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THE RED MOON  作者: 紅い布
9/26

宛先:読者様 件名:人間のなれの果て

◆◆ PM 18:57 ◆◆


新鮮な血肉を求めて行進してきたゾンビ共には目もくれず、ご丁寧にも警察署への道を綺麗に寸断してくれたタンクローリーから離れて十数分が経過した頃――


「……ねぇ、お兄ちゃん」

「なんだい?我が妹よ」

「……どうしてこんなことになっちゃったのかな?」

「……こんなことっていうのは、この惨状の原因が知りたいって意味か?」

「ううん……そうじゃなくて。昨日までは、何の変哲も無い日常を送っていたハズなのに……。どうして?なんで、今、私達は必死に逃げてるの……?」

「……」


どうしてこんなことになったのかと聞かれても、ただ巻き込まれただけでしかない晋に綾乃が満足するような答えを返せるはずもない。

晋は「さぁね」とごく短い返答だけを返し、あとは無言でバイクを運転した。

そんな兄の態度に満足するでもなく不満を言うでもなく、綾乃はただ独り言のようにぼんやりと疑問を口にする。


「街の人たちはなんであんな姿になっちゃったのかな……」

「――どうしてだと思う?」

「……え?」


兄から回答が返ってくるとは思ってなかった綾乃は思わず聞き返した。


「何が原因でこの街がこんな姿になってしまったのか。綾乃はどう考える?」

「原因……」

「全身を腐食させた”元”人間達の凶行。人が人を喰い殺す惨劇。発端となった事件が発表されたときは、街はまだ平和そのものだったハズだ」

「発端となった事件って……四日前に起こった最初の殺人事件のこと?」

「それ以外に考えつくか?――とは言っても、確定ってワケじゃないケド」


――最初の殺人事件って、四日前にあったんだ。知らなかったよ。

なんてことは口が裂けても言えない。

晋は内心でそんなことを思いながら、話を続ける。


「その事件が世間に広まるにつれて、こんな噂が出てきた。曰く『喰い殺された人間が蘇って、生きている人間を襲う』と」


感のいい綾乃は、何かを察したように目を丸くした。


「もしかして、それはただの噂じゃなくて……?」

「まぁ、結論付けるのはいささか早いケド。あながち間違ってはいないだろうさ。事実、俺達が目にしてきた”街の住民の皆さん”は、どいつもこいつも生きていられるハズがないほどの重傷を負い、尚且つ全身が腐食していた。まさしくゾンビだな」

「それじゃあ……たったの四日で街がこんなになった原因って……」

「ゾンビ共に喰われた人間がゾンビとなって復活し、他の生きている人間を襲う。これが雪だるま式に増えた結果――と考えるのが利口かね」

「そんな……」


――そうでなければ、こんなに短時間で街一つが壊滅するなんて考えられない。


「なら――」

「ん?」

「街がこうなってしまったことはひとまず置いといて、この惨事の発端になった――最初に事件を起こした人がおかしくしちゃったのはどうして?」

「う〜ん……現実的に物事を考えるなら、なんかの病原菌――ウィルスの感染による被害って線が濃厚だろうな。例えば、空気感染、水系感染、接触感染とか」

「仮にそうだとしても、人がこんなになっちゃうウィルスなんて聞いたことないよ……」

「俺だってそんなの聞いたことないさ。まぁ、少なくとも今言えることは……」


晋はそこらをうろついているゾンビ達を一瞥しながら言った。


「あいつらに傷を負わされたら、その時は覚悟しなくちゃいけないってことだ」


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