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THE RED MOON  作者: 紅い布
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番外編その2−5

その後、仮設キャンプ内で2時間ほど待ったあと、ようやく到着した輸送ヘリに乗って理恵さんはこの街から脱出しました。


ヘリが基地に着いた当初は、「飛鳥と一緒にいる!」と言って子供のように駄々をこねた彼女でしたが、僕の本当の住処であるアパートの住所を記した紙と合鍵(常に2つ携帯している鍵の予備の方)を渡すと、渋々ながらも素直にヘリに乗ってくれたので良しとします。


――というのが、20分前の話。


そして今、僕は市役所に向かっているところです。


自衛隊が所有しているオフロードタイプの二輪車を拝借できたおかげで、比較的スムーズな帰還が叶いそうなのですが、ここで問題が一つ。

僕がいない間に市役所周辺一帯が戦場と化していたことです。

周りには幾重ものバリケードが厳重に積み重ねられており、行きにはあった僅かなスペースも、今では完全に埋められています。


僕は感染者の群れから100mほど後ろに離れたところで、どうやってここを攻略しようか考えることにしました。


感染者は主に音と匂いに惹かれるらしいので、市役所に密集してドンパチやっている自衛隊員らに夢中な彼らが、僕の存在に気付くことはありません。


ホント、彼らの知能が退化していてよかったと思います。


「さて、どうやって帰りましょうか……」


思わず独りごちてしまいましたが、状況が変わるワケもなく。

何かスロープのようなものでもあればいいのですが、そこは現実、映画のように都合のいい展開になどなってくれません。

周り道しようにも、僕がいるこの場所はだだっ広い二車線道路が1本まっすぐ通ってるだけで、脇道など一切見当たらず、仮にここから引き返して道を探すとしても、大幅なタイムロスになってしまいます。

まぁ、たとえ大幅なタイムロスになろうが、身の危険を鑑みれば、引き返して別の道を探すという選択肢が妥当なのでしょうが……。

先ほどからうるさく身を震わせている携帯電話の様子からして、そういうワケにもいかないようです。

ならば、特に頭がキレるワケでもない僕に残された道は唯一つ。


「バリケードまでの強行突破……」


市役所まで続く二車線道路を覆うように取り囲んでいる感染者の群れと、彼らに対して放射状に火線を展開している自衛隊&スペシャルでアサルトな警官隊。

感染者の脅威と味方からの銃撃の脅威というなんともリッチなこの状況、泣きたくなります。

まぁ、どちらかというと感染者より、味方からの流れ弾やら誤射やらのほうが心配なのですけど。

願わくば、感染者に埋もれる僕の姿を確認できた隊員らが、一瞬でも射撃を躊躇してくれますように。


僕は軍用バイクのシフトペダルを踏みつけ、ギアをニュートラルからローに切り替えます。


ガコン!とギアの心地よい響きを確認した僕は、一度だけ大きくアクセルを回すと、目標に目掛けて一気に突っ込みました。

一度走り出したからには迷いは無用。

猛スピードで走っているというのに、感染者の群れの隙間を縫う……なんて小賢しい真似などできるハズないのですから。

僕はギアをセカンドまで上げて放置すると、右手でアクセルを吹かしながら、左手でホルスターからグロック18Cを抜き、進路上で邪魔になると思われる感染者に向けて発砲します。

狙いは斃すことではなく、銃弾のマンストッピングパワーで怯ませること。

勿論、連射などするワケがありません。

進路を塞いでいる感染者の胴体に向けて、確実に銃弾を撃ち込んでいきます。

僕の想定通り、銃弾を受けた反動で仰向けに怯む感染者達は、素直に道を譲ってくれました。


そう、ここまでは順調なのです。


問題は……。


――チュインッ!


と、音速で飛来してくる鉛玉。


反応がとてつもなく鈍いことに定評がある感染者が僕の接近に気付く頃には、僕は既にそいつを通り過ぎているあとなので、突っ切ること自体は楽なのですが、僕の頭や腕を掠めるように飛んでくる銃弾だけはどうしようもありません。


まさしく運頼み。


感染者の皆さん、僕の為に肉盾になってください。とお願いしつつ、できる限りのスピードで道路を一直線に走り抜けました。


結果――


なんとか感染者の群れの中を突っ切ることができた僕は、後輪を滑らせながら市役所の敷地内に進路を変更し、偶然そこに居合わせた哀れな感染者を一人ほど轢き倒しつつ、軍用バイクをバリケードへと突っ込ませます。

そのままスピードを上げつつ、前輪がバリケードと接触する寸前で、一気にスロットルグリップを回しました。

後輪に暴力的な力が加わった結果、前輪は大きく持ち上がり、空を見上げた状態へ。

所謂ウィリー走行になった瞬間、僕は左足をシートに、右足をハンドルの上に乗せ、右手をグリップから離します。

そして、車体がバリケードと激突する前に、右足に力を込め、一息に跳躍しました。

後ろでバイクが轟音をたてて粉砕する中、空中で一回転して体勢を立て直しつつ、地面に着地。

慣性の法則で転がる身体を乱暴に両手で静止させます。


「はぁぁ……なんとか……生き延びれたようですね……」


人類史上初のヘイロー降下を実現した某大きなボス様ばりの着地態勢のまま、深いため息をひとつ。

銃弾の雨を掻い潜りながらの帰還はかなりスリルがありました。

できるならもう二度と味わいたくありません。


「あはは……どうも」


驚愕の眼差しでこちらを見つめ続ける隊員さん達に軽く愛想笑いを済ませると、作戦本部で待機しているであろう菅原一佐のところへ向かいます。


―― "任務"はとっくに終わっていますが、僕の"仕事"はまだ終わってはいないのですから。


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