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序話:月明かり照る少年

どうも読みに来ていただきありがとうございます!

この小説はシリアス&コミカル的な風潮を含む異世界ファンタジーです。

どうぞご気楽に読んでやってください。お願いします。

 人々が当たり前の事として捉え過ごす『平和』――、即ち日常は存外、日常から生まれた多少の歪によっていとも容易く崩れ去っていくものであり、そして感じられなくなって初めて感じられる――、淡く儚いものなのであった。


 そんな日常の一部を象る太陽はいつも同じように日の始まりを告げ、そして終わりを告げる。それは誰もが普遍的事象として捉え、当たり前のように理解認識し過ごす。しかし、必ず訪れるであろう明日の事などは、誰も分かり得るはずもない。増してや明日、自分の身に降り注ぐ運命などは知る由もなかったのである――。無論、それは明日をひたすら望む少年であってもそれは同じ事なのであった。


*・*・*・*・*


「早く逃げるんだっ、森へっ。西の森へ逃げるんだっ」

「わかってる! くそっ、なんで俺たちがこんな目にっ……」


 女、子供関わらず体中の至る所に怪我を負った人々は自らの傷を省みることなく、歩けない者を背負い、もしくは抱いて轟音と共に戦火灯る町の中をひたすら駆け抜けて行った。

 

 以前、静かに佇んでいた古い家々は放たれた火によって跡形もなく炎上している。敵国の武装した兵士から逃げるその住民たちの影が燃え上がる炎によってゆらゆらと千変していた。

 怒号、悲鳴、泣き声――。そんな非日常の事を当たり前にしてしまう『戦争』がこの町にも降りかかったのである。

 

 しかしこの悲惨な状況を打開する事は極めて困難なのであった。

 というのも大陸随一の領土を保有する大国――ザフィール帝国がさらなる領土拡大のために大陸南下政策を実行し、大陸の南東に位置していた小国、マイアール王国を蟻を踏みつぶすかのようにたった一日で制圧してしまったのである。

 もともとマイアール王国は他の大国に劣らないほどの戦力を備えていたのだが、それは戦術によるもの。質のいい指揮官を国が育て上げ他国と渡り合っていたのだがやはり、大陸随一だけあってザフィール帝国に戦術を用いて抵抗することは疎か、兵の量で押し切られてしまい制圧されてしまったのだ。

 

 からしてマイアールの残兵はもう殆どいない。国王据える城内には一歩たりとも入れないと半ば自棄を起こし、城の門に数十人の衛兵が固まっているがそれもいずれ突破されるだろう。いや、今すぐにでも。



「お母様……。お父様……。」


 炎移りゆく家々から少々離れた物陰に少年と少女が二人。息を殺して夜の闇に溶け込むよう身を隠していた。


「おいっ! そんなに身を乗り出したら見つかっちまうぞっ。ほらっもっとこっちに」


 少年は事もあろうか物陰から身を乗り出し、不安げな面持ちで少し先に位置する城門を見やる少女の裾を引っ張り、無理やり元の位置に戻させた。

 その数秒後に身を隠している所の近くで武装を施した兵士の怒鳴り声がしたので、少年はホッと一安心。大きな溜息をついた。


「気持はわかる。でも俺はお前の父さんに頼まれたからな……、約束は破りたくない」


 少年はぐっと堪えるように拳を握り、足元に視線を落とす。少女は少年の物言いに多少なりとも納得がいったのか、コクンと僅かに頷く。しかし、やはり気になるようでちらちらと視線を城門の方へやっていた。


「いい父ちゃんだなお前の……、それと母さんも。皆お前を心配していた……。自分の命なんてこれっぽっちも気にしてない風に。……、だから俺はお前を」

「わかってるっ!」


 突如として少女が少年の言葉を遮る。少年はやや驚いた面持ちで悔しさを滲ませた少女の顔を見やったが「そうだな」呟き再び足元へと視線を落とした。


「わかってるってば……」


 少女は少年の横に力無くどさっと座り込み、膝を抱え頭をそこに埋める。全部夢だったらいいのに……、少女は本気でそう思う。もしこれが夢となってくれるなら自らの命を代償として捧げてもいい。と、そこまで思っていた。

 

「……」


少年は座り込んだ少女を見て複雑な表情をする。何度か少女の元に手を伸ばし慰めようとしたが結局引っ込めてしまった。どう慰めてあげればいいのか分からなかったのである。

 

「お父さん……、お母さん」


 啜り泣きながらぽつりぽつりと呟く少女の声が轟音犇めく中、少年の耳に嫌というほど聞こえてきていた。


(どうすれば……)


