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戦慄のステイシア  作者: 896
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「ちょっと、レオ。君の後ろ髪、酷い寝癖ですよ。今朝の聖声が君じゃないからって、少しは気を遣いなさい」


朝からクリスに怒られる。お前はオカンか!と心の中で悪態をついたが、すぐに反論されるので、口に出すのはやめた。


「仕方ないだろ。朝っぱらから聖霊どもを可愛がってやってたんだ。ご機嫌取りしてここまで連れてきてやったんだから、俺の寝癖にも感謝して欲しいくらいだぜ」


「可愛がった…ねぇ。君の可愛いがるは普通のものとは違う気もしますが。でも、それとこれとは別ですよ。仕事なんだからちゃんとしなさい」


そう言って、クリスは櫛と鏡を差し出した。一体どこから出したんだ。お前は本当にオカンだな。


「…今、失礼なことを考えていたでしょう」


「いやいやいや!そんな、まさかクリス様々にそんなこと、考えるはずないじゃないですかー!」


そう言って、大げさに手振りをすると、クリスの目がキラリと光る。あ、怒っちゃたかも。周りの聖霊達も面白そうな雰囲気を感じたのか、クリスの後ろで応援を始めた。


「いいですか、レオ。私は仕事をする仲間として、君の行いを正しているだけなんです。それなのに君ときたら…」


「おっ!クリス!ウィル士団長のお出ましだぞ!ちゃんと整列しないとな!ってわけで、また後でな!」


俺はそう言ってクリスからトンズラした。クリスがまだ悪態をつきそうな表情をしていたが、そんなのは無視だ無視!


「一同、整列!」


俺が定位置に着くと、タイミングを見計らったかのように日直が声を上げた。


間も無くしてバンっと扉が開き、ウィル士団長と幹部数名が入ってきた。


「おはようございます。みなさん、今日も健やかなご様子で」


ニコニコといつもの表情を浮かべるウィル士団長だが、今日の表情はまた一段と怪しい含みを持っていて、俺は嫌な予感がするのを隠せない。


「あれ?レオ君。なんだか様子が優れないようだけど、大丈夫かい?」


薄く開かれたウィル士団長の紫眼と目があう。目敏い指摘に、俺は冷や汗を流しながら目を横へ流した。


「…も、問題ありません」


明らかに問題ありだ。

周りが俺を心配そうな目で見てくる。聖霊達も俺の冷や汗を拭こうとしている。


「ふーん。あまり良くなさそうだね。まだこの前の戦の疲れが取れてないのかな?一応、僕達は国を守る役職の人間なんだから、いつでも臨戦態勢となるよう整えておいてね」


俺に釘を刺し、パッとミーティングへと切り替える。


「みんな、昨日魔獣討伐隊の中の魔法士班が再編されたことは知ってるよね?実はさ、その班長がハーメルン魔法副士団長の秘蔵っ子なんだ」


その発言に、俺たち全員は目を見張った。

は、ハーメルン魔法副士団長だと!?

あの、下ネタ大好き変態の癖に魔法だけはやたらと強い、あまり人望があるとは思えないあいつか!

あいつの秘蔵っ子なんて、本当にただの変態なんじゃないか!?


「…レオ。言いたいことが顔に出過ぎです」


俺の右後ろにいたクリスが、小声で指摘してくる。俺はハッとして、顔をなんとか正す。…ものの、一度崩壊した顔は元に戻らない。クソッ!またウィル士団長に声を掛けられちまう!ヤバイ!!


