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THE RED MOON  作者: 紅い布
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宛先:--- 件名:---

◆◆ PM 03:11 ◆◆


夜空に消えていく輸送ヘリを、晋はその姿が消えるまでずっと見送った。


さきほどの騒ぎの一部始終をみていた自衛隊の面々と警察官達は、敬意を込めて晋の肩を叩いていく。


南に築かれたバリケードでは押し寄せてきた感染者との戦闘が勃発しているので、そうのんびりと感慨に耽っている暇はないのだが。


『こっちにミニミ持ってこい!』

『キャリバー寄越せッ!!このままじゃ押し切られるぞ!!』

『固まってるところにグレネードをぶっ放せッ!!』


飛び交う怒号に、飛び散る薬莢。

絶え間なく響く銃声と爆音。


できればこのままバイクで逃げたいところだが、主要な出入り口には既に感染者が押し寄せてきており、脱出はほぼ不可能らしい。


生き残るためには、この市役所に築かれた陣地を死守する他に方法はないのだ。


晋は溜め息を吐きながらも、自らのやるべきことを一つ一つ確認していく。


一つ――なんとかこの場を凌ぐこと。

一つ――なんとかこの場を脱出すること。

一つ――なんとか生きて綾乃にもう一度会うこと。


――確認終わり!


「さて、ひとつ気合い入れて臨みますか!」


アタッシュケースからG36Cを取り出すと、少し戦況が苦しめと思われる箇所に走っていった。


立て続けにショットガンを撃っているアサルトでスペシャルな警官の隣に立ち、晋はアサルトライフルを構える。


ロックを外して弾丸を装填。

とりあえず、ライフルの反動を知るためにセミオートに設定。

サイトを覗き、感染者の頭部に狙いをつけて――トリガーを引いた。


――バシュッ!


ターゲットの頭から上半分が吹き飛んだ。

頭を失った感染者はそのままよろよろと数歩歩き、崩れ落ちる。

それを見ていた警官達が、晋の腕に感嘆の声をあげた。


「やるじゃないか。銃を撃った経験でもあるのかい?」

「拳銃なら一度だけありますが、ライフルは初めてです」

「ほう。こっちも負けてられないな」


警官達も負けじとショットガンを連射して、感染者を撃ち抜いていった。

晋は、数発セミオートで感染者の頭部を撃ちぬいたあと、設定をフルオートにチェンジして、トリガーを引いた。


次々と撃ち出されていく弾丸が、的確に感染者を仕留めていく。


――カチン


マガジン内の弾薬が全て尽きたアサルトライフルが沈黙した。

晋は空になったマガジンを捨て、素早く新しいマガジンをセットする。


その一連の動作を目撃した自衛官とスペシャルでアサルトな警官は、口を揃えて言った。


「「君、才能あるよ」」


晋はその言葉に苦笑いで返し、銃口を感染者達に向けた。


自衛隊と警察に混じって戦う、たった一人の民間人。

滑稽だが、なぜか違和感がないその光景は、晋の銃を扱うセンスによるものなのか――それとも、妹と生きて再び会うという執念のためか……。


――それからしばらく戦闘が続いて。


「G36専用のマガジンはどこだ!?」


晋は押収されたという武器を補完してある輸送車の中にいた。

弾薬を求め、辺りを物色する。

さっさと他のライフル担いで出て行けばいいものを、晋はG36に愛着を持ってしまったため、半ば意地になって探していた。


「む、とりあえずSPAS12貰っていくかな」


スリングを肩に回し、ショットガンを背負った。


「ハッ!?そうじゃなくてマガジンマガジン!!」


――ガサゴソガサゴソ……


「お、あったあった!」


マガジンポーチに新しいマガジンを詰め込み、余った弾薬を見つけやすい場所に置いておく。

そこで、ふと視界の端にドラムマガジンを発見した。


「なんだこれ?G36用のドラムマガジンか?」


中身には弾丸がたっぷり詰まっているらしく、ズッシリと重い。


早速装填してみる。


「おぉっ!ビンゴだ!」


――それにしても、これだけの物を一体どこから押収したのか……。


「気にしても仕方ないか」


思考を放棄した晋は、弾薬とショットガンを携えて輸送車を飛び出す。

そこで――


――ドン!


「うわっ!?」

「おっと!」


晋は影から飛び出してきた少年とぶつかってしまった。


高校生の制服と思われる者を着ている少年は、コロンと道端に転がる。


「あ、ゴメン。大丈夫か?」

「はい……なんとか……」

「ん?その声ひょっとして……スピーカーでここに集まるよう叫んでた子かな?」


転んだままの少年に手を差し出し、そのまま起こした。


「あ、聞いててくれてたんですか?」

「うん。そのおかげで助かったんだ。もうここにはいないけど、妹共々礼を言わせてもらうよ。ありがとう」

「どういたしまして。その……妹さんはどうなさったんです?」

「輸送ヘリに乗せて逃がしたよ。……思いっきり泣かれたケドね」


少年は話を聞きながらも、輸送車の中から銃器を物色し始めた。


「そうなんですか……。でも、よかったですね」

「?」

「妹さんの安全が保障されてよかったじゃないですか」

「……そうだな。てか、さっきまで君の姿みなかったけど、今までどこに?」

「ちょっとやることがありまして。街を原チャリで周ってました」


ここで晋が瞳を細めた。


「ふーん……よく無事だったね」

「自分でも運がいいと思います」

「ま、お互い生きて街から出られるように頑張ろうぜ。……もう家には帰れそうもないけど」


そう言って背中を向けて走り去った晋の後ろ姿を、少年はじっと見つめ続けた。


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