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THE RED MOON  作者: 紅い布
22/26

番外編その2−1

モニターの前の皆さん、初めまして……いや、お久しぶりというべきでしょうか。僕の名前は金城(かねしろ)飛鳥(あすか)と言います。

現在、ピチピチの高校2年生です。両親はいません。とある高級マンションに二人暮らしです……というのは表の話で、僕の本当の正体は国に雇われたエージェント……というところでしょうか。

その僕が今何をしているのかというと……あーくそ!自分の家の中だからって義妹とイチャつきやがって……とと、失礼しました。

改めて、今何をしているのかというと、とある事件を自力で生き残った青年の監視をしています。この青年が僕の見立てではなかなか見所のある人でして。

とまぁ、この話は置いといて。さて、今回の番外編その2では、僕が"あの時"、どの場所で、何をしていたのかを赤裸々に告白するというものです。

あまり面白い話ではないと思いますが、よろしければどうぞお付き合いください。

ではでは――。


僕はそれまでとある市立高校の2年生でした。

転校したばかりでしたが、地方の学校には珍しく虐めもなければ不良もいない、とても平和で穏やかな学校の一生徒です。

任務の都合で仕方なく居座っただけでしたが、僕個人としては、今思えばとても気に入っていた学校です。友達と呼んでも差支えない人間も数人いましたし、何より初めて"任務上"での私生活を満喫できた場所でした。

しかし、僕の任務上での私生活はこの学校に転校してから4か月で終わりを見るハメになりました。

そもそも、何故僕がこの学校に転校してきたのかといいますと、それはとある製薬会社の監視をするためです。

僕が通う高校の西方1km先に、とある製薬会社の支社があります。その支社の社員から、とある密書が送られてきたのが全ての始まりです。

曰く――自分が勤める会社で、生物兵器の開発を手伝わされている。助けて欲しい――というような内容でした。

組織内でも、全世界各地に存在するこの会社の支社が非合法の兵器開発に着手しているという情報は入手していましたし、いい機会だということで僕が派遣されたという次第です。

そして、少しずつ製薬会社の取引先を洗いながら、その密書を送ってきた人物と内密に情報をやり取りし、決定的な証拠を得られるまであと少し……というところで――


問題の生物兵器に関連するウィルスの漏洩事故が起こってしまったのです。


支社の責任者は自殺。社員も何とかウィルスの漏洩を防ごうと奮戦したようですが、結局は自身もウィルスに犯されて怪物化。

そして、ウィルスは社内だけに留まらず、工業排水や廃棄物に混じって拡散。未曽有のバイオハザードへ発展しました。

何とか例の密告者だけは保護し、いざというときの仮対策本部候補だった市役所内への誘導に成功、そこでウィルス特効薬の開発に尽力してもらっていました。

その特効薬の決め手となったのは、ウィルスに対する抗体を持つ人物の血液。それは僕の血を提供することで解決をみたのですが……。

そこで本部からの命令が届いたのです。

【優秀な"国家公務員"候補を選定するために、このバイオハザードを利用せよ】と。

これが何を意味するのか要約すれば、市民への特効薬投与の自粛、市民の逃亡幇助の自粛。

つまり、バイオハザードの中を自力で生き残り、かつウィルスに対する抗体を持つ人物を見つけ出せ、と本部は命令してきたということです。

僕個人の意見を述べれば、それは非人道的極まりない方法だと思います。

しかし、一エージェントの僕が本部の命令を無視できるワケもなく……。

結局、こちらが人道的な対処を実施しても到底間に合わないような速度でウィルスは市内へ浸透していきました……まぁ、言い訳ですが。

地元警察組織が動き始めた頃には既に事態の収拾は深刻を極め、予めこの事態を予測していた本部では自衛隊による対生物災害専用のチームが編成された次第で。

改めて僕に下された任務といえば、製薬会社に残されたデータの回収でした。


◆◆ PM 18:11 ◆◆


「……ほとんどのデータは消去済みですか」


デスクトップのパソコンからフラッシュメモリを抜き取り、懐に仕舞いました。

僕の横には右手に所持した拳銃で自分のこめかみを撃ち抜いたらしい責任者が、椅子に座ったまま事切れています。

死体の傍で黙々と作業するというのもあまり気分がいいものではありません。


「さて……そろそろお暇しましょうか――ん?」


やるべきことも済んだので、さっさとこの陰気臭い場から立ち去ろうと思ったのですが、ふとパソコンのデスクトップに気になるアイコンが。


――My secret collection


なんですかねぇ、コレ?


気になったので、とりあえずダブルクリックしてみました。

すると、どうでしょう!部屋の隅にあった本棚が横にズレて、隠し部屋が現れたではありませんか!

