第18話 誘われる惨劇
アルカ達がチェインの助力によって輸送用倉庫へと辿り着いた頃,ゲインを操作していたイオフィは目の前の光景を見て考えあぐねていた。
現在,ゲインは反転外壁エリコに接近した状態で停止している。
言わば何もせず,何もされていない状態。
本来なら攻め入った皆の状況を見て,加勢するべきなのだろう。
だがエリコの入り口である監視塔には,煙幕のような黒い霧が大規模に展開されていた。
『通信妨害を検知。これでは内部の状況が分かりません』
「あの煙幕は……?」
『イドリースが展開した炎と推測します。彼の炎は灰の性質も持ちます。それらをあの塔全域に行き渡らせたのでしょう』
背後で恐る恐る,と言った様子のエモにイオフィが説明する。
機械である彼女は,電気的情報の解析で人間以上の探知が可能だ。
しかし今は,イドリースの煙幕によって探知が妨害されている。
塔の中で何が行われているのか分からないまま,無策で飛び込む訳にもいかない。
「ここを攻撃してくる人はいないの?」
『イドリースが食い止めているようで,奇襲を掛けてくる者はいません。向こう側も混乱状態にあるのかと』
「アルカちゃん達は……?」
『残念ながら,そちらの状況も分かりません』
「そう……なの……」
イオフィはゲインと接続しながら塔以外の探知を怠らなかった。
増援を呼ばれ,エリコ以外の方面から奇襲が来る可能性もある。
今の彼女に出来ることは,待つこと以外になかった。
もどかしい時間が過ぎる中,唐突にエモが近づいてくる。
「一つ,聞きたいのだけど」
『何でしょうか?』
「イオフィちゃんは記憶を失っている,って言っていたわよね?」
『人として当て嵌めるなら,そうなりますが』
「……本当に何も覚えていないの?」
『?』
振り返ると,エモの瞳が見えた。
一種の迷いを感じる目,機械であるイオフィにはない感情表現だった。
ただ何かを恐れ,戸惑っていることだけは理解し,冷静に応答する。
『再起動が行われる以前の情報は破損しています。虚偽の情報を伝える意味はありませんが……?』
「そ,そうよね。ごめんなさい……」
仮に記憶が残っていたとして,嘘を言う理由もない。
あっけらかんとしているイオフィに,慌ててエモは謝罪した。
何故突然,彼女が記憶の有無を気に掛け始めたのかは分からない。
自分の意志でイドリース達に同行したことと,何か関係があるのかもしれない。
そう推測しつつ,イオフィはもう一言付け加える。
『ワタシは機械。かつての人間から造られた兵器です。信用できないのも無理はありません。しかし,貴方達を傷つけるつもりはありません。今ここにいることが,その証明とさせて下さい』
イドリースを含め,旧人達は今まで機械人形を見たことがない。
当の彼女本人ですら,記憶の欠落によって曖昧な部分が多い。
疑われるのも当然と言えば当然である。
それでもゲインを動かし,イドリース達をエリコまで運び,人間側に不利になるような行動を取り続けた。
始めから裏切る気だったなら,ここまでのことはしない。
それらの話を聞いて,エモは僅かに俯きながら口を開いた。
「私は,記憶はとても複雑なものだと思うのよ」
『?』
「だから不安だったの。貴方の記憶が戻った時,その考えが変わるかもしれないから」
イオフィには失った記憶を取り戻す願望がある。
自分が何のために造られ,900年間眠らされていたのか。
ただ,それらを知ってしまえば,今までの自分と異なる考えを持ってしまうかもしれない。
過去の記憶に人格が引っ張られるということなのだろう。
生憎,イオフィは記憶に関する持論を持ち合わせていない。
どう返答するべきか,沈黙したまま思考する。
だがその瞬間,ある異変が起きる。
傍にいたエモは何も気づかない。
