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THE RED MOON  作者: 紅い布
13/26

宛先:読者様 件名:奇跡とはなんですか?

晋の視点の一人称です。

◆◆ PM 20:28 ◆◆


「や、やった!抗体ですっ!!これで特効薬が作れる!!」


目の前の白衣を着た男が何かを言っている。

名前……何て言ったっけ……?まぁ、どうでもいいか。


「喜んでください!!貴方の血から抗体が発見されました!!これで特効薬が作れるんですよ!!まるで……いや!正真正銘の奇跡だ!」


目をキラキラと輝かせながら、何かを叫んでいる。

その様子は本当に嬉しそうで、今にも小躍りしそうだ。


それにしても、ウィルスの抗体?特効薬が作れる?何を言っているんだ、こいつは。

どうでもいいよ、そんなの。

もう……俺を放っておいてくれ……。


「何を呆けているんですか!?しっかりしてください!妹さんは助かるんですっ!!助かるんですよっ!!」

「え……?」


こいつ、今何て言った?

妹が助かるっていったのか?妹って誰だよ?俺はそんな名前の奴知らないよ。

ん……?妹……?


「妹って……誰の?」


興奮が冷めたのか、白衣の男はずれかけていた眼鏡を正すと、一言一言を子供に言い聞かせるようにゆっくりと言った。


「貴方の血から、ウィルスの抗体が発見されたのです。これで全ての材料が揃いました。今すぐ特効薬を作ることができます。貴方の妹さんは助かるんですよ……お兄さん」

「――っ!?」


助かるのか?綾乃が助かるのか?聞き間違えじゃないよな?

よし、勇気を出して聞いてみよう。


「俺の血で……綾乃が助かるんですか?」

「はい。そのとおりです!」


そう言って、男は俺の肩を優しく叩いた。


あぁ……助かるのか……綾乃。

よかった……よかった……。


「では、すぐに薬の作成にかかります。申し訳ないのですが、しばらく外に出ていてもらえますか?」

「あ、はい」


咄嗟に立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。

やべぇ、恥ずかしい。こんなんじゃいかん!

ほら!頑張れ俺の脚っ!!


「よいっしょ……!!」


なんとか自力で立ち上がることができた俺は、いうことを聞かない脚を心の内で叱咤しながら、フラフラとテントの出口に向かった。

そのまま外に出ようとして、歩みをとめる。


背中に視線を感じつつ、俺は言った。


「妹を……どうかよろしくお願いします。それと、今までの無礼な態度の数々……深くお詫びします」

「いえいえ、気にしていません。妹さんは任せてください。私が必ず助けてみせます!」


白衣の男――あっ、新井さんだっけ?の力強い言葉を聞いた俺は、今度こそテントを出た。


「ふぅ……」


空を見上げてみた。

生憎と曇っていて星はみえない。

まぁ、曇っていなくてもここから見える星なんて大したことないんだケド。


「よかった……綾乃、助かるのか……」


むぅ……言葉に出したらなぜか涙出てきた。ここはなんとか我慢しないと!


「――ん?」


ギリギリで泣くのを我慢したところで、前方から複数の気配が。


暗くてよく見えないが、何やら殺気だっていることだけは把握できた。


その殺気だった集団は、どうやら綾乃と新井さんがいるテントに用あるようだ。


まぁ、少なくとも「怪我したので手当てしてください」って理由じゃなさそうだな。


ん?なんだ?何人か鉄パイプ持ってない?


……どうやら、いつまでもヘタレってるワケにはいかないみたいだ。


「おい、お前!そこをどけっ!!」


この格好は……生き残った一般市民か。


「……どうしてさ?」


今、綾乃を助けるために新井さんが頑張っているところなんだ。お前みたいな殺気だった奴を通すワケねぇだろ。


「いいからどけっ!!!お前、ここにいる奴が誰かわかってるのか!?」

「知らない」


――大体予想はついてるけどね。

リーダー格っぽい体格のいい男があらん限りの声で怒鳴ってくる。

うるせえな……そんな近くで怒鳴らなくてもちゃんと聞こえてるよ。

もう面倒だからこいつ市民Aでいいか。


「そこの奥にいる新井って奴はこの街をこんなにしやがった製薬会社の研究員なんだよッ!!」

「あぁ……なるほど」


この街を滅茶苦茶にした原因って、例の製薬会社のせいだったのか。まぁ予想通りっちゃ予想通りだけど。

ホント、とんでもないことをしてくれたもんだ。


「あいつのせいで街が滅茶苦茶になったんだ!!だから、化け物に喰われていった皆の代わりに八つ裂きにしてやるんだよ!!!わかったらそこをどけっ!!!」


う〜む……頭に血が上っているな。ホントに新井さんを血祭りにするつもりか。

まぁ、恨む気持ちも理解できなくはないけど、だからといって今彼を差し出すワケにはいかない。


「少しだけ待ってくれないか?彼は今この街に流行しているウィルスの特効薬を作っているところなんだ。俺の妹が助かるかどうかの瀬戸際なんだよ」


これだけいえばわかってくれる――


「そんなの知ったことか!!どかないっていうなら、お前から先に八つ裂きにしてやる!!!」


――ワケないか。


問答無用で鉄パイプを振りかぶってくる……名前も知らない市民A。

ただ力任せに振るだけで、構えも何もあったもんじゃない。

そんな下手糞な攻撃に俺が当たってやるとでも思ってるのか?

