13
王城に戻ると、俺達の代わりに魔法士団への聖声を担当していた奴らが喜んで部屋に戻って行った。
…俺達が休む時間はないのか。
「さぁ、早速仕事に戻りますよ」
俺は助手席で眠ってただけだから良いが、クリスは運転していて休んではいない。勤勉過ぎるのも如何かと思う。
魔法士団の聖堂へ戻ると、そこには大量の聖霊達を引き連れたウィル士団長が待っていた。
「お疲れ様!今回の成果はどうだったかな?」
祭壇に、あろうことか腰掛けたウィル士団長の紫眼がキラリと光る。ーー俺達を審査する目だ。
***
「なるほどね、お疲れ様。新たな聖霊士になりそうな素材を保護できたことは、お手柄だったね」
「「ありがとうございます」」
儀式的な労りの言葉に、心のこもっていない礼を返す。
「…余計なこと、してないよね?」
これが、ウィル士団長が確認したかったことだ。
「余計なこと…とは、一般民への対応ですか?」
「うんうん、そう!さすがクリス君は勘がいいね!」
冷や汗を流しながら確認したクリスに、ウィル士団長は笑顔を浮かべる。
「聖霊士や魔法士を、国が保護していることは言っていません」
クリスはキッパリと言い放つ。ウィル師団長は満足そうに頷いた。
「まぁ、今回の魔法士になれそうな赤ちゃんは、少し勿体無かったねぇ」
「ウィル士団長!その物言いは、非人道的かと思います!」
迂闊にも、俺は頭に血が上ってしまった。聖霊達が驚いたようで、俺から離れる。
「でも、可哀想だからって、大した魔法力もない忌み子を保護し続けたら、国が不幸になってしまうよ。同じだけ愛し子が保護されるなら均衡が保てるかもしれないけど、愛し子を国に差し出す親なんていないでしょ」
人間とは残酷だ。要・不要で簡単に振り分ける。それが同じ人間であっても。
忌み子は、不幸を運ぶ存在。
愛し子は、幸運をもたらす存在。
目に見えてわかる現象が起こる為、人々の意識には差別として深く根付いている。
「それは、そうかもしれませんが…」
「それとも、君が忌み子を守るっていうの?それこそ、無責任だ。どうせ守りきれない」
俺達の守護範囲は、聖霊数に応じて大きくなることなんてない。どんな聖霊士でも、手の届く範囲までしか守れないのだ。
「僕だって、愛し子も忌み子も平等に保護したあげたいよ。でもそんな綺麗事じゃあ国を守れない。1の為に10を犠牲にする訳にはいかないんだ。わかるだろ、レオ君?」
グッと唇を噛みしめる。悔しいが、何も言い返せない。
「聖霊士によって幸運にも見つけられた魔法士は、例え魔法力が弱くても保護してるんだ。君達の頑張り次第で、救える命もあるってことを忘れずにね」
ニコリと言葉とは裏腹に優しい笑顔を浮かべるウィル士団長は、恐ろしい。
だが、事実だ。
魔法士のリナも、俺の幼馴染だった為、生き延びてきたようなものだ。そんな奴らばっかりで、魔法士団は構成されている。
「…これからも、積極的に保護対象を見つけていきたいと思います」
「うん、そうだね。ただ、手に痣があるってだけで魔法士扱いされてる子もいるからねぇ。君達が魔法士をぜーんぶ保護したって、不幸な子が残されるのも事実。それだけは忘れないでね」
忌み子は手の平に痣を持ち、愛し子は髪の毛に金糸が生えるという、特徴がある。その特徴は1歳になる前に消える子もいるらしいが、親はそんな特徴だけで判断し処分される場合が多い。
しかし、忌み子でなくても手の平に痣がある人もいる。そういった人々は、大抵差別されるのだ。魔法士のように魔法が使える訳でもないからまともな働き口もない。当事者にとっては悲劇にしか過ぎないだろう。
ウィル士団長は、何も言い返せない俺達の様子に満足したようで、引き続き仕事に励んでね、と言って去って行った。