だが機械であるイオフィは,確かに異様な気配を察知して周りを見回した。
『……!』
「イオフィちゃん?」
『……検知』
「えっ?」
『これは,まさか……』
その気配は,ある種の既視感。
過去を呼び起こすような,以前に体験したことのある感覚。
数秒と経たない内に,途轍もない殺気がゲイン全域に吹き抜けた。
何が起きたのか分からなかったエモも,息を呑んで戸惑い始める。
「何!? 今の寒気……!」
『ゲインを自動操縦モードに切り替えます』
「!?」
『この感覚,覚えがあります。エモは此処に残って下さい。決してこの要塞から出ないように』
今の殺気はエリコ内部から発せられたもの。
人間の気配でも,ましてやイドリース達のそれでもない。
再来してはいけない何かが,今現れようとしている。
最悪の予感を抱いたイオフィは,動かざるを得なかった。
かつて己が成さなければならなかったことを,身体で覚えていたのだろう。
機械に接続していた両手を引き離し,止まっていた羽を動かし,勢いよく操縦室から外へと飛び出す。
「待って! イオフィちゃんっ!」
エモが呼び止めるも,既に彼女は飛び去った後だった。
機械の羽から放たれた光が微かに見えるだけで,じきに煙幕渦巻く監視塔の中へと消えていった。
●
「どういう……ことなんだ……?」
「僕はカーゴカルト様の研究を,ある程度は知っていたんす。あの方が旧人を運び入れて,新しい命を生み出そうとしていることを」
「新しい命……?」
「はい。それが彼女,アルカという旧人っす」
輸送倉庫内では,ファントムがアルカの素性を語り始めていた。
彼はカーゴカルトの研究に関わっていたのだろうか。
彼女が十傑によって造られた人造旧人であることも,迷いなく断言する。
代わりにチェインは相変わらず首を傾げていた。
「おい,トム。そんな話,俺は一度も……」
「……僕が知ったのも偶然っす。一度だけ研究所に立ち入った時っすね。あの方は秘匿主義で,自分のことを殆ど語ろうとはしなかったので」
表情を変えないままファントムは説明する。
それを聞いてチェインはどうにか納得したようだが,当然受け入れられない者もいた。
アウグスはアルカを呆気に取られた視線で見下ろす。
そして当の彼女は青ざめたまま俯いていた。
「彼女が……人間に造られた旧人,だって?」
「勿論,無から有は造り出せないっす。彼女を造るために,元となる身体が必要になったはず。だから……」
「エリコにいる皆を利用していた……?」
「……恐らく」
エリコに隔離されていた旧人達も,ひたすら差別されるために存在していた訳ではなかった。
ファントムはアウグスの持つ輸送記録を指差す。
「輸送先を見るっす。過去に輸送された殆どの人が,ペンタゴン行きのものの筈。きっとここは旧人を隔離するための場所,という意味だけじゃなかったと思うっす」
「……」
「非常に言い難いことっすが……ユーリエさんはペンタゴンに運ばれた。そして……」
ファントム達もペンタゴンの全ては把握していない。
しかしカーゴカルト亡き後,主の塔は全て精査された。
彼らもその場に立ち会い,そこで改めて判明したことがある。
ペンタゴン内に,存命の旧人は一つも存在しない。
「じゃあ,ユーリエは……?」
未だに理解できないのか,受け入れられないのか。
呆けた様なアウグスの声が悲しく響く。
返す言葉もないままアルカがその場に膝を付き,異変に気付いたエクトラも彼女の方へ振り返る。
「アルカ……!?」
「やっぱり,あの場所にいた人達の中に……ユーリエさんが……」
アルカは思い返す。
ペンタゴンから脱出する際に出会った,実験体となって死亡していた旧人達について。
彼女は個々の名前も,どんな人物だったのかも知らない。
