第1話 『銀髪青眼の少女』
初投稿です.
生温かい目で見て下さると幸いです.
ーーいつも夢を見る.
ーー1人の女の子が背を向けて, 歌を歌っている夢.
彼女の顔は見えない. 口元しか見えない.
何かの歌を歌っている事は確か. しかし良く聞こえない. だけど聞いているだけで悲しくなる. 寂しくなる. 涙が出てきてしまう. そんな感じの歌.
『え? この歌の名前? ふふふ, この歌はね……「ーーー」って言うのよ』
彼女は確かに歌の名前を口にした. しかし聞こえない. まるでノイズが走ったかの様に聞こえなかった.
更に光景は変わる. 草原の様な場所から, 崖下の,炎に包まれた村を見下ろす光景-----.
『どうしてっ..! 何が「ーー」よッ!! 結局何も守れていないじゃないッ!! 』
己の無力さを彼女は嘆いていた.
自分が「ーー」でも, 大切な人達を守れない己の無力さをいつも嘆いていた.
ーーそして彼女は決意する.
『ごめんね, 「ーー」. 私は貴方と行けない. いずれ私という危険因子を消す連中が出てくるかもしれない. それでもーー』
ーー私は, この世界を変えてみせる. 例え何を犠牲にしても..多くの人々から恨まれてもーー.
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「ーーいつまで寝ているのよッ!! 早く起きなさい!」
「うぉ!?」
耳元で突然と聞こえた怒鳴り声. 眠りの中に入っていた俺は, その怒鳴り声を聞くなり, 思わず声が口から出てしまい, そのままベッドから転がり落ちる.
痛え..!と, 床で打った頭をさすりながら顔を上げると, そこには腕を組みながら此方を見つめている金髪の幼馴染--不知火 飛鳥がいた.
「げっ..飛鳥」
「げっ,とは何よ. 折角起こしに来た幼馴染に対して随分とした言い草ね, 秋人」
見た目は金髪碧眼の, まるで天使のように愛らしい容姿をしているってのに, 口を開けば可愛くない.
つーか母さんも, 飛鳥を平然と家の中に入れるなよ. こいつも俺の部屋には当たり前のように入ってくるし. 長年の付き合いと言うべきか何なのか...
「それより! 今日は私の買い物に付き合う約束でしょ!? 忘れたの!?」
「………あ」
そういえば, 数日前にそんな約束をした様な..? 土日という休日をどう過ごそうかと悩んでいた矢先に, 目の前の幼馴染は, 「だったら私の買い物に付き合って!」とか言って,無理やり予定を立ててきた様な..?
今思い出したと言わんばかりに,小さな声を出すと, 飛鳥はキッとその碧眼を鋭く細めて睨みつける.
「やっぱり忘れていた! 私が来なかったらずっと寝ていたでしょ!」
「わかった! わかったから! 直ぐに準備するから,そう怒るなってば!」
約束を忘れていた事に対して, 声を荒げる飛鳥を宥めながら, 彼女を部屋から追い出す. ちゃんと準備しなさいよ! という怒鳴り声が聞こえてくる.. こりゃあ早めに準備しないとヤバそうだ.
飛鳥の怒鳴り声を聞いて思わず顔を引き攣りながらも, クローゼットから服を取り出して, 今着ている服を脱ぐために釦を外し始めた.
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「はぁ…はぁ…っ…!」
人気のない裏路地を,おぼつかない足取りで,壁に手を付けながら歩く1人の少女. その端正な顔立ちには汚れがつき, 体を覆うマントもボロボロである. ちらりと後ろを気にしながら,前を歩く少女はまるで誰かに追われている様にも見える.
「此処は……どこなの…? まさか帰らずの森の力が働いたの…?」
気が付いたら, 自分を追っていた連中は近くにいなかった. そして自分は見知らぬ場所で倒れていた.
