弱さ
こちらをどうぞ
「強くなりたいなぁ...」
私、辰野 桃は有り体に言えば普通の女子高生だった。顔は中の上くらい、だと思う、性格は引っ込み思案、成績は上の下。
そんな私が突然異世界に連れてこられて世界を救うなんて考えもしなかった。けれど、この世界で暮らすうちにこの世界を救いたいという気持ちが強くなった。
今日の模擬試合、命と拓の戦いを見てから私はなんて力がないんだろうと嘆いた。
圧倒的な強さの二人を見ていたらなんだかとても無力な気分になって、自分を蔑んでしまう。
この世界を救う。その役目はきっとあの二人の仕事だ。私はきっと主役にはなれない。
だけど、だけど、この世界が好きだ。
この世界を守りたい。
だから
強くなりたい。
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屋敷に帰った私たちはいつも通りに夕食を皆で囲み、それぞれの自室に戻った。
私はなんとなく寝ていられずに自室の革貼りのソファーに腰を下ろして本を片手にウイスキーを傾ける。
カランと氷がグラスにぶつかる音が静かな部屋に響き、集中しきれていないで読んでいた本を棚に戻して目を閉じる。
暖色のライトが静かに光って部屋をほんのりと照らす。
「そろそろ寝なければ明日に差し支える...か。」
そう誰にでもなく呟いてソファーから立ち上がろうとすると控えめにドアがノックされた。
「どうぞ。」
私の言葉にドアは開き、姿を見せるのは黒いナイトガウンを羽織った伽凛だった。
「命?起きてるの?」
「ああ、起きてるよ。」
「珍しいじゃない、こんな夜更けに考え事?」
「いや、なんだが眠る気になれなくてね。」
「聞いたわよ、今日、拓と戦ったって。」
「...そうだね。」
「悔しいの?」
「ああ...悔しいよ。」
棚から新しいグラスを出して伽凛に渡し、ウイスキーを注ぐ。伽凛は慣れた手つきで魔法で氷の球を作ってグラスにいれる。
「全力だったの?」
「もちろんだよ。手を抜いたら相手に失礼だ。」
「でも、オリジナルスキル、つかってないでしょ。」
「...まぁね。」
「理由を聞いてもいいかしら。」
構わない、と呟いてウイスキーを一口、口に含む。
「私のオリジナルスキルは確かに強力だ。ただ、いやだからこそデメリットも大きい。スキルを使うと私のステータスは本来の力以上を引き出せる。でも、そのあとは?使いすぎた筋肉組織が断裂するように、私の身体も著しく弱体化してオリジナルスキルも一、二週間使えなくなるんだ。拓の限界突破もステータスを上昇させるものだけど、彼の場合筋肉が膨張しているのが見てとれた、だから軽い筋肉痛位ですむと思う。でも私のスキルだと使った反動が大きすぎるんだ。私がスキルを使えない間にもし魔物の襲撃があったら皆の負担になってしまう。だから、使えなかった。」
「そうだったの...」
「だから私は、私の全力で戦って、そして負けた。私は弱かった、それだけだよ。」
「貴方の選択は間違ってないわ。貴方は貴方個人ではなく、勇者として、皆を守る者として選択して戦ったの。それに誰しも得て不得手があるじゃない。拓は一対一の剣での接近戦が得意で、命は一体多の魔法戦が得意。みんなで補え合えば良いのよ。」
「みんなで補い合う、か。私はたぶんあの時、一人で都市を防衛してから、一人で戦っている気になっていたんだな...。一人で何でもしようとして、そして、できなかった。」
「...それは貴方がそうあれ、と、皆から求められていたからよ。一人で人類の防衛線を救った勇者。その肩書きが貴方をそうさせたのよ。まず、命はまだなにも失敗してないじゃない、大丈夫よ、あたしが、あたしたちが貴方にはついているから。貴方は貴方のままでいればいいの。」
「...そうか、私は...一人じゃなかったんだな...言われるまで気が付かなかった...。」
いつの間にか私の頬は濡れていた。
「独りぼっちはどんな人だって辛いもの、もっと周りを見て?貴方の周りには沢山の人がいるわ。」
伽凛は対面していたソファーから立ち上がると私に歩みより、そっと私の頭を抱き締めた。
「貴方は貴方のままでいればいいの...それがあたしのーー」
強い安堵に包まれて私はいつの間にか眠っていた。
命の部屋のドアの前、明かりがついていることに気付いたサラは主が消し忘れて寝たランプを消そうと、そっとドアを開けて、話を聞いてしまった彼女の、ドアから逃げるように歩く表情は酷く儚げだった。
皆様こんにちは、こんばんは。
読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけたのなら幸いです。
理想の男性像が主人公なのでモッテモテですね、命君はハーレムを作ることができるのでしょうか。
最近長い間待ち望んでいた.hackというゲームのリマスターが発売されたので暇なときは常にps4の前に座っております。とても面白いので是非とも皆様にやっていただきたい次第です。
今後とも白焔の覇王をよろしくお願いいたします。