好機の到来
「……はぁ? スカウトって……どうやって?」
流石に俺も驚いてしまった。あまりにもいきなりわけのわからないことを言われたからである。
しかし、黒服の佐崎は、表情を変えることなくその先を続ける。
「無論、方法は一つです。王都に行って、本店から女の子を引っ張ってきてほしいのです」
「え……王都? 本店? ちょ、ちょっとまって……そんないきなり色々言われても……説明してくれませんか?」
俺がそう言うと佐崎は小さく頭を下げる。
「申し訳ない。まず……王都とは、この世界の首都……皇帝がいる都市です」
……なるほど。この世界どうやらいわゆる異世界の決まりごとにならって、どうやら王様がいるらしい。そして、その拠点も。
「しかし……本店って?」
「ええ。本店は王都に出店している店です……無論、それは黒極会だけが仕切っているわけじゃないんですが……便宜上、本店って呼んでます」
よくわからないが……とにかく、この閑古鳥が鳴いているキャバクラよりはマシな店が、その王都とやらには存在しているらしい。
「……でも……仮にですよ? 王都まで行けたとして……本店から女の子、引っ張ってこられるんですか? だって、本店って……名前的にはどう考えてもここより給料いいでしょ?」
そう言うと、佐崎は小さく頷いたが、先を続ける。
「ええ。もちろん。ですが、本店は競争が激しい。上位十人でなければ、給料はここと似たり寄ったりでしょう。ですが、もし今ここに誰か女の子を連れてこられれば、本店とまではいかずとも、本店の最下位よりはマシな給料を払うことは可能です……そう言えばきっと来てくれる女の子もいると思うのです」
佐崎は真面目な顔でそう言っていた。
どうやら、マジで女の子をこの店に連れてきてほしいらしい。
「……約束できませんよ? 俺、スカウトなんてやったことないし……女の子を連れてくるのも難しそうだし……」
俺がそう言うと、佐崎はポケットに手を突っ込んだ。まさか、やらなければ今ここで消されてしまうのか? と思って、俺は思わず身構える。
しかし、佐崎が取り出してきたのは……札束だった。
「え……これは?」
しかも、相当な大金……ざっと見てもそれこそ、1億ペスカくらいはありそうである。
つまり……今俺の目の前には100万円がポンと置かれているのである。
「これは、前金です」
佐崎は渋い声でそう言った。俺は思わずゴクリと生唾を飲み込む。
「もし、女の子を一人でも連れてきてもらえれば……もう1億ペスカ、追加しましょう」
「え……じゃ、じゃあ……一人以上だったら……」
俺がそう言うと佐崎はもちろんだという顔で頷く。
「ええ。いくらでも追加します。これは、私個人の以来です。親父は関係ない。この金もこの店の金だ……伊澤さん。アナタを見込んで頼んでいるんです……どうか、お願いします」
佐崎はそう言って、頭を下げる。
そう言われてしまっては……俺もやらざるを得ない。というか、やるに決まっている。
「……わかりました。乗ります。この話」
俺はそう言った。どうやら、ようやく俺にも運が回ってきたらしい。
「やりましたね……伊澤さん」
そういって、卑屈な笑みを浮かべる里見……こんな機会を得ることが出来たのも、この里見のおかげ……もしかすると、俺にとってこの里見は割りかしアゲマンなのでは? なんてことを俺は思ったりしたのだった。




