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白焔の覇王  作者: もずく
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討伐合宿と命の野生


 

 早いもので入学してから1ヶ月近くたち、第一回魔物討伐合宿の季節がやってきた。

 討伐合宿とは人の上に立つ身分の者でも魔物の驚異を感じられるように弱い魔物との戦闘を通して自らの力で民草を守れる、守るという意識を貴族たちに植え付け、貴族以外の生徒には魔物に対抗できる力を持たせるという目的から作られた学園の恒例行事で、年に二回行われる。

 この世界にもノブレス・オブリージュの精神が根付いていることには深く感動したものだ。

 この合宿は三日間にわたって行われ、行き帰りの移動に1日、そこから魔物の討伐に2日かける予定である。

 討伐は五人一組でチームを組み、そのチームの倒した魔物の合計ポイントを競う討伐大会の一面も併せ持っているが、勇者組は個人の戦闘力が桁外れなためサポートに回って欲しいとオルン先生にそっと告げられた。

 5人組は戦力の均衡を保つため各クラスごとに平均になるように先生が作っており、私のチームは私の他にベアトリス=ツェラリンベル カラミティア龍国公爵令嬢、フリードリヒ=グランツ グランツ皇国第五王子、マスクリン=レッドテイル グリーン森国侯爵三男、パルム=ペンタクル フェイマス王国伯爵令嬢の五人だ。

 この日のために私たちはテントの張り方や安全な場所の見極め、簡単な料理、効率的な魔物の見つけ方などを座学、実習で学んで来た。

 向かう場所はゴブリンやホーンラビットなど、弱い魔物の多い私たちの召喚された神殿方面だ、そんなこんなで私たちは夜営道具を積んだ質素な馬車にガタゴト揺られながら話している。

 

 「お尻が痛い...なんで僕がこんな安っぽい馬車に乗らなれればならないのだ...」

 

 「そうでふね、フリードリヒ殿下。俺たちは貴族なんだからもっと座り心地の良い馬車に乗るべきですふね。こんな平民が乗るような馬車は馬車ではないでふ。」

 

 「うるさいぞお前たち!ミコトを見習って静かに座ってろっ!」

 

 「ベアトリス様、はしたないですわよ?でも、たしかにヤマト様はなぜ平気なのでしょう?」

 

 「私は冒険者だからね。乗り方は知っているんだ。あと合宿はもともと非常事態を想定したものだから乗り心地の良い馬車では訓練にならないんじゃないかな?」

 

 「まぁ!その乗り方をご教授願えませんこと?」

 

 「気合いだっ!そうだろ?ミコトっ!」

 

 「それもあるけどね。前傾姿勢になって足に軽く力を入れればだいぶ楽になると思うよ?」

 

 「ふん!平民の浅知恵なぞ知る必要はないな。」

 

 「殿下の言う通りでふ。俺たちのような高貴な人間はこんな馬車に乗るくらいなら死を選ぶでふ。だいたい戦争なんてもうおきてないでふ。意味がないでふよ。」

 

 こんなメンバーシップで大丈夫かなぁなんて心のなかでぼやきながら馬車に揺られること約半日、神殿の森近くに到着した。

 まだ太陽は高いが夜営地を見つけるなら早い方がいいだろう。

 

 「このへんでいいかな?」

 

 森から少し離れた平野にテントを置きながら呟く。

 

 「フリードリヒ、マスクリン。二人は薪を拾ってきてくれないかな?」

 

 「わざわざ言うな、言われなくてもわかっている。」

 

 「平民の言うことなんて聞きたくないでふけど、殿下が行くなら俺もいくでふ。」

 

 「二人とも、私は構わないからいいけど。身分で差別するのはよくないからね。先生に睨まれると大変だからね。それじゃあ気をつけて。」

 

 「ミコトッ!ベティたちは何をすれば良いのだっ?!」

 

 「じゃあベティとパルマ嬢は竈を作っておいて欲しい。作り終わったら私が火を着けるから呼んでね。」

 

 「はい!」

 

 「わかったぞ!ミコトッ!」

 

 一通り指示を出したので私も自分の仕事に取りかかる。荷馬車からテントとトンカチを持ってきて組み立てる。授業でも習ったので案外一人でもすぐ立てられた。テントの中で虫除けのお香を焚いて、魔物が嫌う臭いのするものを回りの木にかけて準備は万端。

 

 「戻ったぞ。...ついでに周りの索敵もしておいた。感謝するがいい、平民。」

 

 「ありがとう、二人とも。」

 

 「お、俺は殿下の指示に従っただけでふ。平民なんぞにお礼を言われる謂われはないでふね。」

 

 「ついでだ、ついで。」

 

 高い身分に生まれたせいか打算のない真っ直ぐな好意になれていない二人はそっぽを向きながら地面を蹴ったり落ち着かない様子で視線を惑わせる。

 けれど私は知っている。二人は決して平民のことを『下民』と蔑まないことを。

 そんな二人を微笑ましく見つつ先ほど見つけた美味しいものを分けてあげることにしよう。

 

 「さっき丁度いいものを見つけてね。美味しいから頑張ってくれた二人に食べて欲しいな。」

 

 仕方ないからもらってやると言う二人にそっと背負い袋から食材を取り出す。

 

 「はい、これスニークスネークって言うんだけど、美味しいんだよね。」

 

 ギャッと叫んで飛んでくる魔法を避けてから携帯食料を使って料理を作り、皆で食べた。

 誰も食べたがらなかったスニークスネークの丸焼きを頬張りながら。

 

 「美味しいのになぁ...」

 

 そう呟いた私に返ってきたのは四人のひきつった笑みだけだった。

ありがとうございました。

ストック作りで筆が止まっていた峠を越し、これからはチョロチョロと更新できるかと思います。これからも拙作をよろしくお願いいたします。

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