夢の場所へ 4
「……どうぞ」
そして、俺と里見は座ってしまった。
いわゆる、あの……キャバ嬢に接待してもらう席に、である。
……これでは、完全にキャバクラに来た客とキャバ嬢だ。
借金を返済するために異世界に来ているのに、なんで異世界でキャバクラに来ているのか……
「え、えっと……里見さん」
「え……なんですか?」
里見が目を丸くして俺に訊ねる。
いつもよりきちんと化粧しているので、里見であるはずなのに、俺は思わず戸惑ってしまう。
「その……お金とか……大丈夫なんですかね?」
俺がそう訊ねると、里見は小さく微笑んだ。
「ええ……大したものはありませんから、お金も大してかかりませんよ……飲み物とかどうされます?」
「え……じゃ、じゃあ、とりあえず、ビール……」
俺がそう言うと、里見は立ち上がって行ってしまった。
しかし……
「……客が……いない」
まるで客がいない。それこそ、閑古鳥の泣いている飲食店のような……
内装だけは豪華だが、どう見でもキャバクラにしては客がいなさすぎるのである。
「はい。どうぞ」
そして、里見は俺にグラスを持ってきてくれた。
「あの……里見さん。その……他の客は?」
俺がそう訊ねると、里見は恥ずかしそうに俺を見る。
「あ……あはは……その……ほとんどいないんです」
「へ……いない?」
「はい……」
申し訳なさそうに、指と指を交差させる里見。
「その……今まで人気だった女の子がこのお店から抜けちゃって……ほとんど人が来なくなっちゃったんです……」
「あ……え、それって、つまり……」
俺が気まずそうに里見を見る。里見は悲しそうに目を伏せながら、小さな声で言った。
「……私、人気ないんです」
「あ……ああ……」
なんとなく、理解はできた。どう考えても里見はキャバ嬢という職業には向いていないからである。
「あ……じゃあ、一日十万ペスカの給料って……」
「はい……ほとんどお客がいないから、お給料が……出ないんです」
なるほど……悲しい理由とその結果が理解できた。
しかし……なんともどうしようもない話である。
「う~ん……里見さん、このお店にはどんな人が来るの?」
「え……それは……この世界の冒険者の人とか……そういう人がたまに来る程度で……」
「それに対して女の子はどれくらい?」
すると、里見は気まずそうな顔で俺を見る。意味がわからなかったが、俺は里見の話の続きを待った。
「……私、一人です」
「はぁ!? 一人!?」
思わず大きな声で叫んでしまった。
「え……じゃあ、今までどうしてたのよ?」
「だから……一番人気の女の子目当てにたくさんの人が来てたんです……私はいつも端っこで一人で飲んでました……」
またしても悲しいことを言い始める里見。
しかし、全てが理解できた。このキャバクラが完全に閑古鳥が鳴いている理由、そして、里見の給料が低い理由も……
「はぁ……『ラブ・ドリーム』って……愛も夢もないじゃないか……」
「ええ、その通りなのです」
思わず俺は、飲もうとしていたビールを吹き出してしまった。
「ゲホッ……な、何?」
俺が振り返った先には……先程、扉の前で門番的役割をしていた黒服の男が立っていたのだった。