……ド素人が。


少し頭を下げて鉄パイプ軽く避ける。

隙だからけの顎元へ、遠慮なく後ろ回し蹴りをかました。


「があっ!?」


俺の蹴りを顎に喰らった市民Aは、仲間の市民アルファベット多数を巻き込みながら大きく後方へ吹き飛んでいった。


ちなみに、今のは十分手加減した一撃だ。本来の力の半分も出していない。


「こ、この野郎……!!」


おぉおぉ、目が座ってるよ。こりゃあ本気で殺る気だな。

周りの市民アルファベット多数からも殺気が溢れてきてるし、そろそろ気持ち切り替えるか。


俺は頭の中でスイッチを切り替えた。こうカチっと。


「今のは手加減した。でも、次はない。無理矢理ここを通ろうとする奴は俺が殺す。俺に襲い掛かってきた奴も問答無用で殺す」


殺気ではなく、殺意を込めて、言葉を放つ。

なぜなら、これは嘘でも冗談でもないからだ。

この警告を無視した奴は、全員殺す。無垢の一般市民?知ったことか。綾乃の命を脅かす輩は、たとえ小虫一匹であろうと全力で殺してやる。


「……この人数相手に、素手でやる気か?」

「関係ない。お前らがここを通ろうとするなら、全員纏めて殴り殺すだけだ」


周りを囲んでいた市民達が俺の殺意に怯み始めている。

ちっ……この程度でオドオドするくらいなら初めから来るんじゃねぇよ。


「……てめぇみたいなに若造に、家族を殺された奴の気持ちがわかるのか!?あぁ!?」


家族を殺された者の恨みか。同情はするけど、絶対にわかりたくない。


「わからないし、わかりたくもない。でも、ここでお前らを通せば、俺は命よりも大切な妹を失うことになる。……そうなるくらいなら――」


そうなるくらいなら――っ!!


「この場に集まっているお前ら十数人を一人残らず皆殺しにしてやる。そうなればウィルスの特効薬が無事に完成して俺の妹は助かるし、この先大勢の人間の命を救うことができる。めでたしめでたしの大団円だ」


例えこの全身を返り血塗れにしようとも、俺は自分の大切な人を最後まで護ってみせる。


「てっ、てめええぇぇぇッ!!!」


完全に逆上した市民Aと、それに触発された数人が鉄パイプを振りかぶりながら突っ込んできた。

ハッ!バカにつける薬はないってか。

仕方ないから可哀想なバカ共にサービスだ。無料であの世に送ってやる。

せいぜい天国で一家団欒を満喫してこいよ。


俺は特に構えもせずに、ただボーっと突っ立った。ただし、右手だけは貫手の形にして。

一瞬で片をつけてやる。

悲鳴をあげる暇さえ与えはしない。

喉、眉間、動脈、臓器……。知る限りの急所を貫手で一刺し。

それでお終い。


市民達が間合いに入った。


俺は上体を低くして、一気に――!


――ドンッ!!


抜き手で一人目――市民Aをこの世から葬ろうとしたら、ちょうど俺と市民Aの中間あたりに派手な火花が散った。


これ、実弾かよ。


ふと銃声のあった方向を振り返ってみると、ハンドガンを握っている一人の自衛官を中心に、二人の自衛官がアサルトライフルを持って立っていた。


今の発砲は……ハンドガンを持ってる奴の仕業か。


「いかに一般市民とて、害をなす人間を生かしておけるほど今の我々には余裕がない。次に事を荒立てた奴は容赦なく射殺する」


偉そうな自衛官の鋭い眼光で睨らまれた市民アルファベット多数達は、蜘蛛の子を散らすように退散していった。


「お前達は医療テントを見張っていろ」

「「はっ!」」


ふむ。威風堂々たる風格。上級士官か?

ま、どうでもいいけど。


「それからそこの青年。ついてきなさい」

「……」


げっ!お呼ばれされてしまった。なんで俺だけ?

どうしよう。まさか、どこかテキトーなテントの中でアッー!なんてことには……。


「早くついてきなさい」


なるワケないか。


俺は素直に偉そうな自衛官の男の後ろをついていった。


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