第3話 好きなこと,苦手なこと
イドリースがエモと対話をしていた頃。
アルカは大樹の里近くにある開けた場所,所謂畑にいた。
この場所は日の光がしっかりと当たるように,辺りに背の高い樹はない。
畑の作りも知識が乏しい中で,旧人達が最適な方法を導き出したらしく,それ程の不自然さもない。
耕された土壌には,一面に食物の葉が広がっており,ごく普通に育っていた。
「よいしょっと……」
綺麗に整列した葉の群れに,アルカは水撒きを行っていた。
形の悪い如雨露を両手で抱えつつ,順番に一定の水量を注いでいく。
そして水が無くなったら,予め川から汲んでいた大きめの木製バケツから取り寄せる。
単調な作業だが畑自体が割と広いので,それなりに時間は掛かる。
アルカはその内の一部を任され,指示された通りのことを行っていた。
ふうっと息を吐いた彼女は,共に行動していた褐色少女に声を掛ける。
「エクトラさん! 水撒き終わったよ!」
「うん,ありがと」
隣の畑で同じ作業を行っていたエクトラが,短く答える。
相変わらず素っ気ないものの,少しだけ穏やかで棘がないようにも見える。
彼女達二人は自ら願い出て,水撒きや草抜きの作業を行っていた。
ゲイン戦での疲れも癒え,イドリースが休みなく結界の調整をしている今,何もしない訳にもいかない。
日常的な仕事の中で畑に興味を持ったアルカに,エクトラが付き添いをした形である。
エクトラも畑作業程度ならば知識はあるので,何も知らない彼女の問いにも答えられた。
「これって果実だよね?」
「そう。育てるのは手間だけど,上手くいけば今よりも大きくなる。とても甘いよ」
「もしかして,エクトラさんって甘いものが好きなの?」
「……どうだろ。でも,嫌いじゃないかな」
大きな葉に隠れる,丸い緑色の果実を二人で見守る。
熟せば色が黄色へと変わり,食べられるようになるらしい。
「そう言うアルカはどうなの?」
「うーん。私も甘いものは好きだよ。でも,味がするものなら何でも大丈夫かな?」
「味?」
「えっと,ペンタゴンにいた頃は薬ばかり飲んでいたから,味のある食べ物って食べたことがなかったの」
「そう,だったんだ。何だか悪いこと,聞いた?」
「ううん,全然悪くないよ。何でも聞いちゃって」
些細なことだと言わんばかりに,アルカは首を振った。
彼女は自分がペンタゴンで製造された人造旧人であること,それを生み出したのが十傑のカーゴカルトであることをエクトラに明かしていた。
怨恨から解放された今,それを告げても問題はないと,イドリースから許可をもらったためでもある。
当初はエクトラも驚きはしたが,態度が変わることはなかった。
寧ろ,より軟化したようにも感じられる。
アルカは既に自分を生み出した父とも言える存在,カーゴカルトを弔っている。
両親を失った彼女だからこそ,何か思う所があったのかもしれない。
少しの間があって,果実を見ながら言った。
「あたし,今まで好みとか,あまり考えたことなかった。でもそういうのが分かってこそ,自分らしさってものが,あるのかもしれない」
「じゃあ,今からいっぱい自分を探していけば良いんじゃないかな? 先ずは,甘いものから,ね?」
「そう,だね」
少しずつ前に踏み出せば良い。
屈託のない笑顔を向けたアルカに,エクトラも少しだけ笑う。
既に命を絶つ理由を失った彼女は,真っ直ぐに恩人を見つめる。
「ありがとう。あの時,あたしを引き留めてくれて。今はまだ分からないけど,皆のために,これからは生きてみるよ」
無論,命を繋ぎ止めたのはアルカだけではない。
過去のしがらみから解き放ったイドリース,迎え入れた里の人々がいてこそ,エクトラはここにいる。
今を生きることが出来る。