 少年は自らも膝を抱えて座り込み頭を抱えた。しかし、


「……!?」

「きゃあっ!」


 まだ燃やし足り無かったのか、ザイマールの兵士が少年たちの身を隠しているところ目掛けて炎を投げやったのである。

 当然、少年の思案はそれによって打ち切られ心の中で舌打ちをする。取り合えず先ほどの衝撃でつんのめった体を立て直し、中腰になって再び身を隠した。


(一か所に留まりすぎたか……、これじゃすぐに見つかっちまう)


 自らの袖を細く震える手で掴む少女に「大丈夫だから」不安滲んだ少女の瞳を真っ直ぐに捉え、はっきりと言った。


「おいっ! あそこに餓鬼がいるぞっ。男と女ですかぁ〜。愛の逃避行ですかい? そりゃお断りだぁ」


 はっとなって声の方向に向き返ると武装を施した男たちが四、五人。ベッタリと血の付いた剣をチラつかせ、卑猥な笑みを浮かべながらこちらに近づいてきていた。

 

「くっ……」


 気付いて辺りを伺えば身を隠していた所も半壊気味で身を隠すにはもうもたないところまできていた。ぐらり、と背中を寄せていた壁が軋む。

 

「ちっこいけど仕方ねーよな。命令だし」


 何が面白いのか、品の欠片も無い笑みを零しながら男たちは少年少女の元へ一歩、そしてまた一歩、と近付いて行った。


「ちっ……」


 じわじわと近付いてくる男たちに圧迫されるように少年は顔を苦渋で歪ませ、ぐらぐらと揺れる壁に背を押しつける。


(せめて彼女だけでも……。少しでも、ほんのちょっと時間が稼げれば……)


 視野に、にじり寄ってくる男たちを入れながら辺りを伺い、どうにか逃げることはできないか、と思索する。

 ぐらり、また壁の軋む音がした。


(……!)


 少年は今にも泣き出しそうな少女の小さな手をギュッと握りしめる。彼女だけでも助けたい。約束などとは無関係に心からそう思ったのだった。


「キース?」


 涙を浮かべた瞳で少女は握られた手を見た後、不思議そうに少年の名を呼ぶ。少年はその手をもう一度強く握りしめ、大きな声で男たちに叫んだ。


「俺は逃げないからなっ!」


 同時に後ろの壁に向け、目一杯の力を込めて足を叩きつける。すると、グラグラと揺れていた壁が一瞬ぴたっと動きを止めた。一部始終を見ていた男たちも「自棄でも起こしたか」そう言って訝しげな表情で少年を見やっていた。

 

 すると、一拍置いて少年の背後から木のぶつかり合うような破壊音がする。続けてけたたましい轟音が少年の頭上付近で焦げ臭い匂いと共に聞こえてきた。既に半壊気味だったこの建物は、少年の蹴った事によって歪んでいた壁から一気に元の形状を保てなくなり崩れてきたのだった。

 燃える木の破片は少年の元へと容赦なく一気に降り注ぐ。


「早くっ! 押しつぶされたらお終いだっ。ちょっとでもいい、時間が稼ぎたいんだっ」


 間一髪で落ちてくる木の破片から少女の腕を引っ張って救い、そのまま手を引いて勢いよく駆け始める。


「なんだなんだ? 今度は逃げんのかい」


 男たちは少年らに逃げられてしまったにも関わらず、どこか楽しげな面持ちで闇を裂くように駆けている少年を眺めている。そして少々間を置いた後、やっとの事で自らの使命を思い出したのか男たちは少年らの後をのろのろと追って行った。


 *・*・*・*・


「少しは時間が、はぁ……稼げたか」 


 無心に逃げ込んだ森の中はやはり真っ暗だった。所々木々の隙間から燃える城下町の光景が見えるものの、森を照らしているのはいつもとなんら変わらずに夜空に浮かぶ夜月だけだった。

 

「……はぁはぁ。ちょっと疲れたかも」


空を見上げる少年の横には体力の限界がきたのか、呼吸を荒くしてしゃがみ込んでしまった少女がいた。


(これ以上は……やっぱり無理だな)


 咳き込んでしまっている少女を見て心の中で現状を把握する。運よく森に隠れられたものの、時間が経てば二人とも見つかってしまい殺されてしまうだろう。

 少年はもう一度夜空を見上げそう考えた。


「餓鬼〜っ、見つけたぜぇ」


 多少は人数が増えてはいるものの、相手はやはり子供だからであろう。遊び半分に殺しに来たという感じで男たちは少年らと十メートル位の距離でゆったりと足を止める。

 少年は予想よりも見つかるのが早かったな、そう思うもうろたえたりはしなかった。ただ、男たちがそれぞれ腰に掛けているランタンが今は何故か異様に眩しく見に映った


「俺たちとしちゃ〜殺すのもなんなんでぃ。そこの嬢ちゃん見たとこかなりの別嬪さんじゃねぇーかい。どうだ……、自分を売ってみないか? そこの嬢ちゃん」


 少女はビクッと反応して少年の足もとに縋る。それを男たちは面白そうに口を歪め見やっていた。


「聞こえる? レフィカ」


 少年は男たちに聞こえないよう、小さな声で少女の名前を呼び、問いかける。聞こえたのか少女は思いっきり顔をあげ少年の顔を仰ぎ見た。そんなあからさまに反応されては密談が男たちにばれてしまうじゃないか、そう思い少年は場違いな溜息をつくも、どうやら男たちは気付かなかったようで「あっちの少年はどうする」と何やら話しこんでいた。