だがその内の一人がユーリエだったことは,輸送記録からしても確実だ。
加えて輸送された同族は,カーゴカルト戦の最中に全て消失した。
眠らせてほしいという彼女の願いを聞き入れた,イドリースの炎によって消し飛ばされた。
最早,ユーリエだったものは跡形も残っていない。
最期に至っては,彼女自身の手で行ったようなものだった。
「もし,そうなら……私は……」
アウグスが探し求めていた少女は,既にこの世に存在しない。
いるとすれば,それはアルカの遺伝子内だけだろう。
自分がどれだけの同族を犠牲に生み出されたのかを再度理解し,彼女は身体を震わせる。
途方もない罪悪感が全身を縛り付ける。
「……おかしいと思っていたんだ」
直後,頭上からアウグスの声が聞こえる。
恐る恐るアルカが見上げると,彼が濁らせた瞳を見開いていた。
「似ている筈がないのに,どうしてユーリエの面影を感じるのか……。そこに彼女がいるように思えていたのか……。それだけじゃない……今まで死んでいった仲間達も全部……」
「アウグス……さん……」
「やっと,分かった……。お前は……知っていたんだな……!?」
彼は,ユーリエを探してここまで来た。
彼女が生きていることを信じ,彼女達を奪った者への怒りを秘めて,ここまで辿り着いたのだ。
抑え切れない激情が形となって,彼の右手がアルカに伸ばされる。
だがそれを遮るように,ファントムが間に入り仲裁する。
「落ち着くっす。ここにいる彼女は,アルカという旧人。ユーリエさん達とは違うっす」
「何……?」
「似ていたとしても,それは錯覚に過ぎない。だから……」
彼女はユーリエではない。
ましてや主犯でもない,ただの被害者である。
そう言おうとしたファントムだったが,有無を言わさず,アウグスが彼を殴り飛ばした。
ファントムも突然殴られるとは思わなかったようだ。
受け身も取れないまま,後方の機械に全身を鞭打ち倒れ伏す。
対するアウグスは荒く呼吸を繰り返していた。
「トムッ!? いきなり何をしやがる!」
「コイツはユーリエ達が運ばれたことを知っていた。結局は同罪なんだろ?」
「さっきの話を聞いてなかったのか!? 俺達はカーゴカルトの研究に関わってねぇ!」
「そう言って,白を切る気か……?」
「何だとッ!」
怒気を含んだ言葉に,チェインが真っ向から対抗する。
ペンタゴン所属だった彼らが,アルカの製造に関与していないのは事実だ。
全てはカーゴカルトが単独で行った事。
アウグスもそれは理解していたのかもしれない。
だがそれを呑み込めるだけの冷静さが,今の彼にはなかった。
「ユーリエは……オレ達が小さい頃からずっと一緒だったんだ……。こんなクソッタレな状況でも……皆と一緒に,必ずここから出て暮らすんだって……約束したんだ……。なのに……ッ……!」
ユーリエだけでなく,今まで過ごしてきた仲間達の命が散々弄ばれた。
絆を重んじ,人間への敵対心を持つ彼にとっては,到底許せるものではなかったのだろう。
その様子を見て同族であるエクトラも,焦りの色を見せながら止めに入る。
「アウグス,落ち着いて! 二人に悪気はないよ! 勿論,アルカだって!」
「じゃあ,誰が悪いんだ?」
「だ,誰って……」
「誰がユーリエ達をこんな目に……こんな風に運び出したんだ?」
その一件を企てた元凶。
それは他でもないペンタゴンの統括者,カーゴカルトである。
しかし彼はイドリースとの戦いの後,エリヤの意志によって倒された。
最早恨みをぶつける相手も,この世には存在しない。
その場にいた殆どの者が分かっていたため,何一つ返答できなくなる。
沈黙が続き,アウグスはゆっくりと視線を別の場所に映す。
そこにはチェインが黒鎖で捕えていたエリコの職員がいた。
「そうか……! コイツらかッ……!」
