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戦慄のステイシア  作者: 896
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前半がナハト視点、後半がとある兵士視点になります。

くぁぁ〜と気の抜けた音がして、ナハトは窓側のベットを振り返る。天窓から差し込む太陽の光が眩しい。


「はぁー、よく寝た!って、ここどこ?」


昨日は大変な災難に見舞われまくったテオは、すっかり元気になったようで、いつもの顔色に戻っている。


「!!!」


とりあえず、この緊急事態を伝えねば、とナハトは思ったが、その考えは改めた。

なぜなら、テオは確実にカトリーヌと呼ばれた少女の従属能力を受けたはずだからだ。


それはつまりーーー


「なんで俺達ここに来たんだっけ?」


予想通りだ、とナハトは思った。

キュリー症候群による魅了は、意思を操作することはできない。しかし、限定した記憶を一定時間操作する位のことはできる。恐らく、レオさんに関する記憶を操作したのだろう。テオはレオさんのことをすっかり忘れ、ここに来た目的を忘れてしまったようだ。


外でカチャリ、と音がする。

僕達が会話し始めた事に、門番の兵士が気付いたようだ。こちらを伺っている様子がわかる。ーーレオさんを忘れているかどうか、確認しているのだろう。

こうなると、レオさんについて話す事はできない。まぁ、僕は言葉を発することはないから、どちらにしても話せなかった訳だけれど。


「もう朝じゃん…お腹すいたぁ」


そう言って、スタスタとドアへ歩いて行ったテオは、ドアが開かない!とドアノブをガチャガチャと回しまくっていた。

魔法を使われると厄介なので、慌ててテオの元へ駆け寄る。

すると、廊下が突然騒がしくなった。


「ーーで、魔法がーーーされてるらしい!」


「ーーだと⁉︎ーーが破壊⁉︎」


魔法?どういう事だ?

忌み子でもいたのか?いや、こんなに聖霊の恩恵を受けている状況で、魔法が使用できるはずかない。魔獣の襲撃も滅多にないであろうし、魔法を使えるのであれば……魔法士レベルの忌み子位だろう。しかし、誰がそんな馬鹿なことを…

外からは、叫び声と騒音が聞こえてくる。どうやら、魔法を使っている主が近付いているようだ。肝が冷える。

しかし、僕達は閉じ込められているから、どうしたって逃げる事もできないのだ。


だが、テオはそうではなかった。諦めるつもりなど、毛頭なかったらしい。


ジュォォッ!


僕が思案している間に、テオはドアに魔法を放ち、完全に焼失させていた。それに驚いたのは、兵士はもちろんだが僕もだ。


「…⁉︎⁉︎」


顔だけで怒りの表情を現したが、テオはなぜか爆笑していた。こいつは本当に馬鹿なのか⁉︎レオさんが危険な間に合ってる上に、外では魔法の騒ぎすら起こっている時なのに!

こうなっては仕方ない、テオの魅了を解かねば…と僕は周りを見渡すが、都合の良い道具が見当たらない。

あっという間にドアの周りに兵士達が集合してしまった。


「おい!お前ら!逃げようとしてんのか⁉︎お仲間は大事じゃなかったのか⁉︎」


こいつは、あの時森で僕達を捕まえた兵士のようだ。


「へっ?お仲間…?仲間って、ナハトのこと?」


こ、こら!打ち合せでは、僕はナハトじゃなくて、オハトだろうが!

しかし、幸いな事にこの緊急事態の為、名前程度の違いには気付かなかったようだ。


「はぁぁ⁉︎お前らの友人の愛し子だろうが!」

「ちょっ!お前!こいつらはカトリーヌ様の魅了にかかってんだぞ!思い出させるな!」


ハッとしたように、その兵士が固まる。どうやら、僕達がここに閉じ込められた経緯を知らなかったようだ。


「へっ?愛し子?ん〜〜と…誰だっけ?」


溜めといてソレか!

僕だけでなく、騒ぎに駆けつけた兵士達すらズッコけた。


「き、貴様ぁ!人をおちょくるのも大概にしろ!」


激昂した兵士が思わず剣を突き出す。僕はチャンスだと思い、兵士の腕を蹴り上げ剣を奪い取り、テオの腕に一筋の傷を付けた。


つぅっと腕を流れる血。テオは流れる血をじぃっと見つめている。よかった、これで彼の魅了を解く事ができる。

僕は周りの兵士に抑え込まれ、テオの様子をそれ以上見ることはできなかった。


と、突然空気が変わった。


「………レオさん!そうだ、レオさんはどうしたんだ⁉︎」


ようやく思い出したらしいテオが、慌てたように周りを見渡す。しかし、いない事がわかるとサッと顔が青ざめてしまった。

これはマズイ!

テオを止めるのは不可能と判断し、僕は組み伏せている兵士を投げ飛ばし、その隣にいた兵士の盾を奪い取った。


「おい!おま…」

「レ゛オ゛ざぁ゛ーーーん゛!!!どごでずがーーー!!!」


テオは号泣しながら爆炎を放った。




***




「こちら、領主館前の西門!対象が急速に近付いてきます!応援要請願います!」


「無理だ!こちらも既に怪我人ばかりで、そちらへ派遣することは難しい。何とか防いでくれ!せめて、領主館内への侵入は防ぐのだ!」


「えぇっ⁉︎ちょ、ちょっとまって…」


ッ、プープープー


電話が切られてしまった。

今、彼は焦っていた。全力でこちらへ走ってくる少女に、どうやって対処したら良いのか。そもそもあんなに号泣していて、こちらの話し声が聞こえるのだろうか?何か叫んでいるのはわかるのだが、どうにも聞き取れないので、少女の要求を聞くことができない。

西門の兵士は現在10人。

先程派遣要請した正門には20人の兵士がいるはずなのに、皆派遣できない程の怪我をしているとはどういう事だ。


悶々と考えていると、急激に空気が冷えてきた。周りの木々や道が凍り始める。

あぁ、あの少女がやって来てしまった。


「ゔわ゛ぁ゛ぁ゛ーん゛!だでがごげどっでよ゛ーん゛!!!」


涙と鼻水を盛大に撒き散らしながら、ゆるいパーマのかかった黒髪を持つ少女が走って来た。

黒髪のせいもあるのだろう、まるでマントのように見える程、その髪は長い。

周りがどんどん凍っていく事に、西門の兵士達は恐怖を感じながらも、身を守るために身構え…ようとした。

しかし、靴と地面が凍ったせいで貼り付いてしまい、上手く構えることができない。バランスを崩し、倒れる兵士も出た。


「わ゛ぁ゛ぁ゛ーん゛!!!だずげでーー!!!」


彼女は身動きの取れない兵士達の間を滑り抜け、領主館の中へと入って行ってしまった。


「あー、こちら領主館前の西門。すまない、しっぽ(・・・)を生やした氷の魔女は、館内へ侵入してしまった。後は頼む」


兵士はそれだけを伝えると、電話の向こうの叫び声を無視して電話を切った。

俺、クビかな…

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