アブナイ町 1
それからしばらく軽トラに揺られる……いい加減そろそろ飽きてきた。
「……そろそろ、着かないのかな」
俺がそう言うと、助手席の方の窓からノエルが顔を出す。
「もうすぐ着く。準備、して」
それだけ言ってノエルは再び頭を引っ込めた。ということは……そろそろ王都っぽいものが見えてきても良いはずである。
俺は荷台の上に立ち上がり、キョロキョロとあたりを見回す。
「あ」
俺は思わず声をもらしてしまった。見ると、軽トラが進む方向に、いかにもな西洋風の城塞が見えている。その周りには小さな家……どうやら、あれが王都らしい。
「お、おお……ようやく異世界っぽいものに出会えた……」
「……魔法とやらは、異世界っぽくないのか?」
霧原がそう言うが……その魔法がイカサマに使われているようでは、異世界ファンタジー感は台無しである。
とにかく、ようやく俺も異世界転移者らしい体験ができる……そう期待して俺は荷台の上でワクワクしていた。
そして、それから十分程経った頃。
「……これが、王都」
「そう。正確には、王都の隣町」
ノエルが訂正を入れる。確かにそのとおりで、王都に行くと思ったトラックは、大きくカーブし、そのまま王都の隣の町に入った。
「え……えっと……この街は?」
俺はそう効きながらも今一度目の前に広がる町を見る。
一軒西洋風の町並みなのだが……どうにもおかしい。
異世界のはずなのに、至る所に俺が知っている文字や看板……おまけにケバケバしたネオンまで光っている。
それこそ、まるで俺が元いた世界の妖しげな繁華街……そんな様相を呈しているのである。
「この町、名前、ない。呼び方色々」
「え……色々って……例えば?」
「立ち入り禁止地区、無法地帯、ゴミ溜め……色々。ナベシマさんはそんな感じで、呼ぶ」
ノエルは無表情でそう言うが……なるほど、鍋島の言っている意味はなんとなくわかる。
そして、鍋島が俺の遠出を許可した理由も、この街がどう呼ばれているかで理解できた。
「え……ど、どうします? 伊澤さん」
軽トラから既に全員が降りてきていた。決定権は……どうやら俺にあるようである。
「……とりあえず、本店とやらに行くぞ」
俺はそういって、とりあえず、妖しげな町に入っていったのだった。




