必ずと言っていいほど反応するんだ。まぁマナは神聖石の一部だから当たり前なんだけどな。目の方はマナに直接干渉した俺への罰みたいなもんだ……」


 キースは言い終わると同時に空いている手の方を自らの右目にそっと当て「これがな」そっと呟く。すると『罰』という言葉に反応したのか、ミルシェは横目でちょっとキースの顔を盗み見た後、恰もまだ怒っていますといった風に、


「……知ってるわよそんなこと。でももしかしたらって試しただけ。最近キースったら時々痛そうに顔を歪ませるんだもん。そりゃ心配にもなるわよ……」


 顔を反らしたままぶっきらぼうにそう言う。しかし話している内に何かを思い出したらしくキースの掌で突然立ち上がり長い髪を振り乱して、


「それをキースはっ! 馬鹿にしてっ、笑って挙句の果てにはお説教するんだもん。それは頭にくるわよっ」


 突如怒りに燃えあがったよう、再び金切り声をあげてそう言った。自分の掌で怒りの大きさを体で表しているのか、ぶんぶんと小さな拳を振るうミルシェにキースは視線を落とし、溜息をつく。


(……そんな表情に出てたのか。こいつの事だ、必死に考えての事だったんだろう。それを俺は)


 心配してくれたミルシェに対し僅かではあるものの笑ってしまった自分を過去に戻って叱りつけたくなる。しかしそんな事は出来るはずもなくただ、自分の過ちとして心に溜まっていった。

 けれどもミルシェが自分に対して抱く『心配』を、もしくは『不安』を軽くすることなら出来るかもしれない。そう思ったキースは目を瞑り魔力を体内で練り始めた。


(少しの間なら聖祭が近くであっても……)


 黙りこくるキースにミルシェは多少なりとも違和感を感じたのであろう。怒りと不安の混じった面持でキースを徐に見上げ「どうしたの?」声をかけた。……が、途端に表情は一変する。何か見てはいけないものを見てしまったようにミルシェはしゃがみ込み「ごめんなさいっ言いすぎたわ」キースに向けそう叫んだ。


「ったく……。俺がお前に魔術をかけるはずないだろうに……、信用ないんだな俺は」


 怯えたように縮こまるミルシェに「こっちを向いてくれ」と優しく言い掛け、自らは魔力を練りつつこみ上げる痛みに耐えそしれぬ顔でミルシェを見やった。人の瞳とは思えないくらいに紅く、燃え上がるような瞳で――。


「お前も知ってる通り俺は魔力を練るとこうやって右目が紅くなる。さっき会話をやり取りした時のような微弱の魔力なら反応はしないんだが一定量を超えるとこれだ……。普段なら痛みは感じないし魔術もぶれることはないんだが、『聖祭』が近づくと魔力を使わずとも痛みは感じるし魔力を使えば尚更痛みは生じるんだ」

「……わかってるからそんな事っ。だから私がキースを連れて遠くへって考えたんじゃないっ。なのにこんな所で魔力を使って痛みを受けてるんじゃ意味がないわっ!」


 キースの掌から首元に飛び移ったミルシェは「やめてよっ」懇願するように四方に散った金髪を思いっきり引き、乞う。しかしキースは魔力を練ることはやめずに慌てふためくミルシェを宥めるかのような優しげな口調で、


「けれど、そんなもんなんだ。痛みといってもそんな大それた程の事じゃないし、ほら、現に今俺だってそんなに痛そうにしてないだろうに……。ったく、心配しすぎなんだよミルシェは」


 そこまで言ってキースはふと魔力を練るのを止める。ミルシェにはあまり痛みを感じない、そう言ったものの、本来感じる痛みはそれほど甘いものなどではなく、体の内側から炎で焼き尽くされるような酷い痛みが体中を侵食していくのである。これ以上魔力を練り続けたらミルシェにばれてしまう。それでは本末転倒じゃないか。そう判断したキースはやや短い間だけであったものの魔力を練るのを諦め、ミルシェの呼び掛けに応じ止めたのであった。


「ほらな? そんなに痛くなさそうだろう。意外と感じないものなんだ……意外と。恐らく三年もやってきたもんで慣れてきたんだろうよ。最近では」

「そう……なんだ。じゃあ心配はないんだね?」

「当たり前だ。なんならもう一度やって見せてもいいんだが」


 再び魔力を練るように目を閉じたキースに「わかったから大丈夫!安心したっ」ミルシェは慌ててそれを断わり「良かったね」そう呟いた。

 キースはその慌てっぷりにやや不信感をいだいたもののミルシェが「本当に良かったわっ」と、満面の笑みでこちらを見つめ言い寄ってくるので内心ホッとした。バレていないのだと。


「……まぁなんだ? 俺の事についてはいろいろと他にも問題はあるけど、大したことはない。殆ど自分で解決できるし、もしできなかったらお前に頼むからさ、心配すんな?」

「……うん。わかった」

「……? まぁそういうことなんだ。今更になっての確認だがこういうことは重要だと思ってな、言ってみただけだ。ほら、用が終わったし城に帰るとするか」


 言い終わると同時にキースは「行くぞ」と言い残し、細い道の奥へと進んでいく。ミルシェも後に続き行こうとするも、


「……『完璧人間』てのは所詮噂ね。嘘をつくときキースったら饒舌になるんだもん。全く、世話の焼ける……」


 呟くと「そっちは城の方じゃないわっ」どんどん奥へ奥へと進むキースにそう叫び、大きくため息をついた。











また説明ばかり……、僕も早く本編にキースを放り込みたいんですけどそれでは物語にはならなくて……。

やっとのことで『城』に戻ります。あえて国名とかは出しませんでしたが次で分かると思います。

要するに今まではプロローグとしてみていただいてもよいかなと(長すぎですが……)

次回から次第に物語は動いていきますので是非、暇なときにでも目を通していただけたらなと思います。ではっ

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