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第1話 集う十傑達




そこは巨大な玉座の間だった。

煌びやかな空間には静寂だけが漂い,命の気配すら感じさせない。

玉座には一人の男が鎮座していた。

オパールのような輝きを持つ髪を靡かせるその男は,とある気配を察知して,今まで閉じていた瞼を開いた。

直後,玉座の前に現れる数人の影。

ここは王の間というだけではない。

不老不死となった人間の中で,頂点に位置する十傑が集う間。

王であるエリヤが座る玉座の前に,四人の十傑が現れる。

その姿は投影によって映し出された立体的な映像であり,実際にはこの場には存在しない。

遠距離であろうと,互いの会話を成立させる機構だ。

各々の表情が正確に再現され,皆神妙な態度で挑んでいる。

既に全員が,数日前に起きた事件を把握しているのだ。

王であるエリヤは,彼ら全員に対して再度その事実を告げる。


「テウルギアが殺された」


その言葉を聞いた十傑全員が,険しい表情を取る。

テウルギアは人間が果たすべき使命の一翼を担っていた人物だ。

彼を失うということが何を意味するのか,分からない筈もない。

十傑の一人である,青白い髪をした優男風の青年が,顎に手を触れて呟く。


「あの人は黎明戦を制した実力者のはず。そんな人を倒したってことは……」

「正体は割れている。名はイドリース・ソウオール。千年前に英雄と呼ばれ,地底深くに封印されていた男だ。奴は,我々の意志の背いた」


エリヤからテウルギアを倒した張本人の名が語られる。

既にイドリースの素性は殆どの者が知っているようだった。

千年前から今に至るまで,カーゴカルトが地下に封印し続けていた過去の英雄。

人間でありながら旧人に味方し,人類に背いた反逆者。

改めて十傑達は,彼を忌むべき存在だと認識した。


「カーゴカルトが残した,穢れた遺産か。やはり,野放しにするべきじゃあなかったな」

「王に背くなんて,馬鹿な男……」

「でも彼には,それを愚かとは言わせない力があるんだろう? あの二人を倒したことが,何よりの証拠さ」


次々に意見を口にする十傑達だったが,優男がそれを制して辺りを見回す。

この場にいる十傑はエリヤを含めて五人。

遅れてくる者はいない。

十人いる筈の精鋭は,既に半分の勢力が失われていた。


「元々の空席が一つに,200年前に裏切った席がもう一つ。そして,カーゴカルトとテウルギア。まさか,ここまで減ってしまうとはね」

「逃亡中の三席は?」

「ボクらの探索を逃れて移動しているみたいだ。もう少し捜索範囲を広げない限りは,どうしようもないだろうね」

「全く。穢れを生まないとは言え,元々ヤツが十傑ということ自体がおかしな話だったんだ。……まぁ,いいさ。となると目下の標的はイドリース,か」


穢れを嫌う赤髪の男が,逃亡した十傑の一人を仄めかしつつ,イドリースを旧人と同列に扱う。

無論その発言に他の者達も拒絶を示さない。

人間に背いた者は誰であろうと処分される。

それは千年続いてきた人間界の中でも,絶対のルールでもあった。

しかしたった一人,意に沿わない者が現れる。

長い金髪が目に映える,絶世とも言うべき美女だった。

彼女は一人手を挙げ,おもむろに発言する。


「ねぇ。彼の処遇,私に任せてくれないかしら」

「どういうことだ?」

「私は,この時を何百年も待っていたの。彼を死なせるなんて,絶対に出来ないわ」

「まさか,ヤツを引き入れるつもりか? 今更そんなことが,出来ると思っているのか?」

「出来るわ。私達と同じ,永遠の命に変えてしまえばいい。そうすれば,王の意志には逆らえなくなる」


金髪の美女は,反発する赤髪の男に対抗策を出す。

イドリースを不老不死に変える。

それは彼の魂を抽出・具現化させ,王の意志を介入させるということだ。

確かに王の意志を投入させてしまえば,イドリースであっても逆らうことは出来ない。

だがそれにはリスクが伴う。

フードを深く被った少女が,横から反論する。


「あの男は,黎明戦の双英雄を殺している。私達でも,捕えて不老不死に昇華させるのは,容易くないのでは?」

「かもしれないわ。でも,私なら塵灰の炎に太刀打ちできる。天元を司る,私の力なら」


捕えるとなれば,新たな犠牲が生まれる。

フード少女の正論を受けても,美女が折れることはない。