「返事はしなくていいからよく聞いてくれ……大事なことだから」

「……」


 少年は、足元に座り込んでいる少女が頷くのを視界の片隅で確認し、あくまで視線は男たちに、そして意識は少女に投げかけ静かに話を続けた。 


「ここから西にずっと行ったところに人が二、三人入れる程度の洞窟がある。茂みに隠れていて見つかりにくいかもしれないけど、それは逆に敵にも見つかりにくいって事だ。僕が今から時間を稼いで奴らを引き付けておくからその内に……」

「……駄目よキース。あなた一人じゃきっと殺されちゃうわっ」


 ギュッと足を握りしめてくる少女に少年は「大丈夫だから」そう言い、首から下げていたのだろうか、紐のついた紅い宝石のようなものを服の中から取り出し、少女に見せた。


「駄目よそれはっ! キースっそれは駄目よっ!」

 

 少女はそれを見た途端に大きな声で少年の案を否定する。案の定、男たちにも声が届いてしまったようで「なんだぁ?」と近付いてきてしまった。

 少年は一瞬どうするべきか迷ったものの、これしか方法はないと判断し、いつの間にか立ち上がっていた少女を突き放して庇うように男たちの前に立ちはだかった。


「痛っ……っ、キースっ! 駄目よそれはっ。まだ使いこなせてないのに……、のみ込まれちゃうわっ! 私キースの魔術の力量だって知ってるんだからっ! お願いだからやめてっキース。……キースまでいなくなっちゃったら私」


 どんなに言ったところでキースの意思は変えられないと分かったからだろうか、少女は崩れるようにその場にへたれこみ「お願いだから……」呟きながらすすり泣く。

 男たちは「こいつ魔術師なのかっ」そういって身の危険を感じたのか、一斉に地面に突き刺したままの剣を抜き少年へと向ける。


「大丈夫だって……。まだ扱い方は分からないけどこの『聖石』――、『マナ』なんかには負けやしないさ。レフィカ」

「お願いだから……、キース。それだけは」

「なんてことないっ! レフィカはレフィカで自分の立場を考えた方がいいよ? 『お姫様』」

「……キース」


 何かを掴むように少年に向けられた少女の手は何も掴むことができずに地面へと力無く落ちる。

 少年は少女への思いを打ち切るべく視界から少女を消し去った。


(……くそっ! こんな博打に身を委ねるなんて。レフィカも近くにいるのに……どうする)


 少年は少女に対する言動とは別に、心の中で自らを叱咤する。すると、手に握られている紅い宝石――『マナ』が少年の心に反応したかのように光がこぼれ始めた。

 

「……っ」


 手の内にある『マナ』の冷たさを生々しく肌で感じつつ、少年は徐に一歩。そしてまた一歩と男たちの元へと進んでいった。

すると、見た目十二歳くらいの少年に対し男たちは身の危険を感じたからであろうか。一歩二歩と恐れ慄くようにじりじりと後ずさっていく。

 が、しかしそれが逆に自らのプライドを傷つけたらしく、男たちは『恐怖』という枷が外れたように大きな声を張り上げ剣を振りかざして少年に襲いかかってきた。


「レフィカ……。ごめんな?」


 場違いのように優しい言葉を泣いている少女に背を向けたまま投げかける。そして手に握っていた『マナ』を胸元にもっていき、ポツリ。何か呪文のような短い文句を呟いた。


「早く殺せっ! こいつはやばいぞっ」


 男たちが少年の喉元、首、頭をそれぞれ切り刻もうとした時、眩しい位の光が少年の胸元から発っせられる。


「レフィカ……」


 その光は明るい未来を導くような眩い輝きではなく、夜を包む暗闇よりもさらに深い――紅色の闇であった。


「神様……お願いっ! キースだけでも……おねがっ」


 その光は少年の未来を貪るかのように少年の体を包み込み、ただただ不気味な光を灯して男たちを文字通り消していく。


「っ……いだから。キースを消さないでっ」


 闇の中心に立ち尽くしていた少年も然り。世から存在は消えなかったものの、事途切れたかのように少女の目の前でどさっと崩れ落ちてしまった――。

 




 

 




 

 

 


作者はシリアスよりもコミカルな方が好きです。いえ、断然好きです。

これだけは言っておきたくて……ですね。

この物語は決して暗い話ばかりでは無いという事をどうか理解してやってください。


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