その透き通った瞳を見て,清々しい気分になったアルカは,気を取り直して畑の果実を見比べた。
すると一つだけ,熟した色を持つものを見つける。
「あ,見て見て。これ,すごく良い色してる。食べ頃じゃないかな?」
そう言いながら,アルカは目的の果実の元に近づく。
具合を確認してもらおうと,丸々育ったそれの葉っぱをサッと退かす。
ただ裏の影には,やたら大きな芋虫が隠れていた。
「ひゃうっ!?」
思わず悲鳴を上げたアルカは,持っていた葉を手放してエクトラの背に回り込む。
急な驚きように,盾にされた彼女も少しだけ困惑する。
「え,どうかした?」
「む……虫っ……」
「あぁ,甘い香りに誘われたのかもね」
何でもないように返答する。
これだけ大きな畑なのだから,芋虫の一つや二つは必ず寄ってくる。
エクトラからしたら何度も見ている類なので,一々リアクションを取る程のものでもない。
それでも初見のアルカにとっては,衝撃的なものだったようだ。
彼女の背を借りて,やたら身体を震わせる。
「そんなに怖いの?」
「そそ,その……ち,小さいのは良いんですけど……大きいのは苦手というか……」
「ふうん,何だか意外だね。テウルギア達には,あれだけ啖呵を切ってたのに」
「それとこれとは違うし……。エクトラさんは……?」
「別に,あたしはそこまで。見慣れてるせいかな。毒がある訳でもないし」
平然としたまま,指先から放った小さな電撃を浴びせて倒す。
エクトラの力は薄い膜上に展開するだけでも,獣や虫除けになる。
防虫対策が少ないこの状況では,割と重宝されていた。
黒焦げになって転がった虫を指差して,彼女は振り返る。
「やっつけたけど,コレを退かして……」
「……」
「あたしがやろうか?」
無言のまま,何度も首を縦に振るアルカ。
ペンタゴンの研究所では,虫は一匹も生息していなかった。
これまで生きた虫を見る機会は殆ど無かったので,この反応も頷ける。
ただ幼い子供のような言動だったので,エクトラは仕方なく,黒焦げの虫を森の方へと放り投げる。
害虫駆除は里では日常茶飯事なことだ。
一々驚いていては身が持たない。
同じ畑作業を行っていた里の住人も,苦笑しながら声を掛ける。
「その驚きよう,里を救ってくれた恩人とは思えないなぁ。でもまぁ,あれ位の虫なら徐々に慣れていくさ。俺も昔は,気味が悪いって驚いてたもんだ。頑張りな」
「うぅ……頑張ってみます……」
こればかりは回数を重ねて克服する以外にない。
住人に恐る恐る返答しながら,アルカはゆっくりと深呼吸を繰り返した。
彼女にとって巨大芋虫との相対は,十傑とのそれに匹敵するのかもしれない。
「やっぱり苦手なものって,誰にでもあるんだね」
「そう……かも……」
「あ,そういえば苦手と言えば……」
結論付けかけたエクトラが,唐突に指を一本立てて言った。
「あの人,イドリースに苦手なものってあるの?」
いきなりな疑問に,アルカが目を丸くする。
苦手な話の流れから,イドリースにもそれが当てはまるのか,気になったらしい。
だが彼に苦手なものなどあるのだろうか。
アルカも少し考えてみたが,はっきりとした答えは出て来なかった。
「う,うーん。何かあるのかな」
「まぁ,何でも平気な顔してそうだし,なさそうに見えるけど。やっぱり好き嫌いの一つや二つ,あるんじゃない?」
「確かにそうだけど……あんまり想像できないというか……」
イドリースは,千年前に最強の英雄と呼ばれた男である。
十傑との戦いを繰り広げた彼が,アルカみたく怯える光景が全く見えない。
だがそれでも,顔が青くなるようなものがあるとしたら,どうだろうか。
二人は互いに顔を見合わせた。
「……イドさんに,聞いてみる?」
「みようか。少し興味があるんだ」
何となくの好奇心。
