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夜もだいぶ更けた時間だった為、皆寝ていたが、ジョスティナ男爵を含め、この件に関わった人達が皆起こされ、客間へ集まっていた。
アルトも急遽メアリーが呼びに行ってくれたおかげで、集まることができた。
「ジニー。辛いかもしれないが、お前の伝えかったこと、話してもらってもいいか?」
ジニーは皆が集まるまでの間、両手を組み、祈りを捧げるようなポーズでずっと立っていた。
俺の言葉に、俯いていた顔を上げる。
「1ヶ月前のことなんだけどね…みんな知ってる通り、赤ちゃんが産まれたの。私は大喜びだったわ。妹ができたって…」
「産まれた時期と虫害現象が発生した時期がちょうど重なるな。でも、妹ができたことがどうして今回の虫害の原因になるんだ?喜ばしいことじゃないか」
俺は若干の違和感を覚えたが、原因となる事実が見えず、再びジニーに尋ねる。
「…じゃあ、赤ちゃんを見て」
言われた言葉通りに、赤ちゃんを見る。
とても可愛らしい赤ちゃんだ。髪の毛は少ししか生えていないし、握られた手は儚さを感じる。
汽車が描かれたライトブルーの服に包まれ、今は元気に起きている。きっと赤ちゃんは睡眠のサイクルがズレているのであろう。
でも、やはり何か引っかかる。
「弟、の間違いじゃないですか?」
クリスの指摘に、ふと気がつく。
男女の区別が付きにくい、この歳の赤ちゃんであれば、性別に合わせた服のデザインや色を選ぶ方が多いだろう。
ジニーのお下がりもあるだろうから、尚更女の子っぽい服を着ていてもいいはずだ。
「男の子っぽい服を着せたい親もいるんじゃないでしょうか〜?私も昔は兄のお下がり着てましたしぃ」
「ご両親に性別を確認するのが早そうですね。…実際のところ、どうなんですか?」
メアリーの言い分はもっともだ。決め付けるのは尚早だ。
一番夫妻の側にいたアルトが、真実を尋ねる。場の注目が一気に2人へと向いた。
「この子は男の子よ」
カンナは、何が問題なのかわからないと言った風情で、サラッと答えた。トリィはと言うと、顔面蒼白で冷や汗を流している。
「私は双子を身籠ったの。それで、先に産まれたのが女の子。次に産まれたのがこの子よ。でも、先に産まれた女の子は、間も無く死んでしまったのよ」
「違うわ!生きてたよ!」
ジニーの発言に、カンナの目が大きく見開かれる。トリィがすかさずカンナの前に立った。
「やめてくれ!ジニー!」
「いやだよ!もう、全部話そうよ…私、ずっとあの子が夢に出てくるの。もう、辛いよ、こんなのやだよ…」
ジニーはそう言うと泣き崩れてしまった。
彼女の嗚咽だけが客間に響き渡る。そんな彼女を俺と聖霊達はそっと抱きしめた。
「…貴方は、この事実を隠す為に、常にジニーを見張っていたんですね。だから、あの時俺がカントリーへ来店したことは、貴方にとっては不都合だった。ジニーは必然的に、こんな危険な時間に訴えにくることしかできなかった。貴方は親として最低だ。それでも、親である貴方は事実を話さなければならない」
俺は厳しい口調でトリィへと視線を向けた。
「わかった、わかったから……話そう…」
震えるカンナを抱き寄せ、トリィが諦めたように重たい口を開いた。
***
「あの日、俺はパンの仕込みをする為に、小麦の調合をしていた。そんな時だ、カンナは予定よりも早く産気づいてしまった。すぐに産院へ連れて行こうとしたが、赤ちゃんの頭はもう出始めていて、それどころじゃぁなかったんだ」
青褪めた顔を俯かせながら、トリィは一言一言ゆっくりと話し始めた。
「家で産むことを決意し、タオルを敷いたソファの上にカンナを横たわらせた。すると間も無く赤ちゃんが産まれた」
「それは件の女の子の方だったんですか?」
クリスの問い掛けに、トリィは頷いた。
「あの子は産声をあげなかった。だから、急いで背中を叩いて、羊水を吐き出させた。しかし、吐き出したにも関わらず、あの子は泣き声をあげることはなかった。ただ俺のことを真っ黒な瞳で覗いてきたんだ…!俺は嫌な予感を隠せなくて、震えたよ。
だが、そうこうしてる間にカンナは2人目を産み始めてしまったんだ」
カンナは依然として震え、赤ちゃんを抱き締めている。
「ジニーの手伝いもあって、2人目の赤ちゃんはすぐ産まれて、今度は元気な産声をあげたよ。柔らかな光に包まれ、愛し子である事は間違いない様子だった。そんなこの子を、あの子は見ていたんだ。泣きもせず、俺の腕の中でただジッと…」
その時の事を思い出したのか、トリィは腕を組んでブルッと震え上がった。
「俺は急いで、あの子の手の中を確認した。そうしたら、黒斑がたくさんあったよ…そう、忌み子の特徴がね。まさか俺の子が忌み子だなんて、あってはならない…!
幸いなことに、カンナは満身創痍の状態で、ジニーは産まれ出た弟の世話で手一杯になっていた。今しかチャンスはない、と思ったよ。だから、俺はこの手で首を絞めて殺してやったんだ。…そして、遺体をこの町の外れに埋めた」
途端に、ジニーが泣き崩れた。
「私、見てたの。お父ちゃんが、赤ちゃんの首を締めるところ。本当は止めなきゃいけなかったのに…お姉ちゃんが守ってあげなきゃいけなかったのに!」
トリィがジニーの元に駆け寄り、立ち上がらせると頰を思い切り叩いた。それでも泣き崩れる彼女に再び暴力を振るおうとしたので、俺はジニーを庇い、クリスとアルトが急いでトリィを羽交い締めにした。聖霊達もトリィを威嚇している。
「忌み子は生きてたって辛い思いをするだけなんだ!楽にしてあげるのが、親の務めだろうが!お前に、俺の気持ちがわかるのかっ⁉︎」
「お父ちゃんが、自分のお姉ちゃんとあの子を重ねたんだろうなって事は、わかるよ⁉︎でも、あの子はお父ちゃんのお姉ちゃんじゃないんだ!」
以前、トリィの姉が忌み子だったという話を聞いた事がある。魔法士になれるほどの魔法力はなく、虐めぬかれて自殺したと。
「生きる道なんて、ひとつじゃないのに…」
メアリーは悲しそうに呟いた。




