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THE RED MOON  作者: 紅い布
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6/26

宛先:読者様 件名:脱出劇の始まりです

◆◆ PM 18:13 ◆◆


綾乃が精神的なショックから立ち直ったのを確認し、晋は脱出のタイミングを図る。


「俺のバイクまで一気に走るぞ。準備はいいか?」

「う……うん。大丈夫」

「よし。行く――『ちょっと待てよ!!』んぁ?」


いざ店から出ようとした晋と綾乃の前に、晋と同い年と思われる青年の従業員が立ちはだかった。


「……渡部さん?」


綾乃に渡部(わたべ)と呼ばれた青年は、声を荒げて言った。


「わざわざ自分達からあの化け物どもに突っ込むってのか!?正気じゃない!!それよりもここに立て篭もっていれば、いずれ助けがくるって!」

「そ、そうよ!きっとそう!!」

「下手に動くより絶対に安全だ!」


他の従業員も挙って渡部に同意する――が、


「助けは来な――」

「来ないと思います」


晋の言葉を遮り、綾乃は強く言い返した。


「おぉっ!さすがは我が妹。して、その根拠は?」


強気になった妹に少々驚きながらも、晋は妹に続きを促す。


「はい。ここまで大規模かつ異常な騒動が起こっているにも関らず、先ほどからパトカーのサイレンが全く聞こえません。このことから考えて、周囲には通報する人がいないのか、もしくは通報しても警察が駆けつけてくれないかのどちらかと考えていいでしょう。それに、もしこの騒ぎが街単位で起こっているのだとしたら、もはや警察では対処のしようがないと思います。しばらくすれば、自衛隊が出張ってくるかもしれませんが……」


綾乃は最後まで言うことはしなかったが、その意図は全員が理解した。


だが、それでも納得いかないのか渡部はしつこく食い下がる。


「そんなことわからないだろっ!?もしかしたら、1時間後か2時間後にでも助けにきてくれるかもしれないじゃないか!!」


完全に冷静さを失った渡部の様子に、晋は軽く肩をすくめた。


「だったら、アンタはここに残って助けを待てばいいさ。でも、俺達はここでお別れさせてもらうよ」


そう突き放すように冷たく言い放つと、ゾンビとの格闘に備えて軽い準備運動を始めた。


――あんな腐臭撒き散らすグロい化け物などには近づきたくもないが、綾乃を連れて逃げる以上、そうもいかないだろうなぁ。


トチ狂った従業員を視野から追い出し、そんなことを考えていた矢先――


「こ、この状況で自分達だけ逃げるつもりかよっ!!卑怯者が!」


――ピキリ。


渡部のこの言葉に、場の空気が凍った。


晋は目にも止まらぬ速さで渡部の胸倉を掴み、強引に自分の下へ引き寄せる。


「……勘違いするなよ。俺はそもそも妹を助けにきただけだ。あんたらがどうなろうと知ったことじゃない。自分の力で立ち向かおうともしない奴が偉そうに囀るな。何もできないチキンは黙ってずっと震えてろ」

「う……」


怒気を孕み、殺気すらも込められた晋の言葉に、渡部は喉を引きつらせて黙り込んだ。

他の従業員も、晋の迫力に圧倒され、何も言い返すことができないでいる。

――ただ一人を除いて。


「お兄ちゃん……言い過ぎ……」

「むぅ……」


綾乃は、渡部の胸倉を掴んで放さない兄の左腕にそっと手を置いて、言った。

妹に窘められた晋は軽く唸るが、深く溜め息を吐くと、引き寄せていた渡部を開放し、何も言わなくなった。


渡部はバツが悪そうに視線を逸らす。


「行こ。お兄ちゃん」


綾乃は不貞腐れる兄の手を握って店の出入り口に向かい、その手前で振り返った。


「皆さん、今までお世話になりました。私達はここから逃げます――私達が出たら、扉の鍵をすぐに閉めてください」


最後に、バイト中に一番世話になった柏木に尋ねた。


「柏木さん、私達と一緒に逃げませんか?」

「………………」

「そう……ですか……」


無言のまま視線を逸らす柏木に、綾乃は悲しそうな視線を送る。


「それでは、さようなら。願わくば――みんな生きて会えますように」


そして、それだけを言い残し、後はもう振り返らなかった。


「今度こそ出るぞ。準備はいいな?」

「大丈夫。お兄ちゃんと一緒なら」

「よしよし、いい子いい子。――今だ!行くぞ!!」


扉をぶち破るような勢いで飛び出していく二人を見届けた男性従業員は、すぐに扉を閉めて鍵をかけた。


柏木は、なんともいえない表情で晋と綾乃が出て行った扉をじっと見つめ続けた。


後に、この店に残った従業員全員がこの篭城策を後悔することになる。

それは自ら戦おうとしたかったことの報いなのか、それとも――。


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