戦後
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城に戻り夕食のコースを食べ翌朝、アレックスが来て正確な褒章がわかるまで暇になってしまったので小さい頃から密かに憧れていた職業のギルドに向かう。
城から西に30分ほど歩いたところにある小さな建物で看板には口を開く女性の横顔と音符が描かれている。そう吟遊詩人ギルドだ。私は前の世界にいたときからこの職に憧れていた。音楽を嗜んでいたのも影響しているだろうが、楽器と共に世界を巡り様々な音楽と人の心に触れることの出来る吟遊詩人や大道芸人に憧れていたのだ。
ギルドにはいると小さな受付がひとつあり、様々な楽器がおいてある。ピアノにチェロ、バイオリン、リュート、フルート、スネア、そしてハープ。
私は受付の人に話しかける。
「楽器を買いたいんだが、いいかな?」
「はい、かしこまりました。どのような楽器をお求めですか?」
「竪琴を、19弦か22弦の膝にのせられるものを探しています。」
「それでしたらこちらですね、吟遊詩人ギルドには加入していますか?」
「いえ、私は冒険者なので...」
「掛け持ちも出来ますよ。いかがでしょうか?楽譜もお付けしますよ?」
「では加入します。あまり活動はできないのですが、大丈夫ですか?」
「ええ、吟遊詩人は基本的に身軽な人がなることが多いので加入していただけるだけでもいいんです。最近は志す人も減ってしまって...」
吟遊詩人ギルドのルールは
・ギルドに迷惑かけない
・ギルドを介して仕事が出来る
・介さなくても仕事はしていいがその場合責任は負えない
・音楽を楽しむ
くらいなもので加入には銀貨一枚が必要だった。竪琴は3オクターブのものを大銀貨五枚で買った。そしてこの世界のメジャーな民謡や唄の楽譜をいくつかもらった。
「貴方、もしかして覇王様ですよね?」
「ん?あぁ、なぜか私はそう呼ばれているね」
「やっぱりでしたか。貴方のような有名な方が吟遊詩人ギルドに入ってくださるのは喜ばしいことです。あ、あとできればサイン頂けますか?」
「え、えぇ構わないよ。」
『命』と紙に書いてギルドをでる。
「すごい情報伝達速度だ...まだ少ししか経ってないのに皆知っているなんてなぁ...」
とぼやきながら昼食を出店で買い、食べつつ城近くの公園まで来て噴水の近くに腰を下ろす。
「アイテムボックス何てあればいいんだけどなぁ...今度伽凛さんに聞いてみようかな。」
そうぼやきながらチューニングをして竪琴を爪弾く、きらきら星から始まりカノン、子犬のワルツ、エリーゼのためにと弾いていくうちにだんだんとうまく弾けるようになってきた。やったことがあるのはあるが、どうやらこの体は物覚えが物凄くいいらしい。すらすらと指が動く。だんだんと楽しくなり鼻唄混じりにこの世界の唄を弾く。敵対している貴族の子息と令嬢の悲しい恋の唄、魔物に育てられた英雄の民を守るために魔物を殺さなければならない葛藤を描いた英雄譚、古龍と戦った勇者の冒険譚。竪琴を爪弾くたびに心が踊る。気づけば私は歌っていた。
最後の曲はスカボロフェア。私の前の世界で大好きだった曲だ。弾き終わったあとに目を開けると周りに人だかりが出来ておりこの公園に入りきらんばかりの人が集まっていた。そして溢れんばかりの拍手が起きた。
何事かと思い周りの人に聞いてみると。公園で今噂の英雄がハープを弾いているのを住人が見て、興味をそそられた人たちが集まりこの騒ぎになったという。
気恥ずかしくなった私は竪琴を持ちその場で飛翔し城に帰る。飛び上がった時にも歓声が響いて驚いてしまった。だがそれを上回るほどに嬉しさも込み上げてきて、口角が上がってしまう。
ニマニマしているのをメイドさんに微笑ましく見られているとも知らずにその日は終始ご機嫌で過ごした。
その後も公園で歌うようになり、3日目にはほかの吟遊詩人がまざり共に演奏し、4日目には街ののど自慢が参加し、5日目からは公園で住人たちが踊りながら歌うようになり軽いお祭りのようなものになってしまった。
その日から吟遊詩人ギルドに楽譜を買いにいくとたくさんの人で賑わっておりギルドの人たちも嬉しい悲鳴をあげていた。
後年、召喚された勇者が魔物を一掃した記念の祭りとしてこの小さな音楽祭が街をあげてのイベントとなるのを私は知らない。
街で歌うようになってから一週間、アレックスが率いる軍が到着したと城から使者が来たので城へと戻る。もう少し歌っていたかった...
ありがとうございました