歴史の授業
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いつの間にやら眠っていたようだ、ソファーには毛布がかけられているとこから伽凛がかけてくれたのだろう。ソファーから身を起こしてパキパキと背骨を伸ばしながら伸びをする。
姿見で顔を確認するが涙のあとはない、これも伽凛が拭ってくれたのか。あとでお礼を言わなければ。
いつものように食堂に行き朝食を食べて学園に行く前に伽凛にお礼を言って出発する。
校門の前で拓を待っていたエリーと合流し教室へ、心の闇を表に出すようになった桃を宥めたりしながらオルン先生が来るのを待つ。
「はい、皆さん揃ってますね。流石は特級クラスです。では、今日から授業が本格的に始まりますので、教科書を配りますね。」
「はい、足りない人はいませんか?では、授業を始めたいと思います。今日の授業はこの世界の歴史について、です。まぁ古い文献がほとんどなくなって久しいですから僕の見解を含めた、という但し書きがつきますが。」
「文献の消失のきっかけはなんですか?」
「ああ、勇者の君たちは知らなくて当然だね。古い資料はほぼすべてが魔物によって破壊されてしまったから残っていないんだよ。魔王のせいだね、嘆かわしいことだよ。」
「この世界は今こそ6つの国、6つの種族による国家を築いているけども伝承によるともともと一つの巨大な国だったと言われているんだ。その国家はとても高度な文明だったと考えられるね、それは何故かわかるかな?」
「...こ、この学園の闘技場の結界のように、現在の技術では再現不可能なものが遺跡から出土した、から?」
「その通り!まったく特級クラスは理解が早くて助かるね。タツノ君が言ったように闘技場の結界なんかは良い例だね、他にもステータスプレート、ギルドカードの製造機なんかも古代遺跡から出土したものだね。珍しい物だと永遠に時を刻み続ける時計、空飛ぶ絨毯、魔剣なんかもあるね。」
「その巨大な国、名前はコルツェリュート、それを取りまとめていたのはみんな知っていると思うけど、初代勇者。ハジメ=タキザワだと言われている。その容姿は色々と説があるけど、私が知っている限り白髪で黒い目、褐色の肌をもった人間だと言う説が一番多いかな?まぁそんな特徴をもった種族はいないから色素異常だと、私は思うがね。」
「...私たちの前の勇者も、日本人が転生していたのか...」
「ん?ヤマト君、何か言ったかね?」
「いえ、なんでもありません。とても興味深いです。」
「よろしい。ならば話を続けるよ。彼は自らの命を対価に魔王を滅ぼした、と言われている。そして王を失った巨大国家は当然瓦解したわけだ。今から二百年くらい前に各種族は確立した国土と規律をつくり、大陸中に広がっていた同胞を集めて六大国家を造り上げるまでは魔物以外にも人類同士で争っていたそうだ。今の時代を生きる君たちにはあまりわからないだろうけどね。」
「そして歴史に深く根付いてくるのが宗教の話だ。現在は一柱の神が信仰されているのはみんな知っているね?全ての生と死、輪廻転生を司る円環龍様だね。ただ、奇跡的に遺されていた古い神殿の遺跡から興味深い資料が発見されたんだ。その神殿には二柱の神が祀られていたんだよ。古代言語で書かれていたために解読は進んでいないけど人や動物の感情、魂を司る神が古代文明では信仰されていた、とまでは解読が進んでいるのだけれど肝心の名前がまだわからなくてね。ただこの神は古代文明の崩壊とともに急に信仰がなくなっている。それが手がかりになると思うのだけれど...なにぶん手がかりが少なくてね。僕も困っているのさ。」
「円環龍様の姿を描いた壁画は有名だね、彼の神は長い胴体に一対の翼をもち龍のようだが、一見鳥のようにも見える。だから部族によっては呼び方は様々でシグ、ウロボロス、鸞、朱雀、そして、鳳凰。ヤマト君の種族は神獣の獣人だから、円環龍様は元来鳥のような姿をしているのかも知れないかな?いや、この話は聞かなかったことにしてくれるかな?不敬だったね、あやまるよ。」
「さて、この世界で一信教なのは二百年前までの戦争でほかの民族が信仰していた神を滅ぼしたからなのでは、という説もある。古い文献に邪神を滅ぼすための革命を行った、とかかれているためだね。これは僕の推測なんだが...もともとの二柱の神のどちらかが教会関係者の権力の増強のために邪神と認定された...そして、弾圧された...これ以上は強い信仰を持っている人に失礼だね。あくまで僕の推測は、と言うことを覚えておいてくれるかな?文献が残されていない以上今を生きる我々は推測しなければならないんだよ。皆も常に考えて欲しい、仮説をたて、検証し、反省する。何事もこれが大切なんだ。僕が伝えたかったのはここだね。良いかい?皆、常に思考するんだ。これから人類は魔王により危機にさらされるだろう、だからと言って諦めてはいけないよ。どんな困難な道にも活路はあるのだからね。」
「さて、大筋の歴史はとらえられたかな?僕の授業は基本的に皆に考えてもらう授業なんだ。だから、思考を忘れてはいけないよ?...長話が過ぎたみたいだね、今回の授業はここまでとしようか、次回から教科書に入るから五ページまでを読んでなんでも良いから感じたこと、疑問に思ったこと、仮説を立ててみたりしておいてくれ。では、これにて授業を終えるよ。」
読んでいただきありがとうございます。
寒いので皆様も体に気をつけてくださいませ。