とある生徒の独り言
ぼくの名前はグラム=インスタント、特級クラスの第七席さ。
中等部の頃は特級クラスの第三席で、グリーン森国インスタント公爵家の次男で身分も高くて、顔も結構いいからモテたものさ。なんでもファンクラブなんかできちゃったって言うし、まぁぼくの様な高貴なエルフは当たり前のように過ごしていたけどねっ!
高等部へ進学するとき実技試験はツェラリンベル嬢に劣って、学科試験はフェイマス嬢に劣るのはわかっていたさ。中等部ではいつも勝てなかったし...
でも魔法試験と総合評価ならだいぶいい線いってるんじゃないかと思っていたのさ。
もしかしたらツェラリンベル嬢を抜かして第一席になって首席の挨拶をして...まーたぼくの魅力が大勢に伝わっちゃうなぁ!なんて思っていたのさ。
そう、思っていたのさ...
合否発表の時、蓋を開けてみればぼくは特級クラスの第七席だったのさ。
勉強不足だったかなぁなんて思いながらツェラリンベル嬢が首席なら仕方ないと考えて首席入学者の欄をみるとそこには「ミコト=ヤマト」なんていう聞いたことも無いような名前があったのさ!ぼくは愕然としたね!栄えあるラハウェル学園高等部の首席入学者が中等部からの進学でも名のある有名な貴族の子供でもないなんて!
必ずなにか裏がある!化けの皮を剥がしてやる、そしてぼくの地位を上げてやる!とかなんとか思いつつ入学式に出席したぼくはまたしても驚愕したのさ!
入学者代表として名前を呼ばれたミコト=ヤマトは男のぼくでも見惚れてしまうほど完成された美だった。陶器のような白く、滑らかな肌。少し物憂げに伏せられた長いまつげに飾られた大きく、優しく、全てを見透かす様な瞳。目にはいるだけで手を伸ばしたくなる柔らかな羽毛の白と金のグラデーションの色彩の翼。そしてなにより人の上に立つのが当然だと思わせるほどのカリスマ。周りを見渡せば何人もの令嬢が溜め息を吐いていたさ。
彼が勇者だと聞いても驚かなかったさ。むしろどこかの王族の隠し子かなにかだと聞かされたとしても驚かなかったと思うし、たぶん納得してしまうと思う。
でも見た目なんて気にしないのさ!要は実力があれば勇者だろうが王族だろうが蹴落としてぼくがトップになれるというわけさっ!
幸いにしてオルン先生が初日に模擬戦をやるっていってたからぼくが得意の魔法を使って上位のやつらをやっつければ晴れてぼくがトップの座につけるという寸法さぁ!
なーんて考えてた1ヶ月前のぼくを食虫植物の中にでも突っ込んでやりたいさ...
最初に当たったツェラリンベル嬢とは善戦したつもりだったものの負けてしまったけど確実に手応えは感じられて、自信満々に勇者であり第二席のタク=カンザキと模擬戦をしたのさ。
先生の「始め!」という合図のあと瞬きしたらぼくの持っていた剣は半ばから切り落とされていていつの間にか首の横に剣があったのさ...
知っているかい?剣というのは「叩き切る」のが目的の武器であって手に持っている剣を斬られた感覚も重さもなしに「斬る」道具ではないのさ、なのにぼくの剣は完全に斬られていたのさ...
なにがなんだかわからなかったさ、ぼくの剣の断面は鏡みたいに滑らかだったしなんかタク=カンザキから凄い殺気みたいなのが溢れ出ているし、正直失禁しそうだったさ。
そのあとのミコト=ヤマトとの対戦はもっと訳がわからなかったさ。
なんせ対峙しただけで負けてしまったんだもの。試合開始の合図のあとに全身を押し潰されるような圧迫感が襲ってきて立っていられなくて、内緒だけど一瞬涙腺と膀胱がゆるんださ...
紳士として誰にも言わなかったけどねっ!
最後のタク=カンザキとミコト=ヤマトの模擬戦を見て「あ、これはダメなやつだ。」って思ったから勉学で勝負しようと思ったのさ!ぼくの切り替えは流石さっ!
タク=カンザキには時間を掛ければ勝てるんじゃないかな?ってぐらいに頑張ったけどミコト=ヤマトは勉学でも別次元だったさ。
えっくす軸とわい軸とぜっと軸そして時間軸以外の次元軸?がどうたらこうたらとか、くろーん力?くーろん力?と惑星間の万有引力が本質的に同一だからどうたらこうたらとか、脳の神経回路を魔力によって無理に繋げた場合の考察とか、別世界でのいであ論?を逆に先生に説明してたり、なんかもう色々と脳ミソが追い付かないレベルの話をしてたからぼくは張り合いのをやめたさ...
でもいつかはぼくもあの高みに登りついて見せるさっ!
そのためには今度ある魔物の討伐合宿でよい成果を上げて勇者のモモ=タツノ嬢に少しでも振り向いてもらわねばっ!
そう!何を隠そうぼくはモモ=タツノを見守る会の会員番号一桁の古参ファンなのさ!ああ!あの美しい翼を眺めるだけでぼかぁ!ぼかぁ!なんだってやれるのさぁぁぁぁぁ!!!!
皆様明けましておめでとうございます。年明けはいかがお過ごしでしょうか。本年が皆様にとってより良い一年であることをお祈りします。
さて、今回も読んでいただきありがとうございます。これからも本小説をどうぞご贔屓に。