彼女はイドリースのことを知っているような発言と共に,彼を打倒しえる力を持っていることを仄めかした。

決して出任せではない。

事実,天元を意味する彼女の力を疑う者は誰もいなかった。

会話が途切れ静まり返った玉座の間に,思案する時間が過ぎていく。


「いいだろう」


すると,それまでの会話を聞いていたエリヤが一言,了承の意を示す。

王の意志として,その意見を聞き入れたということだ。

ただ,顔を上げる彼女に向けて,忠告のように付け加える。


「だが相応の準備が必要だ。油断をすればお前とて,あの二人と同じ運命を辿る」

「し,しかし……!」

「適材適所,という言葉がある。この状況に適した人材はダブラ,お前だろう」


次いで,エリヤは十傑の一人を指名する。

ダブラとは,先程この場の進行を努めていた優男のことだった。

彼は既にこうなることを予測していたのだろう。

急な抜擢に動揺することもなく,黙して王を見返す。


「奴の次の行き先は,恐らくお前が管轄している場所になる。そこで,準備を整えろ」

「準備というのは,イドリースを本当の人間にするためのもの,という解釈でいいのかな?」


優男,ダブラはエリヤに対して割と気安い言葉で話しかける。

本来なら不敬にも値する言動だったが,それを咎める者はいない。

十傑の中でも,それだけ地位が高いことを意味していた。

王はイドリースの処遇を尋ねる彼に向け,簡潔に頷いた。


「あぁ。そのためならば,例のモノを使ってしまっても構わない」

「これは大役を任されてしまったかな。でも,分かったよ。十傑最弱のボクだけど,出来る限りのことをしよう。ボク達の自由のためにもね」


飄々とした態度で頭を下げるも,ダブラが王の意向に背くことはない。

彼も900年前の惨劇を知り,不老不死に昇華した人間の一人。

旧人にくみした者に情けをかける道理はなかった。

その後,エリヤが他の十傑達の異論を問う。


「何か意見のある者はいるか?」

「王の意向に逆らうなんて有り得ません。全ては王の御心のままに」


フード少女が,真っ先にエリヤに向けて忠誠を誓う。

彼女は十傑の中でも,王に対する忠義が厚い人物のようだ。

反抗的な意見を出していた赤髪の男も,仕方ないと言った様子で首を振った。


「その方針で行くのなら,それでも構わない。だがもし,捕獲が不可能だと分かったなら,俺がその穢れを粉々に浄化する。もう二度と,目覚めることがないように」

「不可能になんかさせない。彼を傷つけるなら,私が先に相手になるわ」

「……天元と言っても,所詮は半身だろう? そんな状態で俺と拮抗しようなんて,随分と舐められたな」


あくまでイドリースを穢れと断定する赤髪男と,それに反発する金髪美女。

互いに映像でしかない状況下ではあるものの,一触即発な雰囲気が漂う。

当然それが見逃される筈もない。


「二人共,そこまでにしておこうよ。ボク如きが口を出すのはアレだけど,同じ十傑の仲間なんだからさ。仲良く,ね?」


ダブラからの警告を受け,二人は一瞬で口を噤む。

今のいがみ合いは,王がいる中で声を荒げる理由にはならない。

どれだけ力を持っていようと,全ての人間を統べる者には敵わない。

自分達の行動を改めた二人は,沈黙のまま頭を下げる。

他に反論がないことを知ったエリヤは,今まで腰かけていた玉座から立ち上がった。

十傑の内,二人を倒したイドリースの判決がここに下される。

王は自身を見上げる十傑達を見下ろし,それから声高らかに宣言した。


「方針は決まった。イドリース・ソウオールを,我々十傑に引き入れる。奴を配下に加えることが出来れば,我々の長年の戦いにも終止符が打たれる。心してかかれ」

「御意」


その言葉を区切りに,各地を守護していた歴戦の覇者達が,結集の意志を固める。

招集が解除されたことで,彼らの映像も次々に消え,玉座の間には先程と同じ静寂が訪れる。

一人残されたエリヤは,その場に留まったまま再び天を仰いだ。

天井から零れる陽の光が,変わらず彼を照らした。


「転化した魂はこれで二つ。イドリース,復活の時は近い。その魂,その肉体,我がものにしてみせよう」


絶対的な力を持つ王は,ただ彼の存在を欲した。

長年待ち焦がれた悲願の達成のため。

その計画は既に佳境を迎えつつあった。




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