鉄の物体がそこら中を走り回っているし, 空気も悪い. 明らかに自分がいた世界とは異なっている.
帰らずの森で行方不明になった者たちは,全員違う世界に飛ばされてしまう--だから, 誰も森から帰った者はいない,それで帰らずの森という名前が付いたのだろうと考える.
「ううん…… 今はそんな事よりも早く元の世界に戻らないと…」
いつまでもこの世界にいる訳にはいかない.
なんせ自分は「ーー」なのだから……。
少女はゆっくりと足を一歩踏み出す. 裏路地から出ようとした矢先, 背後からの気配に反応が遅れてしまった.
ーーーカッ!!! ドーン!!!
「!!?」
爆風と衝撃によって, 少女の華奢な体はそのまま表へと放り投げられた.
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「次はあそこの店に行きましょう!」
「……ああ, そうだな」
幼馴染の飛鳥の買い物に付き合って, どれだけの店を回ったのだろうか. 既に沢山の買い物袋を持たされて, そろそろ限界がきてしまうのだが...
それでも飛鳥は店を回る事を止めようともせず, 次の店を見つけるなり, 目をキラキラとさせて其方へ俺を連れて行こうとする. 最早俺は諦めた. 人間,諦めが肝心なのだとはっきりと思い知らされた.
「………何よ. 少しは楽しんでくれたって」
「なんか言ったか?」
「別に!」
飛鳥が何かを呟いたかの様に聞こえたので, 何を言ったのかを問い掛けると, 飛鳥は素っ気なく,というか何処と無く怒った様な感じで返してきた.
まさか.怒った様な感じで返されるとは思ってもいなかったので目を丸くする.
ーーなんで怒っているんだ?
そう思ってしまうのは悪くない筈..だ.
ーーカッ!!! ドーン!!!
そんな中で, 人気のない裏路地から響いたのは爆風と衝撃音. 近くに爆弾でも爆発したかの様な音と衝撃だ. 慌てて飛鳥を背後に隠して, 爆風と衝撃から守る.
裏路地から出てきたのはーー長い銀髪. まるで雪の様に美しく, キラキラとした様な色合いを持つ長い髪を伸ばした1人の少女.
思わず見惚れてしまう程の美しい髪がとても似合う, 1人の少女だった. 俺は直ぐに我に返ると,彼女が地面に叩きつけられる前に, 彼女の元に駆け寄って受け止める.
「きゃ!?」
「おいっ! しっかりしろ!」
裏路地からボロボロな格好をした少女が現れた事に,悲鳴を上げる飛鳥. 俺はそんな飛鳥よりも, 受け止めた少女が気になった. こんなにもボロボロになるなんて何かあったに違いない.
俺は声を荒げながらも,自分の腕の中にいる銀髪の少女へと話し掛ける. 少女は小さく身動きをすると, その閉ざされていた瞼をピクリと動かして, ゆっくりと開く.
「………」
「…青い瞳…?」
宝石の様に綺麗な青色の瞳. 彼女はその瞳を此方に向けると, 小さく口を動かして何かを呟いた.
其れが何を呟いたのか,問い掛ける前に, 彼女は再び瞼を閉ざすと, 力が抜け落ちる. どうやら気絶をしてしまった様だ.
「ど. どうする…?」
「とりあえずこのまま放置する訳にはいかないでしょ? 秋人の家に連れて行こうよ」
「…だよな」
これは買い物どころでは無いと.飛鳥も今の状況を良く理解したのか,気絶した彼女を見つめながら. 此処から1番近い所にある俺の家の方へと向かうことにした.
ひょいと彼女の体を横抱きにして持ち上げる. 軽い. 飛鳥よりも軽いぞ.
「今なんか失礼なことを思わなかった?」
「いや何も」
こいつは地獄耳か何かなのだろうか?
そういった事には鋭い幼馴染からの睨みを,.さらりと返しながら俺たちは歩き出した.