夢の場所へ 5
「申し遅れました。私、鍋島組若頭の佐崎と申します」
そういって、グラサンの黒服は俺に小さく会釈してきた。
鍋島組……若頭……
「え……じゃあ、アンタ、鍋島さんの……」
「はい。親父から伊澤さんの話は聞いております。親父と賭け事で争ったそうですね。面白い方だ」
佐崎は無表情のままでそういう……全然面白いと負われている気がしない。
「え……それで……何か用? もしかしてお会計? まだビール一杯だよ? これで1億ペスカとか言われるのはさすがに……」
「いえいえ。そんなボッタクリはいたしませんよ。むしろ、今日は伊澤さんの代金は全てタダでいいですから」
……思わず目を丸くしてしまった。しかし、佐崎は冗談を言っているようには見えない。
「え……本当に?」
「はい。私は親父と違って駆け引きとかそういうこと、できない質なんです」
そういって、佐崎はグラサンの奥から、俺のことを鋭く見据える。
「しかし、伊澤さん。アナタは違う。親父とやりあったくらいの男だ」
「え……やりあったというか……完全にしてやられた感じなんですけど……」
「そこは問題じゃない。親父と賭け事をやる……そこが大事なんだ」
佐崎はそう言って、今度は里見の方を見る。
「エレナちゃんから聞いたと思うんですが……現在このキャバクラは、完全に閑古鳥が鳴いています。ほとんどお客は来ないし……お店が成り立っているのも半ば、親父の趣味みたいなもので……」
「え……鍋島さんの?」
「はい。元々、キャバクラ経営は親父の趣味でした。最初は色々女の子を集めたんですが……結局、親父が飽きるとその子達も全員解雇してしまって……後処理として私が店長になり、借金返済のためにエレナちゃんが今の今まで働いているというわけです」
そう言って、佐崎は申し訳なさそうにエレナの事を見る。
「あ……佐崎さんは悪くありません……私が……」
「……こう言うのも失礼なんですが、エレナちゃんは正直、キャバ嬢に向いていないと思います。それなのに、半ば無理矢理こうやって働かせているのは、私としても申し訳ないんです」
そう言うと、佐崎はまた俺の方に向き直る。
「そこで……伊澤さんを見込んで頼みがあるんです」
「え……俺!?」
「はい」
すると、佐崎はいきなり立ち上がって、大きく頭を下げる。
「どうか……このキャバクラで働いてくれる女の子を……スカウトしてきれくれないでしょうか?」




