王都への道 3
それから、数十分ほど……なかなかノエルが帰ってこないので、俺たちはアパートの前で待っていることにした。
「……ノエルさん、帰ってこないですね」
里見が不安げな感じでそう言う。俺も不安だった。もしかして、鍋島が俺の王都行きに難色を示しているのか……実際、俺が王都に行ってそのまま姿をくらます……そういう可能性が完全に否定できるわけではない。
「しかしよぉ、お前に依頼をしてきたのは、鍋島組の若頭なんだろ? だったら、親父さんもだめとは言わねぇんと思うが」
そこで霧原がそんなことを言う……たしかに言われてみればそうか。そこまで心配する必要はないのかもしれない。
そんなときだった。
「……ん? なんだあれ」
アパートのはるか向こうから……何かがやってくる。見覚えのあるような物体がこちらに向かって走ってくるのだ。
「あれって……もしかして……」
里見がそういうように、俺も同じことを思っていた。あれは、間違いなく……
「……軽トラだな」
霧原が冷静にそう言った。白い軽トラがこちらに向かって走ってくるのである。
「え……この世界、車とかあるんですかね……」
「いや、たぶん、あれは……」
「霧原ちゃーん! 伊澤さーん!」
と、軽トラの窓から手を振っているのは、アロハシャツのおっさんだった。
「あ、ああ……なるほどね」
どうやら、数多の重火器と同様……軽トラも、向こうの世界から持ってきたもののようだった。
程なくして、俺たちの前に軽トラは停止した。
「いやぁ、話は聞いたで。もちろん、OKや」
快活に嬉しそうに、鍋島は俺に向かってそう言った。
「あ、ああ……ありがとうございます」
「それはこっちのセリフや。まぁ、王都までは遠いからなぁ。せめてもの餞別やと思ってくれてええで」
「……え? 餞別って……」
俺はそう言われて目の前の軽トラを見る。
「せや。これで、王都まで行ってや」
「え……ノエルの魔法で行くんじゃ……」
「何言っとんねん。あの魔法は結構貴重なんや。向こうの世界とこっちの世界を行き来するために使うもんや。この異世界での移動は、軽トラで充分やろ」
そう言われて、俺はものすごく気不味い気分になる。
「……あの、鍋島さん」
「ん? なんや?」
「……俺、車、運転したことないんです」