やり場のない怒りが,意識を失っている職員たちに向けられる。
嫌な予感を抱いて皆が出遅れる中で,彼の右手が持ち上がる。
腕にはシャドウの頭部を吹き飛ばした腕輪があった。
まさかと思う間もなく,腕輪から放たれた光線が職員らの身体を貫く。
不老不死なので致命傷にはならないが,着実にその肉体を削り取っていく。
「お前達が! お前達さえいなければッ……オレ達はッ……!」
意識を失っている職員は何も言わない。
そんな彼らを,アウグスは怒りに満ちた表情で撃ち続ける。
被弾した倉庫の壁が振動し,辺りを震撼させる。
彼の言動は,先程倒したばかりのシャドウに酷似していた。
恨みの感情で我を忘れつつあることに気付いたアルカが,屈していた膝に力を込め,その暴走を止めようと近づいた。
「アウグスさん! 止めて下さいっ!」
制止の言葉。
今のアルカに出来るのは,それだけだった。
だがアウグスは彼女を見て,手を止めるだけでなく声を震わせた。
「く……来るな……!」
「っ……!?」
「頼む……来ないでくれ……。それ以上,彼女のフリをしないでくれ……」
我を取り戻したかに見えた彼は,一転して怯え始めた。
怯える先は,言うまでもない。
どうにか見て見ぬ振りをしてきたユーリエの面影が,より一層感じられたのだろう。
アルカを認めるという事は,即ちユーリエの死を認めるという事。
今の彼に,彼女の言葉は逆効果だった。
アウグスは皆から一歩一歩離れていき,力なく首を振った。
「違う……。お前は,ユーリエじゃない……!」
「ぁ……」
絶句するアルカに背を向け,彼は走り出した。
この場にいることが耐えられなかったのだ。
閉め切っていた倉庫の扉を開け,外へと飛び出していく。
「おいッ! 勝手に外に出るなッ!」
チェインが後ろから呼び止めるも,意味はなかった。
扉が自動で閉まり,アウグス以外の者が全員残される。
アルカは彼から突き付けられた言葉に愕然としたまま動けない。
自分の存在理由を否定された,そんな気分だった。
そんな彼女の肩をエクトラが優しく触れる。
「アルカ,しっかり!」
「エクトラ,さん……」
「大丈夫! アルカはアルカ,他の誰でもないんだから!」
必要以上に自分を責めないように,エクトラは励ました。
存在することが罪である筈がない。
彼女の言葉は確固としたものだった。
チェインもエクトラと同じく,殴り飛ばされたファントムの元へ駆け寄る。
「トム,さっさと起きろ!」
「いや……不意打ち気味のパンチは効いたっすよ……」
「どうせ痛くも痒くもねぇだろ。んなことより,さっきのヤツを追うぞ。外にはまだエリコの連中がいるんだ。もし見つかりでもしたら……!」
僅かに焦りつつ,彼はアウグスが出て行った扉の向こうを見据えた。
幾らイドリースが奇襲を掛けた事で周りが切迫していようと,倉庫外に出てしまえば職員たちに見つかる可能性が高くなる。
ここは敵地。
連れ戻さなければ,潜伏していることがバレてしまうかもしれない。
チェインの言わんとしていることにアルカ達は息を呑み,消えた彼の跡を視線で追った。
●
「クソッ……!」
倉庫から逃げ出したアウグスに行き場はない。
息を乱し,汗を流しながら,駆動する機械やトランクの山を走り抜ける。
一刻も早くあの場から離れたい,そんな思いしか残されていなかった。
同時に彼は過去,皆と過ごした日々を思い返す。
そうしてユーリエと切磋琢磨したことも思い出す。
アルカは彼女とは違う。
そんな事は分かっていた。
だが,あの姿がどうしてもユーリエと重なる。
似ている筈がないのに,似ていると認識してしまう。
これは彼自身が錯乱しているだけでなく,ユーリエの遺伝子が彼女に濃く受け継がれているせいでもあった。
「オレは……一体……!」