「…わりぃ、クリス。俺、今ちょっと仕事する気にならない。城下町で一杯飲んでくる」
「城下町に行くのは構いませんが、お酒はダメです。仕事が残ってますから」
「はぁぁぁ…相変わらず糞真面目だな。わかったよ、酒を飲まなきゃぁいいんだな。それじゃぁなっ!」
クリスにこれ以上言われる前に、俺はサッサとトンズラしてやった。
***
「あんれぇ〜ひっさしぶりじゃないのぉ!」
「見ない間に老けたな、フィー」
「あんたねぇ、久々に会っての第一声がそれじゃぁ、モテないわよ」
サッと私服に着替え、スケートボード型のフロートムーバー、通称フロボーでやって来たのは、城下町にあるバー『チェリー』だ。まぁ、バーと言ってもオカマバーだがな。俺はとことんオカマと縁があるようだ。
まだ明るい時間のせいで、客は1人もいない。
「それよりさぁ、顔色悪いけどなんかあったの?」
フィーことフィオナはこのバーの経営者で、やたらと観察眼が鋭い。オカマだが、こうやって客を虜にしているんだろう。
黄緑色のロングヘアーは緩くパーマがかけられ、目と同じ色のピンクの唇が最悪の相性だが、まぁいい奴だ。本人いわく、『お花だってピンクと黄緑で可愛いんだから、私も可愛くて当然』だそうだ。
「あぁ、仕事の件でちょっとな」
「聖霊士でも悩むことなんてあるのねぇ。お国の役人様の悩み事なんて、高尚過ぎてわかんないわぁ。ま、どうせアンタの事だから、自分の善意を否定でもされたんでしょ?そんなの無視よ無視!アンタの道を突っ走んなさい!」
バンっと思いっきり背中を叩かれる。なんだか胸のつかえが取れた気がした。
あ、一応言わせてもらうが、俺はMだから叩かれて喜んだ訳ではない。そこは覚えておくように。
「いててて…フィーは男なんだから、もう少し力加減しろっての。でも、ありがとよ。で、いつもの件。何か情報入ったか?」
「アンタはここに来るとすぐその話ね。少しは酒飲んで、ウチに貢いでいきなさいよ」
そう悪態をつきながらも、フィーはカウンターの下をゴソゴソ探り、一枚のカードとオレンジジュースを差し出して来た。オレンジジュースに聖霊達が群がる。
「ワーキッド領?」
そのカードにはワーキッド領の地図が描かれている。
「この国の最北西にある領よ。肥沃な大地に恵まれ、農作物は豊富。その上、畜産もうまいこといってんのよねぇ」
「じゃあ、聖霊士か愛し子がいっぱいいるのか?」
「いーえ。あの領で登録されてる聖霊士は、ワーキッド領の聖堂にいる聖霊士だけよぉ。愛し子だって、そんなにいるような痕跡はないわ。どぉもここ2、3年の間に、急速に発達したみたいなの。噂では、愛し子を攫って、領主の塔に閉じ込めてるらしいわ」
「なっ!攫うってどういう事だ⁉︎聖霊士も愛し子も攫うなんてできないはずだぞ」
「そーんなのアタシは知らないわよぉ〜。とにかく、沢山の聖霊士か愛し子の恩恵を受けないと不可能な位に発展したはずなのに、どこにもいないんだってさ」
顎に手を当てて考える。運が良いから、攫えないはずの聖霊士や愛し子が攫える状況…。攫った先が酒池肉林のごとく恵まれた世界なのか?
「まぁ確かに、領主の力というより、領土の質が上がったみたいだからな。聖霊の力を借りてる可能性は高いな。…情報、ありがとな!」
机に置かれたオレンジジュースを一気に飲み干す。
「べっつにぃ〜。こんな暇な偽善活動、アンタ位しかしないから良いわよぉ」
「また情報があったらよろしくな!それじゃ、俺は仕事に戻るわ」
今度はちゃんと飲みに来るぜ、と言い残して俺は王城へ戻った。
「…なぁんか、生き急いでるみたいよね、レオ。名も知らない誰かの為に頑張るなんて、まるで罪滅ぼしみたいねぇ」
机の上に残ったグラスの氷がカランと乾いた音をあげた。