二人の思いは一致していた。
「ちなみにエクトラさんは?」
「あたしは辛いものがダメ」
それとなく聞いてみると,苦手なものに関しては即答するエクトラ。
自覚はないと言っていたが甘党らしい。
基本的に涼しい顔をしていることもあって,あまりそうは見えないが,意外な一面が分かるのも悪いことではない。
アルカも彼女のことが知れて,少しだけ嬉しくなった。
そうして二人は,早々に畑作業を終わらせるのだった。
作業を終えて,他の人々と共に大樹の里に戻る。
彼らと別れてからイドリースのいる小屋へ向かうと,中から別の声が聞こえてきた。
何やら楽しそうである。
不思議に思ったアルカ達が,静かに小屋に入って中を覗いてみると,旧人の子供達が彼の周りに集って何かをせがんでいた。
「ねぇねぇ,じゅわってして」
「してしてー」
「仕方ないなぁ。あと一回だけだぞ?」
根負けしたイドリースが,傍に置いてあった籠から濡れた服を取り出す。
あれらはエモ達が川で洗濯した衣服である。
乾かし屋としても働いていたため,それらを手渡されていたのだろう。
彼は子供達に見せつけるように,濡れた一枚の服を正面に広げる。
そしてその直後,そこへ塵芥の炎が灯される。
灰と炎の塊が生まれ,濡れた服が一瞬で乾いていく。
同時に小さく鳴り響く水の蒸発音。
単純に服の水が熱せられて消えた音なのだが,子供達からすれば聞き慣れないもので,それに興味を抱いているようだった。
「わああ! じゅわってした!」
「じゅわじゅわー!」
「ほら,乾かせたコレを持って皆の所に戻るんだ」
「えぇー!」
「えー,じゃない。一回だけって言っただろう? また聞きたいなら,次の洗濯の時な」
子供達の服を乾かし終えたイドリースは,それらを手渡して無邪気な彼らに退出を促す。
別に煩わしいといった様ではなく,あくまで親密な態度で臨んでいた。
言わば彼なりの誠意である。
そんなこともあってか,子供達は和気藹々としながら,割と素直に去っていく。
「言っとくが,わざと濡らして持って来るなよー?」
「はーい」
元気よく言いつつ,服を持った皆が続々と走り抜ける。
その様子を隠れてみていたアルカとエクトラは,気兼ねなく彼のいる部屋へと足を踏み入れた。
「あまり俺に近づくなって言った筈なんだが……あの子らのツボはよく分からないな……。って,アルカとエクトラじゃないか。どうしたんだ?」
早速気配に気付くイドリースに,アルカ達は例の事を聞くことにした。
何とも気の抜ける話なので,どう切り出すべきか迷ったが,回りくどいのもアレなので,結局単刀直入に言うことになった。
「え? 俺の苦手なもの?」
不意を突かれたような顔をした後,彼は小さく頬を掻いた。
「エモにもその話はしたんだけど,やたら皆聞きたがるなぁ。もしかして,皆で結託して俺の弱点探しでも始めてるのか?」
「そう言う訳じゃないんですけど……」
「単純に気になって。それだけ」
エモが既に聞き出していたのは,二人も初耳だった。
やはり皆,イドリースに弱みがあるのか気掛かりなのだろう。
彼は好奇心を持つ少女達の前で,ゆっくりと腕を組んだ。
「まぁ,減るものでもないし教えても良いけど。どうせなら,当ててみたら?」
「当てる? イドさんの苦手な物を?」
「そうそう。別に当てても何も出せないけど」
「やっぱり,イドリースにも苦手があったんだね」
「それ,エモの時にも言われたな。皆が俺のことをどう思ってるのか,何となーく分かって来たよ」
複雑そうな表情をするイドリース。
何にせよ,趣向を凝らしたい彼の意向に従い,クイズ形式で弱点を問い質していくことになる。
ただ,手掛かりが一切ないので当てようがない。
アルカは首をひねった後,申し訳なさそうに手を挙げる。
