防衛都市に戻ろう
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足早に王城へと歩くもはや門番は顔見知りなので顔パスだ。
通りがかった執事に聞くとアレックスはまだ執務中とのことで一旦部屋に戻ってから竪琴を弾いて時間を潰す。ちなみにサラは荷造りのために午後からは休みだ。村から出てきて住み込身で働いているらしく荷造りはすぐできるとのこと。
日が暮れてきた頃にメイドが晩餐の用意が整ったと伝えてくれたため晩餐室に向かう。そこは魔導光が煌めきアンティーク調の家具が並ぶ居心地のよい、しかも優雅な部屋だ。グラーダに帰って自分の家をもったらこの部屋を参考に家具を見繕おうと密かに考えている。
部屋には既にエリザベート王妃とラルクス、マックス、アイーダ姫が座っており私も執事長のセバスさんが引いてくれた椅子に腰を下ろす。
暫くするとアレックスが入室してくる、公的な場出はないので立って出迎えたりはしないが他の貴族がこれを見たら不敬だのなんだの騒ぎ立てること間違いないだろうと私は思う。
「待たせたな!」
どのかの段ボールに入って潜入するような人の言葉を発しながらアレックスは私のとなりの所謂お誕生日席に座る。
「では、ミコトの召喚の成功と魔王の討伐を祈って。」
アレックスが国王然と堂々たる仕草でグラスを手に持ち掲げる。
私たちもそれにならいグラスを掲げる。
「乾杯!」
「「「「乾杯。」」」」
私は注がれた赤ワインに口をつける。森国産のヴィンテージワインで二十年ほど寝かせた物らしく、味が落ち着いていてそれでいてフルーティーな味わいなワインでとても美味しい。
アミューズは生ハムといちじくのような果実の料理でワインにとても合うため、話しも進む。
「ミコトの屋敷には丁度いいものがあったので見繕っておいたぞ!」
「ありがとう、アレックス。そんなに丁度いいものがあったの?」
「ああ!五年前に流行り病で断絶した公爵家の使っていたものだ!不自由ないだろう!」
「嬉しいよ、ありがとう。」
「なに気にするな!誰も買えなくてあの土地をどうしようかと迷っていたくらいだからな!」
「そ、そんなに高い所なのかい?」
「いや?普通だぞ!安心するがいい!」
よかった、大金貨を獣国とギルドから合計200枚、つまり日本円にすると二億ほどもらっているのだ、あまり高いところは貰うのが申し訳ない。
続いて出てきたオードブルはプラムのカプラーゼ、果物が多いのは獣国の特産品のひとつだからだそうだ、モッツァレラチーズは王国産で酸味が効いていてこちらもワインが進む。
スープは海人族の集落から輸入したミュージックラブという蟹のスープで思わず歌い出したくなるほど海の香りと蟹の旨味が凝縮されておりこのときばかりはあまり話をせずにスープを楽しんでしまった。この名前、絶対異世界人がつけただろうと尋ねると案の定召喚の魔法を創り出した人がつけた名前だという。
ポアソン、魚料理はフレーバーフィッシュのソテーで元の世界で食べたことのない味だったので驚いたとアレックスに伝えると嬉しそうにガハハと笑っていた。
ソルベの葡萄のシャーベットを食べているとアレックスが神妙な面持ちで話し出した。
「ミコト、時間があればグラーダにある学園に通ってみたらどうだ?」
「ん?いきなりどうしたの?」
「いやなに、オレの独りよがりかもしれぬがお主らのような子供を異世界から浚っておいて救世という重責を背負わせるのは本当に申し訳ないなのだ。先の魔物の大進行でしばらくは魔王の攻撃は鳴りを潜めるだろう。だから、その間に学園に通い、友を作り、笑い、少しでも楽しく過ごしてほしいのだ。」
「アレックス。私たちは自分の意思でこの世界を、皆を救いたいと決めたんだ。嫌ならあのとき断って逃げていたさ。君が責任を感じることはないんだよ。」
「ミコト...」
「でも学園ってのは少し興味があるかな、この世界のことについてもっと知りたいしね。」
「ありがとう。」
「この世界の平和を祈って。」
私がグラスを掲げるとアレックスもグラスを掲げ、チンッと澄んだ音をたてる。
「本当に来てくれたのがミコトたちのようなものでよかった。」
「なに、私も良かったよ。こんなに美味しい物とワインが好きなだけ飲めるんだからね。」
「ふふ...ガハハ!世界を救った曉には好きなだけ酒と食べ物を用意させようではないか!」
そんな会話をしながら食事は進む。
アントレ、肉料理はゴーストシープのリブステーキ、骨を避けながらナイフで食べるのは少し難しいかと思ったが上流階級の気品のせいかスムーズに味わえた、その肉は上質な油の旨味と口のなかに入れるとまるで幽霊のように溶けてなくなってしまい肉料理にありがちな重いという印象を与えなかった。
サラダは皇国産のマンドレイクのサラダで、マンドレイクと聞いたときはかなり驚いたが恐る恐る口にいれてみると甘味のある大根のような味でかかっているオリーブオイルとバジルで味が引き締められていた。
フルーツは獣国産のカルバトアというフルーツでリンゴのような見た目のさくらんぼの味の不思議な食べ物だった。
食べ終えた私たちは食後のコーヒーを飲みながら話す。ラルクスやアレックスは私がアレックスと話していたので会話を遠慮していたらしくこのときは積極的に話しかけてきた。
「ミコトが学園に通ったら僕たちの後輩になるね。」
「そうだな兄上!ほらミコト!先輩だぞ?敬え!」
「ははー殿下殿!」
そんな下らないことを話しつつコーヒーを楽しむ、この豆は大陸中央でのみ栽培されるコーヒーの木から取れる貴重品らしく各国の王族の御用達らしい。ちなみに私とアレックス、マックスはコーヒー派、エリザベート王妃とラルクスは紅茶派らしくそれぞれ思い思いに城で過ごす最後の晩餐を楽しんだ。アリーナ姫は果実水を飲んでいて、たまに顔があうと顔を赤くして目を泳がせてしまっていた。
その翌日の4の鐘がなる頃、王城の前には私と荷造りを終えたサラが並んで馬車の前に立っていた。一目見ただけで高価だとわかる意匠を凝らした馬車に二人で乗り込む。アレックスは見送りに来たがっていたが執務を投げ出すわけにはいかず泣く泣く執務室でお仕事に励んでいる。
見送りに来てくれたラルクス、マックス、アイーダ姫に挨拶をして馬車は進みだす。
ほぼほぼ食事風景だけになってしまいました、すみません。料理、好きなんです。ちなみに登場したなかで一番好きなのはプラムのカプラーゼです。今後ともよろしくお願い致します。