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白焔の覇王  作者: もずく
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伽凛と命

私の考える勇者のあり方が含まれております、ご不快な思いをさせてしまうかもしれませんがストーリー上知っててほしいです。

あれから数日がたち、今日は学園が休みの日なので家でコーヒーを飲んでいると、伽凛から一緒に依頼を受けないかと誘われたので受けることにする。

 町の人たちも流石に慣れたのか積極的に私たちに話しかけてこないし、歌のリクエストも少なくなり、大分歩きやすくなったなぁなんて考えつつも伽凛と話しながらギルドに到着。

 

 「ミーシャ、日帰りで適当な依頼を見繕ってくれないかな?」

 

 かしこまりました。と、丁寧な一礼の後、素早く依頼の一覧をめぐり私たちに提示してくるのは適正ランクがⅨの討伐系の依頼。なんでもこの街の近くで強力なモンスターの目撃情報があったらしく、対象の排除が目的だ。

 対象の特徴は鬼系の魔物で体色は紫、二本の角、これらの情報からエンペラーオーガと推定されるとのこと。

 

 素早く対象の情報を頭に叩き込み、出発する。目撃場所は伽凛が一度行ったことがある場所なようでそこまでの道は安全だ。

 

 『転移』!

 

 伽凛が魔法を発動させると森の付近に到着したので辺りを警戒してから早めの昼食を食べる。

 

 「はぐれエンペラーオーガなのかな?エンペラーオーガが巣を作ったらもっと大きくて森の深いところだと思うんだけど...」

 

 「そうね、ほかにオーガの上位種の目撃情報がないからその可能性は高いと思うわ。でも...」

 

 「そうだね、用心するに越したことはないよね。んー、斥候誰か呼べばよかったかな?」

 

 「いえ、エンペラーオーガなら魔力も多いでしょうしすぐ見つかるはずよ。」

 

 「探知の魔法はえげつないねぇ。じゃあよろしく頼むよ。」

 

 「んー...と、それらしきものは見つけたわ、でもその前に腹ごしらえしましょう?」

 

 手早くサンドウィッチの食事を済ませると伽凛が発見した場所へとまっすぐに向かう。

 

 「いた...!」

 

 先頭を歩く私は木々がなぎ倒された森の中の広場に一匹のオーガを目視した。その大きさは3m強、紫の肌に二本の角、依頼の標的と一致する。

 伽凛とアイコンタクトをとり、いつも通りにオーガを殺す。

 まず魔法制御に優れた伽凛が小さな火をオーガに向け放ち喉を焼き、声で周囲の魔物を集めないようにしてから火力に優れた私が焔のランスで心臓を穿つ。何回も繰り返したパターンで今回も無事成功、幸いなことにエンペラーオーガは私たちの存在に気付いておらず、得意な分野で不意を突けたので実にイージーな仕事だった。念のためオーガが確実に絶命しているか確認してから伽凛にアイテムボックスに入れてもらう。

 

 「さて、帰りましょうか。」

 

 「そうだね、そのあとはいつものバーでいい?」

 

 「ええ、良いわよ?」

 

 つつがなく依頼の報告と獲物の報酬を受け取った私たちは行きつけのバーに足を運ぶ、人の少ない落ち着いた雰囲気のあるその店は私と伽凛のお気に入りの場所だった。

 私はワインを、伽凛はすっきりした味わいのカクテルを頼みグラスを合わせると、二人以外に客がいない店内に澄んだ音が響く。

 

 「エンペラーオーガがあんなに街の側に出るなんて魔物の勢いも戻ってきたのかしら...」

 

 「たまたま...とは言い切れないね。いつ前線に戻ってもいいようにそれとなく皆に伝えておくよ。」

 

 「そうね、頼むわ。」

 

 「...ねぇ。」

 

 「どうしたの?」

 

 「元の世界の貴方のことが知りたいの。」

 

 「あたしの気持ち、気づいてるんでしょ?」

 

 「...まぁ、ね。」

 

 「...迷惑だったかしら。」

 

 「そんなことはないよ、伽凛はとても魅力に溢れている女性だと思ってる。」

 

 「じゃあ!」

 

 「でもね、私の容姿も、力も全てが与えられたものに過ぎないんだ。こんな借り物の、虚飾みまみれた私は、私に向けられた好意も素直に受け止められない。」

 

 「それを言ったらあたしだって同じよ?例え与えられたその姿であろうとあたしは命のその心に惹かれたの。あたしの思いはあたしのものだわ。だからこそ貴方のことが知りたいの。なぜ貴方は世界を担う重責に耐えられるの?あたしは弱いわ。だから貴方についていくことで責任から逃れようとしている。でも命はみんなの先頭に立って戦っている、責任から逃れようとせずに真っ正直から受け止めている。それが不思議でならないのよ。」

 

 「...わかった。少し昔話をしようか、私が私である理由を。伽凛は大和 賢一って政治家は知っているかい?」

 

 「ええ、あの官僚の...まさか。」

 

 「私の父だよ。あの人は非常に上昇思考が強い人だった。国のトップになるという手段と、国を変えるという目的のためなら何でもする人だった。だけど、国というものは一代ではそう簡単には変えられるものではない。そう思った父は次世代に自分の思想を受け継がせようとしたんだ。

 自身の子供である私にね。あの人は私に常々こう言っていたよ。「お前は国のトップにならなくてはならない。その為の自覚を努々忘れるな。」とね。だから私は為政者となるために、為政者になるためだけに育てられた。だからかな、こうして事実として世界を守る立場になってもそれを義務として淡々と受け入れられるのは。」

 

 「そう...だったのね。」

 

 「だから私の力は全て、世界のために使わなくてはならないと思っているんだ。力を与えられた者はその力を自分のために使ってはならないと。私の考えを押し付けることはしないけど、私は『勇者』は一個の個人ではなく『勇者』という義務を果たす概念でなくてはならないと、ね。

 ...遅くなってしまったね、そろそろ帰ろうか。」

 

 ワインを飲み干し、空になったグラスを静かに置いて私は立ち上がる。

 

 「...そんなの...そんなの悲しすぎるじゃない。まるでそれじゃあ...」

 

 ーー兵器じゃない。

 

 立ち上がった私の後ろでそう震える声で呟いた伽凛の表情は私にはわからない。

毎度読んでいただきありがとうございます。

閲覧数が何にもしてないのに増えていたことが驚きでした。

今後とも白焔の覇王をよろしくお願いいたします。

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