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THE RED MOON  作者: 紅い布
14/26

宛先:読者様 件名:主人公は武器を入手した!

◆◆ PM 20:40 ◆◆


前を歩く上級士官――菅原の背中をみつめながら、ただ黙って晋は歩く。


どこに向かっているのかはわからないが、騒ぎを起こしてしまった責任を感じているため、特に強く問いただすこともできない。


――まぁ、後悔も反省もまったくしてないケド。


あの場で引き下がっていたら、今頃、新井の命はなかっただろう。

そうなれば、綾乃を助けることもできなくなっていた。

それだけは、何があっても回避しなくてはならない。


晋はそんなことを考えながら、今の状況を整理した。


とりあえず、菅原は少なくとも自分を拘束するつもりはないらしい。

もし、そうするつもりならば、わざわざ「ついてきなさい」などと言ったりせず、あの場で部下に制圧を命じていただろう。

となれば、個人的に何か問いただすつもりなのだろうか。


すると、今まで黙っていた菅原が唐突に口を開いた。


「君、先ほどの民間人をどうするつもりだったんだ?」


――いきなり直球だな。


「適当に痛めつけて追い返すつもりでした」


晋は少し迷ったが、とりあえず無難にそう答えた。

バカ正直に「皆殺しにするつもりだった」と答えて、自らの印象を悪くする必要もない。

これが原因で拘束されたら堪らない。


「そうか。私はてっきり、皆殺しにするつもりだとばかり思っていたのだが」


だが、晋の考慮を無視するように堂々とそう言い放つ菅原。

晋は内心で舌打ちした。


――こいつ……。


「……嫌だなぁ。そんなことしませんよ。俺はそんな人でなしになるつもりは毛頭ありません」

「愛する妹のためならばその覚悟も辞さない、といった感じに見受けたんだがね」

「……何が言いたいんですか?」


晋の瞳が周囲の冷気を取り込んでいく。

その眼差しには、先ほどまでの年上に対する敬いなど消失し、氷のような敵意だけが存在した。


「別に大したことじゃない。ただ、妹のために君がそこまで汚れる必要はあるのか?と問いたいのだ」


晋の殺気を感じていないわけがないのだが、菅原は特に臆した様子もなく淡々と言い放った。


「妹のために汚れようなんて意思はないですよ。ただ、周りの環境がそれを強要してくるだけで」

「違うな。君は、妹のために自分が汚れることを受け入れている。それは、自ら率先して汚れようとしていることに他ならない」

「……」


言い返す言葉がみつからず、晋は沈黙する。

それに構わず、菅原は話を続けた。


「自分のために血塗れになってしまった兄をみて、妹さんはどう思うだろうね」

「……妹の意思は重要じゃない。俺は、あの子の命を救うためならば何でもする。たとえ、それが原因で妹が俺のことを軽蔑しようとも」

「勝手な言い分だな。傲慢にも程がある」

「俺は最初からそういう人間ですから」


それを聞いた菅原は、初めて歩みを止めて振り返る。

晋を射抜く瞳は、何かを憐れんでいるような眼差しだった。


「君は闇にあてられて盲目になっている。今一度、自分が言った台詞をよく反芻してみるといい」

「……余計なお世話だ」

「自分を犠牲にした愛は、いずれ哀しい結末を招く」

「……」


再び歩き出した菅原の後に続く晋。

それ以降、二人に会話はない。

いきなりついてこいと命令したかと思えば、何の脈絡もなく愛だの何だのと説教してくる菅原に対し、晋は変な奴だという感想しか抱かなかった。


しばらく黙って歩いていた二人は、何やら物騒な物を色々積んである輸送車の前で止まった。


――凄い武器弾薬の量だな……伊達に日本の盾と豪語しているワケじゃなさそうだ。


「ご苦労」


輸送車の前で待機していた自衛官に、菅原が言った。


「これは菅原一佐!何か御用でありますか?」

「この青年に、武器を渡してやってくれ」

「ハッ!了解致しました!」


畏まる自衛官の青年に背を向けると、菅原はさっさと晋を置いて歩き始める。


―― 一佐って……確か米軍でいう大佐に相当するんだっけ?何でそんな偉い人物がわざわざ俺を……。


「えっと……とりあえずこちらへどうぞ」

「あ、はい」


晋は考えるのをやめ、とりあえず目の前にいる自衛官の言葉に従った。


「おや?貴方はさきほどの……?」

「え?」


今まで気づかなかったが、晋の目の前にる自衛官は晋と綾乃を医療テントに案内した人物だった。

よく見ると、その顔はとても若く、恐らく晋と同い年と思われる。


「あ、医療テントまで案内してくれた自衛官さんですね。先ほどはどうもありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして。妹さんの様子はどうですか?」


