試験当日
私の影たちに用件を伝えたあとに一人ソファーに戻り竪琴を爪弾く、名もない村人が貴族に婚約者を奪われてその人を取り返すために奮闘する歌を歌っているとドアがノックされたので入室を許可するとサラサラな金髪におっとりした整った顔立ち、そして特徴的な狐の耳を生やした女性が入ってきた。
私は人払いをして彼女と対面する。
「定時報告に参りました。」
「ああ、いつもありがとう。」
「いえ、これも私の罪を償うためですから。それよりもヤマト様の歌声はいつ聴いても聴き入ってしまいますね。」
「今度子供たちにも聴かせようか。その前に定時報告を頼むよ、ミランダ。」
そう、ここに居るのは獣国で孤児院のシスターをしていたミランダだ。彼女がここにいるのには理由がある、それは伽凛が飲まされた毒入りのワイン、それを用意したのが彼女だったのだ。彼女の孤児院は収入が安定しなく、たち行かなくなっていってしまった。そしてお金を工面するために彼女は暗殺者ギルドに接触し、毒入りのワインを用意したのだ。
影を使って実行犯として彼女を捕らえたときには驚いたものだ、彼女も驚いていた。そして事情を聞き出し、私を殺害しようとした貴族もその関係者もすべて洗い出したあと、彼女は自分の犯した罪の重さに潰れかけていた。我ながら甘いとは思うが彼女に罪を償うためと言い獣国の情勢を聞き出させたり、暗殺者ギルドのつてを使い貴族の弱味を聞き出させたりさせたりし、その代わりに孤児院の運営費は私が用意することになったのだ。
「こちらがモヘンロ侯爵の嫡男の表沙汰にできない事件でございます。」
ミランダから受け取った資料に書かれている侯爵の嫡男の事件の数々、強姦、監禁、殺人、違法奴隷、等々これでもかというほど胸くそ悪い事件を起こしている。しかし侯爵という高い家柄のおかげで表立った事件にはならず、揉み消されているようだ。そして彼は15歳、つまり私たちと同い年でラハウェル学園に入学することになるだろう、関わりたくないなぁ。
私は次々に羊皮紙をめくり、すべてを頭に叩き込んでいく。そして全部インプットしたところでその紙の束を燃やす。
「ありがとう、ミランダ。お金は孤児院に届けておくから。」
「ありがとうございます...ですがどうやって届けているのですか?いつも気付いたら机の上に金貨の入った袋が置いてあって驚いてしまうのですが...」
「秘密だよ、さぁ。そろそろ帰らなきゃ。送らせよう。」
パンパンッと手を叩くと執事がやって来てミランダを外にエスコートする。
「え、あ、ちょっ!あ、ありがとうございましたぁ~。」
笑顔でミランダを見送ったあとはみんなが戻るまで竪琴を弾いた。
みんなが帰ってくると私は学園の入学試験のことを話す。皆は理解し、この後の一ヶ月は勉強や自主練に重きを置き、源さんと伽凛以外は冒険者活動は控えるそうだ。
そして時は流れ、屋敷に来た使者の素性も問題なく、入学予定の主だった面々の情報もかき集め、軽く勉強や訓練をして遂に試験の当日を迎えた。
徒歩で城の北側に15分ほど歩き、ラハウェル学園に到着すると、当然人目につき、ざわめきが起こるがもう慣れてしまったので気にせず門の前にいる教師と思わしき人物に試験会場はどこか訪ねると案内してくれるそうなので拓、桃、皐月ちゃんと私でならんで歩く。最初は筆記試験のようで大学の講堂のような場所に案内され、時間が来たら問題を解くようだ。ちなみに皐月ちゃんは初等部に入学するので別の会場へと案内されていた。
筆記試験は特出して語ることはない。中学生レベルの問題と簡単な文章を読み書きしたりするだけだった。
日本の中学生なら八割以上正解できるレベルだったので元の世界の勉強の水準が高いのかこの世界の水準が低いのか迷ったレベルだ、だがこの学園はこの世界の最高峰らしいのでもとの世界が成熟しているのだろう。
二時間ほどの試験のあとの次の試験は魔法の試験だ、講堂から移動して外にある練習場に向かった。そこには100ほどの的のようなものがあり受験生たちが二十列に並ばされていた、受験生の数は膨大で二、三千人ほどいるのではないか。桃や魔法が使えない生徒は別会場にいるのだから受験者数が膨大だと伺える。
『荒ぶる炎よ!我が前に立ちふさがる敵を焼き滅ぼせ!』
<ファイヤーボール>!
ヒュー、ボンッ!
『清らかな水流よ!わたしの敵を切り裂いて!』
<ウォーターカッター>!
ビュッ!バチャ!
私の前の受験生たちが次々に魔法を的に放っては当たって喜んだり当たらずに頭を垂れて悲しんだりと様々な表情をしながら列を離れていく。すると前方からどよめきが聞こえた、どうやら拓が魔法を使う順番になったらしい。私の方はまだ当分順番が回ってこないので拓に注目する。拓は一度深呼吸すると詠唱を始める。
『闇に隠れし暗きを照らす大いなる光よ
すべてを包み込む柔らかな光よ
悪しきを滅ぼす偉大なる光よ
主のお導きのもと我が剣となりて裁きを下せ。』
<閃光一刹>!
次の瞬間には光の剣が的に突き刺さり、ズドオオオオオン!と大きな音を出しながら、的にヒビを入れる。
周囲は驚きから声もでなく、時が止まったようだ。ちょうどそのとき拓と目があったのでピースサインをすると拓もピースを返してくれた。さて、そろそろ私の番が回ってきたかな?
ありがとうございました!