「で、彼女なんだけど、今回が初戦でね。しかも、よりによって三つ頭の白竜なんだよね。それを聞いた時、嫁入り前の女の子を殺すつもりなのかなって思ったよ」


対魔獣戦において、通常時は戦経験者が優先される。対人戦の場合、ある程度動きが予想できるが、魔獣は人智を超えた動きをする可能性が高く、致死率が上がるからだ。

特に今回の魔獣ーー白竜は厄介だ。三つに分かれた頭にはそれぞれ自我がある。その為動きが多岐に渡り、判断を誤れば即、死に繋がる。非常に難易度の高い魔獣だ。


「でも、よくよく話を聞いてみたら、彼女を三位配備で守護するらしくてさ。要は、彼女の力がどれ程なのか、上層部も確かめる思惑があるみたい」


三位配備という発言に、再び皆が騒つく。

三位配備とは、対象を中心として、左斜め前、右斜め前、そして後ろに配置する守護方法だ。

対象に危険が迫った時、配置された人は真ん中に向かって走れば、対象は必ず誰かの守護を受けられる。

しかし、魔法士5人当たりに聖霊士1人を配備するチーム形式が通常だ。その扱いは士団長や隊長クラスでも同等である。

三位配備の対象は、王族か、または超重要人物位だ。


「ウィル士団長!彼女がいくら危険な初戦だからと言って、それは三位配備の対象という特別待遇に値するとは思えません」


抗議の声を上げたのは、ゼインだ。普段、俺はゼインと意見が合わないことが常だが、こればっかりは思わず同意してしまった。三位配備なんてされて、苦労を強いられるのは聖霊士だからだ。

ウィル士団長は、その発言を待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。


「そう言われると思ってましたよ〜。でもね、彼女、魔法士団始まって以来の魔法力を持っているそうなんですよ。だから、多少傷物になるのは仕方ないのですが、命だけは絶対に残すよう言われてるんです」


しかし皆、納得がいかないといった雰囲気を醸し出している。その雰囲気を察してか、いつも笑顔を貼り付けたようなウィル士団長の目がうっすらと開く。


「しかも、見た人はわかるでしょう?彼女、特別みたいなんですよ。とっても聖霊達に嫌われてましてね…。たぶん、聖霊士一人だと、守護できないんですよ」


念には念ですよ、とウインクしているウィル士団長だが、全く可愛くない。星が出てきた気がするが、ウザいくらいだ。


「だから、君と君と君!明日から彼女の守護をよろしくね!」


ニコっと笑うウィル士団長の指差した先には、ゼインとコニアとジールがいた。

コニアとジールは、しょっちゅう面倒事を任される為か、慣れたように適当な返事をする。

しかし、当の発言をしたゼインの顔は一気に紅潮していた。


「ウィル士団長!俺は嫌です。俺は確かに今回の討伐隊に出陣予定ですが、魔法士団に専任で付いた実績はありません。とても務まるとは思えません」


「ゼイン君。今まで君は兵士団の守護のみを主としてきたね。けれど今回は事情が事情でね。聖霊数が1、2位を争うような君がいなきゃあ、上からも認可が降りないんだよ」


それに、コニアとジールのように可愛い女子をお供に付けてあげた方が、彼女も喜ぶでしょと付け加えた。

確かに、ゼインは俺が来るまでは聖霊士団でも断トツの聖霊持ちだったらしい。聖霊数の多少で守護できる範囲の変化はないとは言われてはいるが、その彼女とやらを特別扱いするならば、妥当な采配なんだろう。お付きとされたコニアとジールは可哀想だな…

ゼインはと言うと、少し気を良くしたようで、渋々引き受けてやってんぞ!と言う雰囲気を出しながらも満更でもない様子だ。

一方のコニアとジールは、複雑な顔をしているものの、諦観の表情を浮かべている。普段から上手いように使われてる上に、魔法士団の守備を行うことが多いため、逆らう理由もないのだろう。


「本当は、レオ君にもお願いしたかったんだけどね〜。ま、君は今日の様子を見る限りでは、相応しくなさそうだからね」


突然俺の名前を呼ばれ、ギクリとしたものの、その後に続く言葉にホッと安堵する。全く、本当にウィル士団長(この人)はやり方があくどい。絶対腹黒だ。


「それで、一応出立の予定は来週からなんだけど、まぁみんな知っての通り、予定通りにいかないことも多い。だから、今夜彼女の歓迎パーティーを催すことになったよ。皆、参加するように」


絶対にね、とドス黒い笑みを浮かべられ、俺たちはただ頷くしかなかった…

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