そう聞いてくる自衛官は、どうやら本気で心配してくれているようだ。

好感が持てる人物だ。


「おかげさまで、なんとかなりそうです。今、新井さんがウィルスの特効薬を作ってくれています」

「おぉっ!ウィルスの特効薬ですか!それは凄い」


晋は、この市役所に着いてから初めて笑顔を浮かべた。


「あ、すいません!会話に夢中になっちゃって。とりあえず……よいしょっと。これをどうぞ」


そう言って自衛官が輸送車の積荷から取り出してきたのは、アーミーナイフ、四つのマガジンポーチが付属したホルスターとSIG P226だった。


「あれ?これって自衛隊で使われている拳銃じゃないですよね?」

「よくご存知ですね。それは警察の方々が武器庫から持参してきた物ですよ」

「むぅ……そういえば一般の警官に混じって、全身黒い防護服に身を包んだどこかの特殊部隊のような人達がわんさかいたような……」

「そこは深くツッコんではいけません」


――それにしても、国民を護るべき立場にある自衛官が、護る対象である民間人に銃を手渡す日が来ようとは。どうしようもなく世も末だな。


「そんな目で見ないでください……。こちらとしても心苦しいんですから」

「あっ!いえ、決してそんなつもりは……すみませんでした」


悲しそうに目を伏せる自衛官に、晋は慌てて謝罪した。

別に自衛官に悪印象を抱いていたワケではないので、晋は本気で申し訳なく思った。


「お気になさらず。所詮は、国民を護れなかった自衛官ですから。ところで、銃を撃った経験はありますか?」

「去年、ハワイ旅行にいったときに、一度だけ」

「そうですか。なら、ある程度の心構えはありますね。でも、一応扱い方の説明はさせてください――中略――以上になります」

「わかりました」


晋はジャケットを一旦脱いで、アーミーナイフを左胸辺りに装着した。それから、P226のセットを貰い受けると、早速ベルトと一緒に装備する。

ホルスターからP226を抜いて、手触りを確かめした。

ロックを外してからスライドを引き、弾丸を装填する。


「手馴れてますね」

「あぁ……ちょっと恥ずかしいんですが、高校生のときにこれと同じモデルのガスガンを買ったんですよ。まさか、実物を手にすることになるとは思いませんでしたが」

「なるほど。……実は僕もガスガン持ってました」


お互いの暴露話に軽く笑いあう二人。

それは、同世代の友人を得たときの和やかな笑みだった。


「あ、それから……どっこいしょっと。どれでもお好きなものを選んでください」

「む?」


おじさんくさい掛け声と共に自衛官が別の輸送車から用意したのは、明らかに自衛隊が持参したものではないと思われる銃器の数々。


様々なアサルトライフルからショットガン、サブマシンガンにスナイパーライフル、グレネードランチャーまである。


「オイオイ……さすがにこれは……こんなものどこから?」

「えっと、規則により口外できないので何とも言えないのですが、すべて押収品です」

「え?もしかしてこの輸送車一台分全部?」

「はい」


――どこから押収したんだよ、こんなモノ……。


さすがに晋もこれには呆れたが、状況が状況だ。貰える物は貰っておくに限る。


「う~ん……まさしく選り取り見取り。てか、このミニミとかどう考えても一人で扱える代物じゃないだろ……」


何だかんだブツブツと呟きつつ色々と物色した結果、晋が選んだのはアサルトライフルのひとつ、H&K G36Cだった。

この銃は、とてもコンパクトで軽いのだ。

アサルトライフルらしく、充実した装弾数と威力も魅力的で、ゾンビの耐久力を考えるに、わざわざフルオートにしなくても、セミオートでの応射で必要十分の殲滅力を得られるだろう。

そんなことを考えながら、晋は自衛官から専用のマガジンポーチを受け取り、腰の後ろあたりに引っ掛けた。


「むぅ、さすがに腰が重くなってきたな」

「私服では色々と限界がありますからね、当然でしょう。あ、そのライフルはこのケースに隠して持っていってください」

「わざわざケースに入れるんですか?」


晋が銃を渡されたということは、他の生き残った市民も当然貰っているだろう。

いくらアサルトライフルが目立つとはいえ、わざわざケースで隠す理由がわからなかった。


「実は、他の市民の方々には拳銃だけしか渡していないのです」

「む……?」

「下手にサブマシンガンやらアサルトライフルを持たせた状態でパニックになられたら、こちらが危険ですから」


――なるほど……パニックに陥った市民が無闇に乱射したあげく同士討ち、なんてことになったらさすがに笑えないもんな。でも……。


「それを言ったら、俺だってパニックにならない保障なんてありませんよ?」

「貴方なら大丈夫でしょう。何せ、自力でここまで辿り着けたくらいなんですから」

「バイクがなかったら、どうなってたかわからないですケドね……」


――というより、今頃死んでるかと。


とりあえず、晋はG36Cを専用のアタッシュケースに仕舞った。

パチンと小気味良い金属音をたてて、ケースのロックが閉じられる。

それから、脱ぎっぱなしだったジャケットを着た。


「本当は使わなくて済むのが一番なのですが、いつ奴等が現れるとも知れませんし」

「そういえば、ここらへんはゾンビ見ませんね」

「えぇ、市役所に立て篭もる際に、辺り一帯のゾンビやら犬やらは排除しましたから」

「なるほど」


できるなら、これらを使わなければならないような事態は起きてほしくないものだ。

そう思いながら、晋はアタッシュケースを手に取る。


「あと6時間ほどで輸送ヘリの第二陣が到着する予定です。それまで、身体を休めておくといいでしょう」

「はい、ありがとうございました」


そう礼を返した晋は、綾乃が治療を受けている医療テントへと引き返した。


――そういえば、医療テントを襲おうとした連中……銃は所持していなかったっけ。自分達の手で直接始末をつけたかったのかな。


「まぁ、今更どうでもいいか」


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