王都への道 1
「……王都? ギンジ……それ、本気で言っている?」
アパートに戻り、俺はすぐさまノエルに相談する。この異世界のことならば、ノエルに聞くしか無い。
「ああ。そうだ……頼むよ。お前だって、俺がちゃんと借金返した方がいいだろ?」
俺がそう言うとノエルは少し怪訝そうな顔で俺を見る。
「……その話、ホント? ギンジ、王都行って、逃げるつもりでは、ない?」
「は? おいおい……俺は借りたものは返す人間だよ? そんなことするわけないだろ?」
正直、それができればいいのだが……右も左もわからない異世界で逃亡するのは、借金を踏み倒すことよりも危険である。
「あの……ノエルさん……私からも……お願いします」
と、俺と一緒にノエルの部屋に来ていた里見もノエルにそう言う。ノエルはそれを見て大きくため息をつく。
「……エレナが、そう言うなら……その話、信じる」
ノエルはそう言って渋々立ち上がる。そして、そのままなぜか部屋を出ようとしていた。
「え……どこに行くんだ?」
「……ナベシマさんの所。ギンジを王都に連れて行っていいか、聞きに行く。だから、待ってて」
そういって、ノエルは外に出ていってしまった。
「……なんとか、なりそうですね」
里見はそういって元気なさげに笑う。どうにもコイツの笑顔を見ているとこちらまで気が滅入ってしまう。
「そうですね……いやぁ、でも、これも里見さんのおかげですよ」
と、俺がそう言うと里見は目を丸くする。その後、恥ずかしそうに俺から目を逸した。
「え……どうしたんですか? 里見さん? 俺、なんか変なこと言いました?」
「いえ……その……私……そういうこと、男性から言われたこと……ありまでんので……」
そう言ってから、里見は俺の方に顔を向けてくる。その顔は、なぜかとても真剣で……まっすぐな瞳で俺のことを見てくる。
「あの……伊澤さん」
「え? な、なんですか?」
「その……信じてもいいですか?」
「信じるって……何を?」
「その……伊澤さんのことを、です……」
里見は真剣な調子でそういう。ここで返事する答えとしては……
「え、ええ……もちろんですよ。信じて下さい」
そう言うと里見は精一杯嬉しそうな顔で笑った。俺もとりあえず笑っておく。
「よかったです……私、伊澤さんの力になりたいです……一緒に頑張りましょうね」
「え、ええ。もちろんです。早く借金返しましょう」
里見はニコニコ笑っている。何か不味い返事をしたような気がするが……とにかく王都に行ければいいのだ。
俺はそう思い、ノエルをとにかく待つことにしたのだった。