「でも何の糸口もないと,ちょっと分からないです」
「それもそうだな。じゃあ,一つヒントを上げよう」
イドリースは続けてこう言った。
「俺が苦手なのは,俺を含めて皆が毎日していることだ」
「毎日,ですか?」
「そう。絶対にしていること」
「苦手なのに,毎日してるの?」
「まぁ,こればかりは仕方ないからなぁ」
誰もが毎日していることの中に,イドリースの苦手なものがある。
アルカ達からすれば,意外すぎて咄嗟に浮かんでくるものがない。
そもそも,日常的に彼が苦手そうな顔をしている場面を見た事もない。
しかし何かをひらめいたらしく,アルカがもう一度挙手をした。
「虫,ですか?」
「何故,虫……」
「だって毎日見てますし……」
「確かにそうかもだけど,残念。虫は別に嫌いじゃないよ」
「というかそれ,アルカが苦手なものでしょ?」
「うぅ……そうでしたぁ……」
残念そうに項垂れるアルカ。
虫への克服の道は先が長そうだった。
代わりに思案していたエクトラが,顔を上げて問う。
「毎日してることが苦手,なんだよね?」
「うむ」
「じゃあ,そうだね。水浴び,とかは?」
「その心は?」
「イドリースは炎使いだし,寒いのとか苦手かと思って」
「成程。良い線いってるよ。でも外れだなぁ」
「む。じゃあ,正解は何?」
エクトラも割と自信があったのか,外れた事で少しだけムッとする。
確かに熱を操る性質上,冷気が苦手という考え方は間違っていない。
だがイドリースの弱点は,能力に起因するものではなかった。
二人とも間違えたので,彼は組んでいた腕を解く。
「子供っぽいかもしれないけど,俺は寝るのが苦手なんだ」
「え,寝ることですか?」
予想の斜め上の解答を聞いて,アルカが目を瞬かせる。
エクトラもはて,と首を傾げる。
「昔から寝付きが良くなくて,眠りが浅いんだ」
「それだけですか?」
「それだけ」
「それって,別に苦手でも何でもないんじゃ……?」
寝つきが良くないことは,誰にでもあることだ。
苦手意識ではなく,体調不良と考えた方が良い。
そう思う二人だったが,それを汲み取ったイドリースは首を横に振った。
「これが割と苦手なんだよ。寝るってことは夢を見るってことだから」
「どういうこと……?」
「夢は自分で制御できるものじゃないだろう? 見る必要のないもの,見たくないものまで見てしまう。それが嫌なんだ。それに,寝過ごして何もかも無くなってました,なんて二度と経験したくないからな」
そこまで聞いて理解する。
彼は過去の悪夢を恐れているのだ。
国の平和のために戦い,封印されたにも関わらず,目覚めた時にはそれらは全て滅亡。
仲間達も災厄によって命を落とし,最大の親友だったキューレを目の前で奪われた。
本来ならば立ち直れない程の苦痛を抱いているに違いない。
ペンタゴンで流した涙が,その証拠だった。
彼の浮かべる寂しい笑顔が,アルカの心を苦しめた。
「イドさん……」
「あぁ,ごめんごめん。しんみりさせたな。取りあえず俺の苦手なものは分かっただろう? ささ,二人共,畑仕事が終わったなら川で汗でも流してきたらどうだ?」
だがイドリースは,それ以上何も言わなかった。
沈んだ空気を元に戻そうと,少しだけ茶化すように言葉を並べる。
アルカもエクトラも黙って頷くしかなかった。
●
里に隣接する小川で,アルカとエクトラは汗を流していた。
一応男女で使用する時間は分けられているので,この場には女性,もとい彼女達二人しかいない。
割と堂々としているエクトラと違って,アルカは川の水に浸りながら,少しだけ身体を縮こませている。
羞恥の思いもあったが,先程のイドリースとの問答が引っ掛かっているらしい。
「やっちゃった……」
「気落ちしなくても,イドリースもそこまで気にしてないと思う,多分」
