序章
深い森の中. 歩くだけでも方向感覚が狂いそうになる程に深く, 緑豊かな森. そんな森の草木を掻き分けて, 走る1人の少女.
「はぁ..!はぁ..!」
呼吸が乱れ, 息が苦しい.
もうどれだけの時間, この森の中を走り続けているだろうか. 後ろからは何かが追ってきている. あれに捕まったら終わりだ. 二度と家族の元には帰れない.
どうすればいい! どうすれば助かる!と少女は周囲を見渡して, 何か無いのかを確認する.
「!!」
そんな中, 自分を追いかけてくる足音が間近で聞こえてきた. 慌てて近くの大きい木の後ろに気配を消して隠れる.
「いたか!?」
「いや. まだ見つからん. …マズイな, 確かこの森は帰らずの森ではないか?」
口を手で覆い隠して, 声を必死に押し殺す. ここで見つかったら間違いなく連れて行かれる. 其れだけは避けたかった. 必死に声が口から出てしまわないように, 彼らの会話を黙って聞く.
「( 帰らずの森……) 」
聞いた話では, この森に踏み込むと, 方向感覚が狂い, 通った道が分からなくなる. 最終的に森に踏み込んだ者は行方知れずとなってしまうとか何とか..
無我夢中で走って来たから,まさかそんな噂のある森の中に入っていたとは思わなかった.
「( このままだと………どうすれば… )」
このままだと捕まってしまう.
家族が, 敬愛する兄が, 自分を逃してくれたのに, 兄を助ける事も出来ずに, 捕まってしまうなんて…
「( ーーーそれだけは嫌ッ!!! )」
ーーーカッ!!
「え……!?」
強く嫌だと思った. 直後に強い光が森全体を包み込む.
この強い光は, 森の木々から発せられている様に思えた. 目を見開く少女と同様に, 彼女を追っていた者達も驚いた様な声を其々発している.
「なっ!? な,何だよこれ!!」
「か,帰らずの森の呪いだ!」
「( 呪い? 違う..これは.. )」
呪いだと口にする者もいるが, これはそんな邪悪な物は感じない. むしろ温かい光だ.
まるで包み込む様な優しい光-----朦朧とする意識の中, 少女は小さな笑みを浮かべながら, その光に包まれた.