どうすれば良いのか。
どんな顔をして彼女の傍にいれば良いのか,アウグスは分からなくなっていた。
だからだろう。
背後からエリコの職員が襲い掛かってきた事にすら気付かなかった。
反応するよりも先に,思い切り床に組み伏せられる。
「ぐあッ!?」
「おい! やっぱり,旧人が脱走していたぞ!」
「待て,しかもコイツ……先日逃げ出した個体じゃないか! 何故,こんな所に……!?」
「そうか,分かったぞ! コイツがイドリースの侵入を手引きしたんだ! そうでないと,ヤツが此処まで辿り着いた説明が付かない!」
「確かに……! という事は,コイツの狙いは旧人共の解放か……!」
錯乱して飛び出せば,人間の目に留まるのは当然の事だった。
数人がかりで捕えられ,アウグスは身動きが取れなくなる。
冷たい床の感触が,まぜこぜだった思考を取り戻していく。
すると奥から別の男がやって来て,彼を見下ろした。
「丁度良いじゃないか」
「主任?」
「ダブラ様から頂いていたブツを使う時だ」
主任と呼ばれたその男は,懐から注射器を取り出す。
中には得体の知れない白い液体が詰まっている。
それを見て,アウグスは強烈な胸騒ぎを覚えた。
「それは一体?」
「万一,イドリースが攻め込んできた時に使えと言われていたものだ。本来は倉庫内の旧人共に使うつもりだったが,この男でも問題ないだろう」
「薬物,ですか……?」
「さぁな。ただ,ダブラ様の言葉に偽りはない。あの人の言葉は我ら王の言葉。きっと,この混乱した状況を打開してくれるだろう」
そんな筈がない,と彼は直感する。
一体何を言われて注射器を受け取ったのかは知らないが,とてもまともな結果を生むとは思えない。
どうにか抵抗するも,複数の人間に抑えられて全く動けない。
挙句の果てには腕輪も取り上げられ,完全に力を失ってしまう。
「な,何をする気だ……!?」
「知る必要は無い。そもそも逃げ出したお前に存在価値なんてないんだ。せめて我々の役に立て」
「や……止め……!」
無造作に突き付けられた注射器が,アウグスの手首に迫る。
駄目だ。
こんな所で終わらせたくはない。
まだ何も,取り戻せていない。
まだ何も,彼女に言えていない。
だが,そんな思いも空しく針は差し込まれ,体内に謎の液体が注入された。
「ぁ……うおおおァァァッッ!!」
潜伏期間すらない,体内に入った瞬間からアウグスは叫び声を上げた。
痛み,疼き,静まりかけていた感情の暴走。
予想外の状況に,取り押さえていたエリコ職員達も驚いて飛び退いた。
全身が肥大化する。
肌は青黒い色へと変貌し,現れた鱗のような外殻に敷き詰められる。
頭部の角は,より鋭利なソレに変わり,人ではない何かに置換されていく。
その変わりように何処か覚えがある気がして,アウグスは視線を下ろす。
一瞬だけ見えた己の手は,何処からどう見ても化け物のソレだった。
代わりに一つだけ分かった事がある。
この姿は,人間から言い伝えられていた惨劇の象徴と瓜二つだった。
「しゅ,主任……! これはッ……!」
「馬鹿な……! この禍々しい姿は……900年前のッ……!?」
分からない。
ひたすら思考が奪われていく。
そして,別の何者かの意志が流れ込んでくる。
全てを滅ぼせ。
全てを亡き者に変えろ,と囁きかけてくる。
アウグスは走馬灯を見ながら,僅かに口を動かした。
「ユー……リエ……」
瞬間,彼の思考は途切れ殺意の塊に呑み込まれる。
次いで出た声は,人のものではない獣の,惨劇の再来を呼ぶものだった。
周りにいた人間達もその光景に恐れ戦く。
彼らにとっては忌まわしく,不老不死の発端となった生命体。
これは900年前の,惨劇の再来。
反転外壁エリコに,滅んだはずの感染体が出現した。