「そうかなぁ」
また余計に彼を気負わせてしまった,と後悔する。
更に,アルカ達以外にもエモを始めとした皆に,苦手なものを聞かれているのだ。
そう何度も同じ話をするとは,酷な話である。
「イドさん,機動要塞の一件から少し遠くなったような気がするの。多分,例のウィルスを気に掛けて,皆と距離を置いてるのかも」
「……」
「皆に自由を与えたくて,閉ざされた状況を切り開きたくてやっていることなのに。どんどんあの人の自由は無くなっていく……」
イドリースはテウルギアの脅威から里を救い出し,閉ざされていた旧人達の未来に少しだけ光を照らした。
だがその代わりに陰るのは,彼の姿。
世界のカラクリが分かるたびに,その身が徐々に蝕まれていく。
それが彼女にとって堪らなく辛いのだ。
「細菌は,あたし達じゃどうにもならない。だから,別の方法を考えるしかないよね」
「……」
「アルカは,これからどうしたいの?」
「……私はただ,イドさんと一緒に歩いていきたい。まだ自分のことも分からないけれど,この力が役に立つなら,支えてあげたい」
アルカは自分に出来ることを模索していたが,この程度しか浮かばなかった。
支えるとは,何をすればその言葉足りえるのか。
俯く彼女を見ていたエクトラが,視線を青空の彼方へ向けた。
「それで十分じゃない?」
「え?」
「あたしが今生きているのは,彼のお蔭でもあるから。里のために,アルカのために,イドリースのために,力を使う。傍にいることだけが,支えるってことじゃない」
彼女の眼は,そこにはない遠くの光景を見ている。
亡くなった両親のことを思い出しているのだろうか。
見上げたアルカも,散っていったカーゴカルトを思い浮かべた。
「傍にいられなくても,出来ることってあると思う」
「……そうだね。ありがとう」
高望みをしても仕方がない。
今出来ることで,彼を役に立つ。
それが支えることに繋がるのかもしれない。
アルカが礼を言うと,急にエクトラが身を乗り出してくる。
褐色の肌が妙に色っぽく見えた。
「というか,気になってたんだけど」
「?」
「そんなに前隠さなくても良いんじゃない? 女同士だし,別に何もしないよ」
「え……でも,何だか恥ずかしくて……」
「ふうん。アルカみたいなのだったら,考え方も違うのかな」
「別にその……大きさとか,関係ないと思うけど……」
アルカは胸を隠しながら呟く。
裸同士となると,彼女はペンタゴンであった大河の一件を思い出してしまう。
アレは不可抗力なのでどうしようもないが,服を着ていないというのは落ち着かない。
堂々とできないアルカに対して,エクトラは割と頓着せずに腰に手を当てた。
だが次の瞬間,ハッとした様子で辺りを見回す。
何か得体の知れない気配を察知したようだ。
「……この音は」
「エクトラさん?」
「下がって。誰か来る」
ガサガサと,川の向こうにある茂みが動き出す。
あの方向は里とは逆だ。
あちら側に里の者がいる話も聞いていない。
イドリースが結界を張っていることは周知の事実が,アルカを庇うようにエクトラが電撃を纏い始める。
そうして茂みの中からゆっくりと現れたのは,獣でもなければ虫でもない。
長い緑色の髪を伸ばし,大層な軍服を着た一人の少女だった。
「女の……子……?」
ただ他と異なるのは,その背中に生えた翼。
金属で構成された機械のような二翼が,微かに音を鳴らして動いている。
少なくとも里の者ではない。
旧人でもなければ,不老不死を司る人間とも違う。
一体何者だろうかと警戒する二人に,おもむろに少女が口を開く。
『生命体を複数検知。対話モードに切り替えます』
緑髪の少女は瞳から人工的な光を灯しながら,アルカ達を見据えた。