……とりあえず、行ってみましょうか。


懐のホルスターからG18Cをそっと抜き、警戒しながら隠し部屋に近づきます。

まぁ、特に気配などは感じませんが念のためです。

この支社にお邪魔してからというもの、感染者に成り果てた社員の他に、何やら実験中だったらしい生体兵器が我が物顔で闊歩していて、始末するのに骨が折れました。


罠らしいものも発見できず、警戒の必要はなしと判断した僕は遠慮なく隠し部屋に入ってみました。

するとそこにあったのは――


「世界一ガンコントロールが厳格な日本にいながら、よくもまぁこれだけの物を……」


リボルバーからオートマチックハンドガン、ボルトアクション&セミオートライフルにアサルトライフル、サブマシンガンとまさしく選り取り見取りの銃器達。

その中でも特に目を引いたのは、


「うーん……オリジナルデザイン……かな?」


デザイン自体はシンプルだけど、バレルが無骨で厳つい10インチの大型リボルバー。装填されてる弾丸は.454カスール。

ふむ……いい銃です。手持ちのグロックじゃ色々とキツかったところですし、せっかくなので頂いていくことにしましょう。

ホルスターはっと……ありましたありました。


「さすがにこれだけの銃器をここに放置していくのは勿体ないですね……」


腰の右後ろ辺りにホルスターを括り付けた僕は、ブレザーの内ポケットから携帯電話を取り出しました。

今はもう付近の電波塔はシャットアウトされていて、普通の携帯では通信できませんが、僕の携帯電話は特別仕様なので問題ありません。


「あ、もしもし?金城です。はい、菅原一佐をお願いします」


自衛隊の菅原陸等一佐にここにある銃器を回収した後、各々で利用するように連絡しました。これでよし。


「さてと……どうしましょうかね?」


本部から下された任務は終了。あとは自衛隊のお手伝いをしてポイントを稼ぐなり、自力で脱出するなり自由なのですが……。

そうですね、仮にも4か月もの間、この"僕"に一高校生としての青春を謳歌させてくれた街です。

望みは薄いですが……もしかしたら友達も生き残っているかも知れませんし、ここは一つ個人的に恩返しでもしましょうか。


「まずは市役所に戻って、放送の一つでも流しますかね」


その後は、個人的に付き合いのあった友達の家でも廻っていくことにしましょう。


◆◆ PM 19:41 ◆◆


うーん……淡々と喋るつもりだったのですが、予想以上に感情的になってしまいました。僕もまだまだ未熟ですね。まぁ、この放送で少しでも多くの人が市役所に辿り着いてくれればいいのですが。感染者はご遠慮願いたいですけど。


さて、放送も終わった、弾薬の補充も終わった、グロック(通常マガジン2つ)よーし、大型リボルバー(カートリッジ3つ)よーし、ベネリM3ショーティー(予備弾装6発)よーし、ウィルス特効薬よーし。


「さ、いきますか!」

「どこに行くんだ?」


いきなり出鼻を挫くようにして僕の前に現れたのは、菅原一佐でした。


「さっきは我々を手伝うと聞いたが……言葉を違えるつもりか」

「そんなつもりはありませんよ。ちょっと野暮用を片づけてきます」

「野暮用とは?こんな廃墟になってしまった街で、今更そんなものがあるとは思えないが」

「もしかしたら生き残ってる友達がいるかもしれないので、適当に探してくるだけですよ」

「……それは本部からの命令を無視することになるのでは?」

「だったら、力づくで僕を止めますか?」


菅原一佐が腰のホルスターに手を伸ばしたので、僕は懐に隠してあるナイフに手を伸ばします。

その気になれば、菅原一佐が既に拳銃を構えていたとしても、彼より先にナイフで斬り付けるくらいはできますので。


「……まぁ、いいだろう」


しかし、菅原一佐は結局ホルスターに仕舞ってある拳銃には手を触れず、胸ポケットに忍ばせていた煙草を取り出すだけでした。


「……市役所に放置されてる原チャリ、一台借りますね」


少々拍子抜けしながらも、そう言って背中を向けた僕に、菅原さんは、


「君もやはり人間だな。気をつけて行きたまえ」


どこか穏やかな声でそう言ってくれました。


その声に応えることはせずに、自動ドアを抜けて外に出ます。

肌に纏わりつくような温い風が舐めるように僕の身体を撫でていきました。不快です。


「これがいいかな」


燃料もほぼ満タン。状態も良好そうな一台の原チャリを見つけ、跨ります。

ここを開けて、あれをこうやって以下中略でエンジンが掛かりました。


「…………生きてる友達、いますかねぇ」


友達が生きてる望みは限りなく薄いです。

僕がこれから行おうとしているのは、ただの自己満足に過ぎません。

それでも僕は一通り友達の家と街を廻ります。

無事に友達と出会えれば良し、出会えなくてもそれで良し。

生きていたら救います。手遅れのようでしたら殺します。死んでいれば放置します。

それが、今の僕にできることです。


「……願わくば、一人でも多くの友達が生き残っていますように」


僕が一人乗りの原チャリをチョイスしている時点で、諦めているようなものですが。


それでも、願うだけなら体力も労力もお金も弾薬も無料ですし……ね。

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