入学試験
いつもありがとうございます。こちらをどうぞ
ゴブリン討伐から三日ほどたった昼のこと、拓たちは狂ったように冒険者活動を毎日している。私は当面の金銭面での心配事はないため昼食後のティーブレイクをしていた。先日保護した女性二人、アニーとマルシェは徐々にだが仕事を覚え始めているようだ。
お茶菓子のミルフィーユを摘まみながら紅茶を飲んでいるとなにやら使者が来たようで応接室に向かう。
「お待たせしました。」
「いえ、こちらこそ急にお邪魔させていただきありがたく存じます。」
「王城の方ですか?」
「いや、私は学園からの使者でございます。」
「学園から?ああ、アレックスが手回ししてくれたのかな?」
「はい。ラインハルト陛下から通達があり本人が望むなら入学させたいとのことでございます。」
「はい、入学しますよ。」
「ありがとうございます。それについてですが少し問題がありまして...」
「どのような?」
「はい、我が学園は例え王族からでの入学希望者にでも入学試験を課しております。なのでヤマト様方にも試験を受けていただきたいのです。」
「なるほど、試験とはどのようなものですか?」
「はい、計算と文字の問題と戦闘試験、魔法試験でございます。」
「わかりました、いいですよ。その試験というのはいつ行われるのですか?」
「今から一月後でございます。その日の前に使者をやりますのでラハウェル学園を訪ねていたたければ受験が可能てございます。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「それにしてもこのお屋敷の紅茶はとても美味しいですな。流石は勇者様のお屋敷です。」
「お口に合ったようでよかったですよ。よかったらこっちのマカロンをどうぞ、美味しいですよ。」
「いえいえ、これ以上食べるとずっとここにいたくなってしまいますからな、これにて私は失礼いたします。」
使者の男は席を立ち、私にお礼を言ってから退出していった。
男が退出したあと、私は誰もいないはずの室内で言葉を溢す。いつもの穏和な声ではなく温度を消し、ひどく冷たい印象を与える声だった。
「あの男の素性の確認。学園での人間なら立場を、それ以外なら関係者を引っ張り出し、対処しろ。それと平行して学園のことも調べろ。」
すると部屋の角のカーテンの影が揺らぎ、人の形をとってその声に答える。
「イエス、ユア マジェスティ。」
その人影は平坦な声で返事をすると姿を消した。
その気配を感じ取った命は一人ごちる。
「甘さは消さなければ...生きるために。なにより皆を奪われないために...!」
あの人影と出会ったのは命がグラーダに来て間も無く、Ⅹランクの冒険者への依頼として命に指名依頼が入った時だ。
依頼内容は暗殺者ギルドの殲滅。
異例の若さと速さで最高ランクに昇格した命に対してギルドに関係各所から苦言がもたらされた。そのために難易度の高い依頼を指名し、それを達成させることによりうるさい外野を黙らせようとギルド長は画策して命に依頼をしたのだ。
結果として依頼は成功。グラーダへの道中で人を殺めた経験がなければ躊躇して失敗した可能性も高かったが、暗殺者たちは覚悟を決めた命の前には一切の障害にならなかった。
暗殺者ギルドの面々は一人も死者を出さず、燃焼による軽い一酸化炭素中毒や酸欠で気を失い、全員が捕縛された。
報酬として受け取ったのは暗殺者ギルドが溜め込んだ財宝の1割と身元が証明できずに解放されなかった違法奴隷と自称する二名の奴隷の男女だった。
その二人は幼い頃に拐われ、暗殺者として育てられた暗殺者ギルドの虎の子らしく、下手に権力者に渡すと違法に使われかねないと判断され、暗殺者など必要ないほどの実力と認められた命に譲渡された。
そこから二人に使用人として働いてもらおうとしたが、暗殺者として育てられた二人はメイドや執事としての仕事よりも本業の密偵や情報収集などのほうがいいと本人たちが希望し、それからは命の影となって仕えている。
暗殺者ギルドにいたころは相当に酷い扱いを受けていたらしく、そこから解放し、人としての自由を与え、尊厳を回復させた私のことを崇拝に近いほど尊敬しているようで今では大切な命の「目」となっていた。そしてその崇拝は言葉として現れている。マジェスティ、つまり「王」と呼ぶのにはそういった経緯がある。
「彼らを使うようになったのもあのときからか...」
そう、命は最初彼らを使っていなかった。この世界に来てから善人としか関わりがなく、人を疑うことを知らなかったからである。そしてあの悲劇が起きた。
伽凛と暮らすようになってから数日がたったころ、獣国の貴族からワインが送られてきた。プレゼント自体前からたまにもらっていたため感謝の言葉を返事としてしたためてそのワインをありがたくもらった。
その日の食事のとき、私はもともと開けていた森国産のワインを、伽凛がもらったワインを開けて食事を楽しんでいると伽凛が急に苦しみだし喉をかきむしったので私が慌てて浄化魔法と回復魔法をかけると伽凛は一命をとりとめた。そのあと毒を盛られたと判明し、私たちを毒殺しようとした者を全員懲らしめるのに初めて彼らをまともにつかったのだ。
毒殺を企てたのは直接ワインを送ってきた貴族ではなく、獣国にある暗殺者を介しての行為で意外な人物が実行犯だった。
読んでいただきありがとうございました!
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