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戦慄のステイシア  作者: 896
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悲劇の次第を聞いた俺達は、町外れの雑木林へとやってきた。

月明かりも差さず、異様な雰囲気に包まれたここは、俺達に張り付いている聖霊達も嫌がる程だ。


誰も会話をする事がなく、埋められた現場へと辿り着く。昨日の聖声で虫の発生は抑えたはずなのに、ここだけは虫が大量発生していた。


「…ここ、ですか?」


クリスの問い掛けに、トリィが力なく頷く。


俺とクリス、アルトの三人で埋められた場所をスコップで掘り返す。あまり深く埋められていなかったようで、掘り始めて間も無く手のような物が見えてきた。

途端、腐臭が漂う。

その様子に耐え切れなかったジョスティナ男爵は、すみませんと一言言って、木の裏で吐いていた。

カンナに抱かれた赤ちゃんだけが、笑顔でスヤスヤと眠っている。


手が見えてからは、スコップで掘り出すのをやめて、手だけで掘り進めた。虫が体に纏わり付いて気持ちが悪い。気付けば聖霊達は俺達の周りから消えていた。


「月の聖霊が、いないな」


俺の呟きに、クリスはそうですねと応える。

月の聖霊は、死を司る聖霊と言われ、死体の側や臨終時によく現れる。たとえ魔法士であっても死ぬ時は平等なようで、月の聖霊は現れる。

しかし、今回の赤ちゃんは既に死んでいるにも関わらず、月の聖霊が現れていない。死を認識されない状態になっているんだろう。


(しゅ)、ですか?」


「あぁ、そうだな」


アルトの指摘に、俺は即答した。何度もこの現場を見てきた聖霊士にとって、それ以外あり得ない状態だ。


呪とは、文字通り呪いのことだ。

その形は様々で、両思いのカップルが突然別れたり、普段通りの作業をしていれば大怪我をしたりなど、呪なのか日常での出来事なのかわからない程度の物もある。

一方で、洪水や干ばつ、噴火などの天変地異が起きる程の、人の命に大きく関わる呪もある。

しかし、呪は基本的に魔法士にしかできない。呪は魔法力と呼応し、その規模を決定する。


「これだけの呪を使えたんだ。大きく育っていれば、きっと彼女は、俺達の同僚になれる程の魔法士になっただろうな」


俺の言葉に、クリスとアルトは口を締める。赤ちゃんの全体像が漸く見えてきた。


「まだ、生きてるみたい…」


ジニーが思わず問いてしまう程、赤ちゃんは依然として産まれたばかりのような形を保っていた。

通常の赤ちゃんと違うのは、死臭が漂う点だ。虫がどんどん活発になる。


俺はそっと赤ちゃんを拾い上げた。身体の肉感や柔軟さも失われておらず、まるで産まれたばかりのようだ。

赤ちゃんの開かれた真っ黒な瞳と目が合う。


「悲しかったなぁ」


ポツリと呟く。けれど、赤ちゃんの瞳は悲しみを湛えているだけで、ピクリとも反応がない。俺は顔を上げて、クリスとアルトに目配せをした。

赤ちゃんを抱いた俺の左右に2人が立つ。俺も立ち上がり、目を閉じた。


「聖霊達に願いを請う。我が母胎に抱かれし赤子に、安寧なる死を捧げたまえ。我は聖霊達を称揚し、享楽を捧げん」


三人の身体から淡い光が現れる。そして、俺の腕に抱かれた赤ちゃんからも、小さな光の玉がポツポツと飛び出し始めた。

まるで、水の中に入れた油のようにゆっくりと、赤ちゃんの身体に纏わり付いていた遺恨が取り除かれて行くのがわかる。

その現実的ではない光景に、周りから思わず声が漏れる。


最後に一際大きい光の玉が、赤ちゃんから出てきた。

しかし、その光の玉は茶色が混ざっていて、あまり光を放っていない。


そんな儚い光の玉の周りには、続々と月の聖霊が集まり始めた。

気付けばあんなに薄暗かった雑木林には月光が差し込んでいる。


「赤ちゃん…天国に行けるの?」


ジニーが涙を流しながら、近付いてきた。

儚い光の玉に続々と群がる月の聖霊達。

徐々に光の玉からは強い光が放たれるようになってきた。


「あぁ。月の聖霊が導いてくれてる。だから、この子はちゃんと死ねるんだ」


月のように輝き出した光の玉が、赤ちゃんから切り離され、月の聖霊に囲まれながら浮上する。


「私は、ジニー!あなたのお姉ちゃんだったのよ!守ってあげられなくて、ごめんね!次に出会う時は、必ず守ってあげるから!!」


ジニーは、すでに俺の背丈を超えた場所にある光の玉に向かって叫んだ。


この世界には、輪廻転生がある。

それは、必ずしも人間に生まれ変わる訳ではない。植物だったり、動物だったり、形は様々だ。

それでも、縁を持った魂同士は、次の生でも関わり合いが生じると考えられている。


光の玉が一際大きく輝いた。俺達が思わず目を閉じると、もうそこに光の玉はいなかった。


「…いっちゃったのね」


「そうだな」


皆、その幻想的な光景に目を奪われ、光の玉があった上空へと目線を向けたままだ。

しかし、俺の手に抱かれている赤ちゃんは、依然として生きてるかのように存在している。


「…もう、帰りな。君は一人じゃない」


俺は赤ちゃんのおでこに、そっとキスをした。

途端、赤ちゃんがサァッと砂になる。

月明かりに吸い込まれるように、高く高く舞い上がる砂は、最後にジニーの側に寄って消えていった。

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