王都への道 4
「……霧原さん」
「なんだ」
俺は隣に座っている霧原に訊ねる。
「……ここって、異世界ですよね」
「ああ、そうだな」
「……俺たち、今何やってんです」
「何って……移動しているんだ」
移動……霧原の言うとおりだ。確かに移動している。
しかし、異世界ファンタジーの移動といえば……転移魔法だろう。
それができないならば、せめて馬車とか……そういうのが定石である。
だが、今、俺たちはそのどちらでもない移動方法を用いている。
「じゃあ……なんで俺たち、軽トラの荷台に座っているんですかね」
そう。俺と霧原は今、軽トラの荷台に座っていた。道が悪いため、時折ガタガタと揺れる……それ以外は完全に軽トラに揺られているだけの存在だ。
「なんで、って……二人乗りだからだろ」
その通り。運転は唯一運転ができる里見。助手席にはノエル……結果として俺と霧原は荷台に座ることになった。
「いや、まぁ、そうなんですけど……」
俺が言いたいのは……どうして異世界に来て、移動手段が軽トラなのか、ということである。
無論、親しみのある移動方法ではある。だけど……あまりにも情緒がなさすぎるではないか。
「なんだ。歩いて行きたかったのか?」
「……違いますよ。はぁ……っていうか、霧原さん、運転できないんですね」
そう言われて霧原は少しバツの悪そうな顔をする。確かに意外だった。どう考えたって運転はできそうだったからである。
「ああ。まだ免許、持ってないからな」
「免許って……ここ、異世界ですよ? 別に免許なんて必要ないでしょ?」
「そうかもしれんが、そもそも、俺は運転したことがない。近藤の親父が運転は二十歳になってからだとか言ってたからな。なった途端にこの世界に送り出されちまったから……」
「……え? 二十歳……霧原さんって……二十歳なの?」
俺は思わず唖然としてしまった。霧原は相変わらずの仏頂面で小さく頷く。
「ああ、そうだ。お前は……違うのか?」
霧原も少し怪訝そうな顔をする。もしかして……霧原は俺のことを、俺と同い年だと思っていたのか……
「あ……うん。一応今年で、22歳」
俺がそう言うと霧原は少し気まずそうな顔をした。俺もものすごく気まずかった。
しばらく軽トラがガタガタと揺れる……俺も霧原も何も喋らなかった。
「……なぁ。その……もう一つ聞いていいか?」
と、霧原が遠慮がちに話を再開する。
「え……な、なんですか?」
俺がそう返事すると、霧原は眉間に皺を寄せる。
「……敬語はやめろ。年上なんだから」
「あ……あ、ああ。えっと……何?」
それから少し迷ったように霧原は黙った後で、俺に聞いてきた。
「……里見の奴は、何歳なんだ?」
その質問を聞いて、俺は何も言えなかった。ただしばらく軽トラの振動に揺られていた。
「あー……そういうのは……聞かない方がいいんじゃない?」
「……そうか」
俺がそう言って、俺と霧原の会話は一端終了したのだった。