完全なる注文 8
それから、俺と里見は鍋島に言われたとおり、一本道だという隣の村への道を歩いていた。
会話も特になく、ただただ無言のままに歩いて行く。
……少し気まずい気分にさえなってきたレベルである。
「あの……伊澤さん?」
と、里見の方から話しかけてきた。俺は里見の方を見る。
「え……どうしました?」
「……伊澤さんは、どうしてこの世界に?」
里見にそう言われて、俺は漸く思い出す。
そもそも、俺は悪くない。悪いのは俺を保証人にして姿をくらました河原美鈴である。
「あー……えっと、俺も人に騙されましてね……」
「え……そうなんですか?」
里見は気の毒そうな顔で俺を見る。騙されたというか……油断していたせいな気もするが。
「え、ええ……その子の借金の保証人になってまして……それで……」
「そう……なんですか。その人は今どうしているんですか?」
「え? あー……さぁ? 元いた世界にいるんじゃないですかね」
里見にそう言われれ俺はふと思う。
確かに、俺を保証人にした河原はどうしたのだろうか。
よく考えてみればこの世界に来る前、極道達は必死で河原を探していたという。しかし、どこかで読んだことがあるが、極道の情報網はすごいという。
それに対して河原は普通の女の子だった。そんな女の子が情報網をかいくぐって逃げ切ることが果たしてできているのだろうか。
「どうでしょう……わかんないですね」
「あ……そう……ですか」
里見はそう言って再び黙ってしまった。
河原のことはともなく……目下の問題はこの鍋島に押し付けられた仕事を無事に終わらせることだ。
俺はそう思って今一度道を歩く速度を早める。
すると……
「あ」
思わず俺は声をあげてしまった。
前方にようやく、村らしき建物が見えてきたからである。




