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THE RED MOON  作者: 紅い布
3/26

宛先:読者様 件名:少し静か過ぎる夜ですね

◆◆ PM 17:45 ◆◆


ここは、焼肉のチェーン店。

時刻は夕方を過ぎ、しばらくは休日が続くということで、羽目を外した客達が肉塗れの夕食にありつこうと店内は大いに繁盛している……ハズなのだが。


「暇ですねー」

「暇だね」


店の中は見事なまでに閑古鳥が鳴いていた。


白のワイシャツに黒のスカート、同じく黒のエプロンといった素っ気無い制服に身を包んだ女性二人組みが、カウンターに頬杖をつかんばかりにだらけている。

あ、いや……今同時に頬杖をついた。

勤務時間中にあるにも関わらず、堂々と頬杖をついた犯人はベテラン従業員である柏木とこの店で働いて約2年になる綾乃である。

二人はシフトでよく組んでいる他、悩み事に関してお互いに相談を持ちかけたりとプライベートでもかなり仲がいい。


「ホントに何もすることがないっていうのも、なかなか辛いですね……」


綾乃は背中まで伸びたストレートの髪を軽く払いながら、嘆息した。


他の店員も窓を拭いたり、皿を磨いたりしているが、それも今日に限っては幾度と無く徹底的に完遂してしまったのであまり意味はない。

あまりのやる事無さに辟易しながら、綾乃は珍しく溜息を吐いた。


「なんで今日に限ってお客さん誰も来ないんでしょう?」

「さぁねぇ。連日の猟奇殺人に脅えて、みんな引き篭もってるんじゃない?」


いつもなら綾乃のシフト時間を狙って必ず何組かの客が来店するのだが、今日に限っては誰一人として店に来ない。

柏木が頬杖を崩しカウンターに突っ伏してしまうのを横目で見ながら、綾乃は何ともいえぬ不安を抱えていた。


「もうそろそろ兄が店まで迎えにきてくれるハズなんですけど、この様子を見たら悪い印象持っちゃうかも……そんなのヤダな……」

「いや、悪い印象も何もないでしょう?事実、客が来ないんだし。少しでも良い印象持たせたいなら、お兄さんと一緒にこの店で食事するべき……あぁ〜……ダメかぁ。バカ(男性従業員&店長)共が大人しく職務を遂行するとは思えないわね。貴方と一緒に食事なんてしてたら、何かしらの嫌がらせするに決まってるわ」


そう呟きながら嘆息する菅原に対し、綾乃は苦笑しながら否定した。


「いえ……お店の事じゃなくて、この街に対してです。こっちに来るときもほとんど人を見かけなかったし。まるでこの街が死んでしまったみたいで、少し不気味で……」

「ちょっと、怖いこと言わないでよ〜」


闇に包まれた店の外を見つめながら呟く綾乃の言葉に、柏木は微かに背筋を震わせた。


「そういや綾乃知ってる?最近出回ってる猟奇殺人についての噂」

「え?何ですか?それ」

「この事件って人が人を食い殺すってやつじゃん?実はね、これにはえげつない噂があってさ」


柏木は自分の話にこの店の全員が聞き耳をたてていることを確認すると、満足気に話を続けた。


「なんでも……食い殺された犠牲者が数時間後に生き返って、他の生きている人間を襲ってるんだって!」

「……」

「そいつらって身体中が腐ってるらしいんだけど、生命力が異常なくらいあるんだって。そんでもって、その化け物に掠り傷でも負わされたが最後――数時間後には傷を負わされた人間も”そいつら”の仲間入り!ってワケ」


柏木は「イヤーン!こわ〜い」などとおどけているが、綾乃はなぜか”ただの噂”と割り切ることができなかった。


「その噂って本当ですか?」

「やぁねぇ、そんなワケないでしょう?噂ってのは根も葉もないから噂なのよ」


脅える様子を見せる綾乃に柏木は励ますように言った。

二人の話を盗み聞いていた他の従業員も、『可愛いなぁ』といった感じで笑っている。


だが――


「でも……もし、その噂が本当だとしたら」


この店にいる人間はまだ知らない――


「お客さんが来ない理由も、不気味なくらいこの辺り一帯が静かな理由も説明できますね」


――パリン!


「「――キャアッ!?」」

『あっ、すいません!』


皿を磨いていた男性従業員が誤って皿を落として割ってしまったらしい。

思わず悲鳴をあげてしまった二人はしばらく硬直した後、顔を見合わせて笑いあった。


そこへ、エンジンの重い駆動音が聞こえてくる。


「あっ!もしかして今日初めてのお客さんかな?」


柏木が嬉しそうに言った。

綾乃の台詞が尾を引いていたのだろう。


そうこうしているうちに誰かが店まで駆けてくる音が聞こえてきた。

だが、バイクのエンジンを切っていないのが気になる。


そして、乱暴に開け放たれた扉から姿を現したのは――


「お兄ちゃんっ!」

「綾乃か!?」

「えっ!?この人が綾乃のお兄さん?凄いイイ男じゃん!!」


さきほどガソリンスタンドを慌てて飛び出した青年だった。


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