4 いとあやしく(森の狩人視点)
夢を見ているのかもしれない。
ここは、「黒の森」。しかも今は夜。
鬱蒼と茂った森が、真実の姿を見せるのはこの時間だけなのである。
いくつかの国の領土となっているが、10年前のスタンピートのせいで近づくものはほとんどいない。
それこそ、男のように狩をして生きるものしか、この森には立ち入らない。
だが…と男は思う。
この光景は、それならなんなのだろうと。
いつも通り入った森の奥地で、うすぼんやりと光が見える。
魔獣かも、と思い、近づいた男が見たものは、女神、いや妖精だった。
微かな光を放つ精霊達に囲まれ、植物の蔦で作られた鳥籠か…天蓋つきの寝台のようなもの。
そしてそこにいたのは、銀髪の、眠り続ける麗しい少女だった。
星の光と精霊の光で美しく輝く髪。
目を閉じていても分かる整った容姿。
ー長い睫毛にすっと通った鼻梁、そして柔らかさのある唇。
男ははじめ、貴族の捨てられた子かと思ったが、それはないだろう。
なぜなら、人間になかなか近づかぬ精霊達を、まるで姫君と臣下のように侍らせているのだから。
この少女は…人間ではない。
居心地の悪さを感じつつ男はそう結論付け、森をあとにした。
危うく、ティルフィアは誘拐されるところであった。危害さえ加えられなければ、また、害意がなければ、簡単に連れ去られてしまう状況なのである。