『おうし座の君へ。』
おうし座の君と手を繋げなかった。いつまで経っても繋げやしなかった。
気がつけばもう卒業して何年経つんだろ。
「笑えないや。」
数学の時間、答えられなくってくしゃあって笑う君の笑顔が好きだった。
あたしもあんな風に笑いたかった。
でも、無理でした。
だって、何もかもが違うから。
「生れ落ちた世界とか。」
「与えられてきた愛の数とか。」
嬉しい気持ちとか、楽しい記憶とか、全部、全部、足りないんだ。
1から100引いたって足りないくらい、あたしはマイナスで空っぽなんだよ。
ことあるごとに空っぽが疼いて壊れそうになる。
砕けそうになる。
スクラップになっちゃうよ。
でもね、そんなときに記憶の中の君の笑顔があたしを引き留めてくれる。
「壊れちゃダメだよ。」って。
だから、なんとかやっていられるのです。
朝起きて、ご飯食べて、出かけられるのです。
君は何処にいるのかな。
何処で何をしてるのかな。
「ゴールデンウィークは6日がハブられるから気に入らない。」
窓際、風に吹かれて君はそう言っていた。
「ねえ、今年は6日休みだよ?」
何処かに出かけるのかな。
誰かと出かけるのかな。
きっと、あの頃とは違うだろうけど、
素敵な笑顔をしてるんだろうな。
大人で汚れ切ったあたしとは違う。
理想の大人の眩しい笑顔で笑ってるんだろうな。
「(叫び。)。」
おうし座の君と手を繋げなかった。いつまで経っても繋げやしなかった。
気がつけばもう卒業して何年経つんだろ。
「笑えないや。」
数学の時間、答えられなくってくしゃあって笑う君の笑顔が好きだった。
あたしもあんな風に笑いたかった。
でも、無理でした。
今でも無理なんです。
でも、いつか。
いつか、きっと。
あたしも手放しで世界を感じて、
心から笑えるようになんとか踏ん張って、
歩いていくから。
歩いていくから。