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白焔の覇王  作者: もずく
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堕落


 

 学園の生徒からスタンピートの報告があってからグラーダを飛び出してから急行した先で目に映ったのは一面の焼け野原と倒れ伏す勇者たちだった。

 その戦場後と魔物がほとんどいないことからスタンピートの終息は確認され、急ぎ勇者たちを屋敷まで連れて帰った。

 身体状態としては桃が擦り傷等の軽症、拓が肋骨及び上腕の骨折と腹部の裂傷で重態、そして命が全身の熱傷による危篤状態であり、その事を医師から告げられたあたしの目の前は真っ暗になった。特に右翼は再生不可能であり、意識の回復の見込みがないとも。

 城の宮廷治癒師と宮廷薬師が総出でことに辺り拓は奇跡的に全快、四日の昏睡から目を覚まして今は絶体安静を言い渡されエリザベス様が付きっきりで看病している。幸いにして後遺症はなく意識も明瞭、早く魔物を倒したいとまで言えるようね。

 桃は逆に精神的になんらかの強いストレスがかかり、三週間経った今でも錯乱している。桃の方は源さんが看病しているけど大変みたいで、睡眠障害、摂食障害、パニック障害を併発。気持ちを落ち着かせる香を常に焚いていないと満足に生活が送れないらしく源さん曰く

 

 「こっちまでおかしくなりそうだぜ、あのとき、あの場所で何が起こったんだ?」

 

 なんて言ってよくお酒を飲んでるわ。カウンセラーにも相談しながらなんとかやっているみたいね。

 

 あたしを悩ませるのは命の容態。

 まるで全身をオーブンで焼かれたかのような熱傷は筆頭治癒師が二日がかりで治療に当たっても全快とはならずに顔の右半分と左肩から腕にかけて火傷の後が残り、両足と左手の爪は血と煤で固まり真っ黒に変色してしまっている。治癒師はなぜ生きているのか不思議でならないと言う。眼球と歯、そして毛根は無事だったみたいで治癒魔法による細胞分裂の促進のせいで丸坊主だった髪はもう元の長さの半分ほどにまで伸びている。

 だけど目は覚まさない。それどころか日に日に衰弱していって今ではまるで枯れ木のようだ。髪も、翼も以前の美しかった姿からは想像もつかないほど艶がなくなり、息をしているか確認しなければ死んでいるんじゃないかと思ってしまう自分が怖いの。

 

 「ねぇ、命。目を覚まして?」

 

 そっと頭を撫でながら囁く。

 

 「うぅ...やめ、あああああ!!!!」

 

 命は時々こうなるの、まるで悪夢にでも魘されてる見たいに私には価値などない、とかなにも為せないとか。

 

 「大丈夫、大丈夫よ。あたしがついてるから。」

 

 頭を撫でながら言い聞かせる、自分に言い聞かせる見たいに。

 涙が止まらない、命が死んじゃうんじゃないかって、目を覚まさないんじゃって。

 

 「命言ってくれたよね、一緒に空を飛んでくれるって。でも、もう翼はだめだから。だからあたしの魔法で飛びましょう?お願い...目を覚まして...!」

 

 その時、今までピクリともしなかった腕が僅かに動いた気がした。

 

 「命!命!あたしよ!!伽凛よ!!」

 

 声に反応するようにゆっくりと瞼が持ち上がる。だけどその瞳を見て息がつまった、感動ではない。恐怖によって。

 

 「わ...私は無力だ...誰も救えはしない...何事も為し得ない...」

 

 その瞳にはなにも映っていなかった。ただただ絶望だけが、深い闇のように引き込まれそうになるほどの絶望だけが痛々しく掠れた声に乗って伝わってきた。

 

 「でていって、くれない、かな。一人、になりたい、んだ。」

 

 あたしは頷いて部屋を出ることしかできなかった。

 

 命が目を覚ましてから一ヶ月が経った。

 

 自室に一人、安楽椅子に座っておもむろに煙草に火をつける。

 煙を吐き出しながら暗い気持ちを静める。

 命はあれから部屋から出ていない。食事もとらずずっと何か言い訳のようなことが命の部屋から漏れ出ているのは聞こえた。

 

 「だめね、こっちに来てからは禁煙していたのに。」

 

 命の力になれない自分がふがいなくて嫌になる。

 

 「あの日、あの時から命は変わってしまったのよね。」

 

 やるせなくて頭の中がこんがらがる。

 はぁ、と煙と共にため息と弱音が溢れでる。

 ワインでも飲もうと棚を探すがもうすべて飲んでしまっていたことに気がついた。

 

 あたしはどうしたら命の憂いを取り払えるのだろう。そんな思考がぐるぐる回っているうちにいつの間にか眠ってしまった。

御愛読ありがとうございます。

なんだか筆が進んだので明日も投稿できるかと思います。

これからもよろしくお願いいたします。

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