完全なる注文 7
「……はぁ」
「あの……大丈夫ですか?」
そう言われて、俺は声のした方を見る。
隣には、顔立ちは整っていて美人では有るのだが、いかにも幸薄そうな女が微笑んでいた。
「え……あはは……いえ。今日二回目のお使いなんで」
「え……そう……なんですか」
そういって、里見エレナは驚いた。
鍋島から言い渡された二回目のお使いクエスト……今度はノエルと……ではなく、里見と一緒に、隣の村まで行ってこいというものであった。
相変わらず用心棒の霧原がいなくて不安ではあるが……仕方ない。
「……しかし、これ、中身なんだろう」
俺はそういって、再び鍋島から渡されたアタッシュケースを見る。
今度は先程よりも軽いので……銃器ではないようである。
「ああ……それ、お薬ですよ」
「え? お薬?」
一瞬、ヒヤッとした。
極道モノから渡された中身がお薬のアタッシュケースって……どう考えてもそういう……
「それ、この世界の冒険者の人達が使うそうです。私は使ったことないですけど……」
「え……あ、ああ! 回復薬ね!」
思わず俺は納得してしまった。
いや、普通に考えればその通りである。いくら極道から渡されたからと行って……ここは異世界だ。
お薬といっても、そういう用途のものに限らないだろう。
「はぁ……」
と、今度は里見が大きなため息を付いた。
……そういえば、この幸薄そうな女とはあまり会話していないし、コイツがどういう奴かもよくわかっていない。
「……えっと、里見さん」
「はい? なんですか?」
「里見さんは……なんでこの異世界に来たんでしたっけ? 里見さんも……借金ですか?」
今更ながら、俺はそう聞いてしまった。すると、里見は自嘲気味に微笑んで俺を見る。
「ふふっ……そう見えます?」
「え? あ、いや……あまりそういう風には……借金とかしなさそうだし……」
「……騙されたんです」
と、里見はニヤニヤ笑いながらそう言った。
「え……騙された?」
「……結婚を約束した人がいたんです。その人はあまり働くとかそういうことはしなかったんですけど、私は支えてあげたくて……でも、ある日家に帰ったら……」
「帰ったら……?」
「フフッ……お家にお金がぜーんぶありませんでした。おまけに私の名前で借金までしていて……それで私、この世界に……」
……重い。
俺の事情よりも数十倍は重い。
「……でも、いいんです。この世界で会った人……特に借金のためにこの世界に来た人は……みんなあの人に似ていましたから……」
そういって、里見は俺のことをうっとりと見つめる。
気まずくなって俺は里見から顔をそむける。
「……俺は、借金返して、元の世界に戻るんで」
「ええ……一緒に、頑張りましょうね」
嬉しそうにそう言う里見。
……ある意味、この里見エレナは……ノエルより怖い女だと感じたのだった。




